小国の姫 大国の騎士

ななはら

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「アマーリエ様」

正装に身を包んだエーリヒは、いつもみたいに生真面目な顔をしていた。

「なあに?」

純白のドレスは何重にもなっていて、一歩歩くのも一苦労だった。だから私は、大きな鏡越しに、エーリヒに微笑む。エーリヒは端整な顔を苦しげにゆがめた。
彼はかつて、私の婚約者だった。

この結婚話がなければ今頃は―。

「アマーリエ様。お時間でございます」

召使のエマが、悲痛な顔で扉を開く。まるで処刑台にでも送り出されるような気分だった。





こんなに大勢の人間を見たのは初めてだった。
教会の前に立たされた私は、たくさんの人の視線を受けながら、花婿の元へゆっくりと、ゆっくりと向った。
私と同じ白い礼服を着た青年が、司祭の隣に立っている。
ようやく辿り着くと、青年はにこりと私を見下ろした。

―この人が、ジェイク・レネシス、将軍

若い。
そして、思っていたよりもずっと優しい顔立ちをしていた。私たちの国を襲った人と同一人物とは思えないほどに。
司祭の文句が終わると同時に、そっとヴェールをあげられる。
私にだけ聞こえる声で、ジェイクが低く囁く。

「わが国へようこそ。アマーリエ」

そうして、顔を傾けたジェイクが、そっと触れるだけの口付けをしたのだった。

「歓迎するよ」
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