一夜の善人

ななはら

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Hellogood-by

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夕食を食べ終えた後
僕たちはまるでいつものようにのんびりした時間を過ごしていた。

なんだっけ。
こんな時間がなにより幸せだった思う
って歌があったな。

「ひより」
「んー?」
ひよりさんは、のんびりと振り向く。
テレビの中では芸人のネタバラエティがあっていた。
僕なりに気を利かせて、ひよりさんのお気に入りの芸人が終わったところで声をかけた。
「なあに?」
ひよりさん、ひよりさん、ひよさん。
ごめん。
「別れよう」

・・・

サークルの中でも、一番の美人で、一番のドジっこ。
それが、ひよりさんだった。

僕らのサークルは、野外活動部というなんとも曖昧かつ平凡で、いい加減なものだった。
好きな時に連絡をとりあって、飲み会を開いたり、キャンプをしたり、スキーをしたり。
すべては自由参加で、僕は友人の付き合いで入ったようなものだった。

ひよりさんはひとつ上の学年の先輩で、だけど先輩と呼ぶにはそそっかしく、頼りがいがなかった。
まあそこも彼女の魅力のひとつだったが。

とにかく、ひよりさんはそのルックスと守ってあげたくなるふわふわした雰囲気のおかげでサークル中の男が夢中になっていた。
もちろん僕もそのひとり。
そんな競争を勝ち抜いたなんて、今でも不思議なくらいだった。

僕は女性経験もなかったし、高校時代にはじめてつきあった彼女とは手を握るに留まった上、一週間でふられた。
そんな苦い経験もあって、まさに高嶺の花だったひよりさんに手を出そうだなんて微塵も考えていなかったのだ。

それが、なんのきっかけだったか、ひよりさんと話すようになって、ひよりさんも話しかけてくれるようになって、とうとう我慢できなくなった僕は、夏のキャンプの夜、彼女に告白した。
何千回も頭の中で振られた時を想定していたから、ひよりさんに「私も好きです」といわれた時は嬉しくて抱きしめてしまったほどだ。
僕の胸にすっぽりとおさまってしまうひよりさんの小さな身体と猫みたいにやわらかい髪。
今でもはっきりと覚えている。
人生で最高に幸せだった。

一年前に、ひよりさんは一足先に大学を卒業し、今は一般企業で働いている。
僕とひよりさんは学生時代からこっそりと同棲していて、それが、今でも続いていた。

早く僕も一人前に働いて、ひよりさんに頼られる存在になりたかった。
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