一夜の善人

ななはら

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Hellogood-by

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そんな、この世で一番守りたかった人が。ひよりさんが、目の前で、手が届くほど側で、ぼろぼろと泣いている。

「なん…でっ」
「……ごめん」

僕はただただ胸が苦しくて、熱いものが目じりに、喉に、鼻に、全身にせり上がってきた。

ひよりさんの両面から溢れた涙が、フローリングの床に落ちる。

だけど、僕は泣くわけにはいかない。
僕はひよりさんに気持ちがないフリをしなければいけなかったし、僕が泣くなんておかど違いだろう?

ひよりさんは「やだ」と、か細い声をあげた。

なんで、ひよりさんの声は、僕をかき乱すのだろう。

ひよりさんは、僕に「どうして?」と聞く。

僕は「君より好きな人が出来た」と言う。

「ふ…うぅ」

ひよりさんは嗚咽をこらえながら、胎児のようにうずくまる。
手負いの獣みたいだ。

細い肩が、小さく震えてる。

ひよりさんは、優しすぎた。

「……わかっ…た」
「…ごめんな。もう、一緒には住めない」

僕は、リョウコの子供のことをとうとう話せず、荷物をまとめて、部屋を出る。

改めて思う。
ひよりさんが大好きだ。


時計を見ると、まだ22時で、なんでこんな事になったんだろう、と首を傾げてしまう。

会社帰りのサラリーマンや、自転車に跨った女子高生の集団が、コンビニの駐車場にたむろしていた。
いつもと変わらない光景。

僕とひよりさんだけが、絶望にたたされていた。



こんな時に持つべきものは、親友だ。

「ハセベ、ひよりと別れた」
「はっ?」

ハセベは、ドアノブに手をかけたまま、加えていたタバコを落とす。自分のはだしの上に。

「あっち!!」
「はは」

僕に、笑う資格ないよなぁ。

「あのさぁハセベ」
「…なんだよ」

僕を地獄へ突き落として。




あの夜から何度も何度も繰り返し、思うのは、どうして時間が戻らないのかってこと。


起きたことは、どうして消せない?





そうして、



彼女はいなくなった。
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