一夜の善人

ななはら

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Hellogood-by

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僕の答えがどうであれ、リョウコは最初からどうするか選択しているようだった。
「先輩に、迷惑はかけませんから」
「迷惑とか言うな」
そんな問題じゃない。
「オレにも責任はあるんだから」
そうだ。
リョウコひとりの問題じゃない。
僕だってちゃんと考えないと。
リョウコが、苦笑いする。
「別に、責任とってくれって言いにきたわけじゃないんですよ、ただ…」
そこでリョウコは言い淀んだ。
「…ただ、言っておきたかったんです。…すいません、言わないほうが、先輩にとっては良かったのに…」
僕は思わず大きな声になっていた。
「何言ってんだ。普通話すだろ。お前しか知らないんだから。オレはそんなこと気が回らないから、このまま卒業するところだったんだぞ」
「はい…」
リョウコはぎゅっと両手を握り締める。
「産むだろ?」
「……」
「リョウコ?」
「……言っていいのかわからないけど、産みたい、と思ってます。子育てがどれだけ大変かは、わかってるつもりですけど…おろしたくはなくて」
僕は、まったく実感も湧かないままに「だよな」と理解ある男のフリをして頷いた。
それ以外に、どう答えたら正解だったろう。
「大学はどうするんだ?」
「…休学しようかと思います。まずは親に話さなきゃですけど」
親。
そうだ。
リョウコはまだ学生なのだ。
僕とリョウコが延々とカフェで話し合ってもらちが明かない。
「先輩も、彼女さんに話します、よね」
「…うん」
「もし、家にいにくかったらあたしの部屋泊まってもいいですよ」
「ありがとう」
けれどもう、あのピンク色のカバーは見たくなかった。


ひよりさんと同棲して二年。
これまで大きな喧嘩もなく、仲良くやっていた。
こんなに、こんなに重い足取りでアパートに帰るのは初めてだ。
「ただいま」
狭い玄関で、フラミンゴのように片足だちになって靴を脱いでいると、奥からひよりさんが出てきた。
「お帰り、遅かったね」
狭い1LDKの部屋は、魚のにおいで満たされていた。
「…また焦がしたのか?」
「えへへ」
照れ笑いをした後、ひよりさんは「すいません」と頭を下げた。
「あっでも思ってるよりひどくないよ。食べられるよ!黒いところをむしったら」
「はいはい」
「本当だよ、私も我慢して食べたもの」
「オレにも我慢しろってか」
「…それ、は」
ひよりさんは思いつめたような顔をして「我慢していただくしか」と残念そうに言う。
さて、どのタイミングで言おうか。
この可愛い人に。
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