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赤土帯
近接魔法戦闘術
しおりを挟む「 零式 ?」
怪訝そうな表情のヨーコ。
「 "ゼロ距離" のファイアボールだよ」
「ゼロ距離、ですか・・」
考え込む素振りを見せるヨーコ。
「離れてFBを当ててもワームは倒せないだろ」
俺は解説する。
「お前の三連射は凄かったが 口の中に撃ち込んでも死ななかったし」
「確かに」
ヨーコが頷く。
しかしFQ初日、しかも魔法を始めて小一時間であそこまでやるか?
俺以上のバケモノだよ、お前は。
「だから額に手を密着させてFBを撃ったのさ」
「成程!」
ヨーコが理解したようだ。
手を頭に触れてFBを発動すれば火球はワームの頭の中に生成される。
皮膚や鱗や外殻で減衰されることなく全エネルギーを体内に送り込める。
脳は沸騰して頭蓋は破裂する。
「ゼロ距離だから "零式" だ。 お前も使えるぞ」
この技は俺のオリジナルだ。
ヨッシーに教わった知識を元に俺が考案したのだ。
俺が教えて貰ったのは具体的な技法ではなく基本的な知識のみだから。
正確に言うと 零式は "ゼロ距離" のみを意味するものではない。
"ゼロ距離" は 『対象に直接触れて撃つ』 というスタイルを表すに留まる。
加えて『ゼロ射程・ゼロ弾速』に"設定"したファイアボール, というのが正しい。
確かに通常のFBをゼロ距離で撃っても強力な必殺技となるだろう。
( 近接戦闘を嫌う魔導士には浮かばない発想だろうが )
しかし零式の破壊力はそれを遥かに凌駕する。
敵単体への攻撃魔法としては最強と言っても過言でない程に。
魔法のスペルには其々定まった 威力というものがある。
ヨッシーが言うにはそれは単なる破壊力とは違うんだそうだ。
”当たった時” のダメージではないんだって。
距離( 射程 ) や弾速をひっくるめての値なんだと。
"使い勝手" と言い換えてもいい。 "性能" と言えば分かり易いか。
例えば、
射程を半分にすれば ”当たった時” のダメージは4倍になる。
弾速を半分にしても ”当たった時” のダメージは4倍になる。
以下の式に由りそれでスペルの性能はイーブンになるのだ。
(性能 = 命中時の破壊力×当て易さ)
射程と弾速は分かり易いがその他にも様々な要素がある。
それらのパラメーターを ”具体的” に指定することが魔法の枢要なのだという。
( 『もっと速く』 とか 『もっと強く』じゃダメなんだそうだ )
但しスペルのパラメーターを指定するには条件がある。
魔法にはジョブスキルの他にもスペル毎のレベルがあるらしい。
( ヨーコのFBが次第にキツくなってきたのはそれもあるのだろう )
そのスペルを完全習得していなければならないのだという。
俺がヨーコと只管FBを撃ち続けた理由の一つがそれだ。
射程100m 弾速200km/h という俺のFBの射程と弾速をゼロにしたらどうか。
( 計算不能になるので完全なゼロ指定はできないのだが )
火球の破壊力は凄まじいものになる。
実際は火球の直径を拡大させているので "億"倍 レベルではないけれど、
これを受けて耐えられるモンスターなど存在しないだろう。
この "零式" は火系魔法に限った撃ち方ではない。
風、水、土など他の系統の魔法にも応用が利く( 筈だ )。
俺は剣士だった頃に魔導士達の戦いぶりを見て思っていたものだ。
『魔法って凄ぇな。 直接当てたら一撃で倒せるんじゃないの?』 と。
同じパーティの魔導士に言ってみたこともある。
しかし前述したように肉弾戦に忌避感を抱く魔導士達は一笑に付すばかり。
ヨッシーに言ったらやっぱり、「ムリだよ!」 て云われたっけ。
「皆、敵と直接組み合うのが嫌で魔導士になってるんだから」 だとさ。
まあ、それが切欠で魔法の事を色々教わったんだけどな。
俺の発想にも "それっぽい" 名前を付けてくれた。
「そのスタイルを実践するようになったら開祖を名乗ると良いわ♪」
と 言って。
・・・確か そう。 『 近接魔法戦闘術 』 ( ネーアン・マギー )。
特に何語とかではなく 仮想世界の最強流派の名に倣ったとか。
俺はあの時、 もうちょっとのところで魔導士に転向しかけたんだよな。
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