デルモニア紀行

富浦伝十郎

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帝都デリドール

送るゴブリン

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 結局親玉ハシムは観念して件の扉を開け、俺は大金を手にした。
剣士ギルドで”指定依頼”を受けた時に得た報奨金の数十倍の額だ。
あの時は会頭の娘の救出と親玉の討伐がセットになっていた。
親玉の ”命乞い” で一味の金の在りかを知った訳だが型通り依頼を完遂したのだ。

 やり口はお世辞にもキレイとは言えないが殺生は今回の方が一人少ない。
あの時の報奨金は破格だと思っていたが今の俺はデルモニア有数の金持ちだ。
結果から見ればOKだと言えるだろう。( もう ”働かなくていイイ” 身分だ )

 扉の中には金の他にも”お宝”が沢山あった。
大部分は宝飾品だったがそんなものを換金する必要がないだけの金は得ている。
目に付いた良さそうなアイテムを幾つか頂いておくに留めた。

 ”扉”を閉めると腑抜けたように立ち尽くしていたハシムが怪訝な表情で俺を見た。

「俺も鬼じゃない。 後は残しておいてやる」

 死んだ魚のような目をしていたハシムの表情が少し明るくなった。
”精鋭”を選りすぐった筈の護衛陣を一瞬で倒され一時は諦めた命を拾ったのだ。
数分の一とはいえ財宝が手元に残るなら此奴にとっては望外の幸運だろう。

 根本からの”悪人”だからギルドの依頼と同様に”討伐”しても構わなかったのだが
俺は( 強調して言うが )別に殺しが好きな訳じゃない。 バトルが好きなのだ。
それに此処で此奴を倒したらイベントキャラとして ”また” 出てくる。
”リセット”されて。
フィールドのモンスターがリポップしてくるのと同じ様に。
(・・・それでいいのか?)

 ”稼ぎ場所” として同じクエストを繰り返すのはFQに限らず良くあることだ。
ステージアップの為のメインクエスト(MQ)は一度クリアすれば二度ないが、
”お使い”的なサブクエスト(SQ)は基本的に何度でも受けることが出来る。
・・・数多あるFQのクエストは俺ですら半分もクリアしていない。
だがADプレヤーの日常はクエの消化に終始すべきなのか?
デルモニアの永遠の住人となる俺達はADプレイヤー



「これも着ておけ」
拳闘士の上衣を投げてやる。

「”彼女”を出すから其れを着て控えていろ」
俺も既に”金(倉)庫”の中で見繕ったスーツに着替えている。 両手には白手袋。
それに加え神金オリハルコン聖銀ミスリルがモザイクとなったマスカレード用の仮面。
( 高い防御性能も備える優れものだ♪ )

 ハシムは ”やっぱり” という表情で観念している。
俺に言われた通り金庫と反対側の壁のドアに向かって土下座の体制を取った。

「失礼する」
軽いノックの後、一声掛けて俺は階段口に向かって左側のドアを開けた。




 ドアを開けると中は小奇麗な部屋だった。
広さは八畳程で窓は無く、他の部屋に続くようなドアもない。
ランプで照らされた部屋の奥にシングルベッドが一台。
少女が一人横になっている。 会頭の娘だ。 じっとしたまま動かない。
オカシイ。 ( "前回"は「剣士様助けて!」と駆け寄って来たのだ )


「・・・まさか 殺したのか?」
親玉ハシムを睨みつける。
(慈悲を掛けてやったのは間違いだったか?)

「め、滅相もない!」
両手を顔の前でブンブン振って否定するハシム。
「眠らせ、いや、薬でお休み頂いてるんで!」
「・・・・」
成程。 大貴族に高額で納める上玉商品なんだから殺す筈はないよな。
暴れたり自害しようとして ”傷物” にならないよう眠らせておく、てのはあるか。

「ココに来る前からねむら、いや、お休み頂いてます!」
ハシムが必死に説明を続ける。
「夜中に ”お迎え” が来る事になってまして…」
そういうことか。
「目が覚めたら公しゃ、 いや、 お偉い方のお屋敷に、て運びでしたんで」
”手”は出してません、というアピール。

「ふ~む」
筋は通っている。(イベントのシナリオもアップするのか?)
こいつら一味の人相やアジトを目撃されないで済む訳だしな。
「分かった」
安堵したように脱力する親玉。

「しかし如何するかな…」
薬で眠っているとなると歩いて帰す訳にも行かない。
送ってやらないと。 ( あの馬がいてくれたらな~ )
皇女の白馬が脳裏に浮かぶが城に戻してしまったのでどうしようもない。

「…やってみるか!」
折角整えた平成アニメの怪盗みたいなコスチュームを解除する。
替わりに金庫にあった市中警備騎士の制式装備に切り替えた。
現代なら ”警官の制服” みたいなものだ。 
( こいつらコレで誘拐してたんだな )
警備騎士の装備は比較的軽量だ。 これなら ”走れる”。

「よいしょ」
ベッドの傍に行って少女を抱き上げた。( 小柄な中学生くらいだ )
(!)凄く軽い。これなら問題ない。 ( 俺のLvが上がってるからか?)

「・・・う~ん」
少女が小さく唸って俺の首に腕を回して来た。
( おぅ…これなら安定するな )

 部屋の真ん中で平伏しているハシムに声を掛けた。
「”お迎え”が来るまでに身の振り方を考えておくんだな」
ハシムが頭を床に擦り付ける。
「お気遣い有難うございますっ」
刺客を送られるのに比べればどうということもない、という声色だ。
少女を抱えた俺は階段に足を掛けた。

「…邪魔したな」
最後の言葉を掛けると階段を駆け上がった。
未確認だがLvが上がったせいだろう。 少女を抱いているのに体が軽い。
シュトロハイムの ”足回り” の世話になろうと思ったが全く必要なかった。
警備騎士のトータルコーデで大型バイク並みのスピードで ”流せる”。
排気音やスキール音を伴わない全くの無音で、だ。



 一分掛からずに少女の(商会会頭の)屋敷に着いた。
角一つ手前で一旦止まり、少女を抱えたまま普通に歩いて角を曲がった。
俺の首に回した少女の腕にぎゅっと力が入ったような気がする。
「・・・ん~ 」
寝言のような声が漏れる。
屋敷の門前には二人程門衛がいた。 厳戒態勢なのだろう。
少女を抱いて近付き門衛に身柄を預けた。

『立派な身形の剣士がギルドの依頼でお嬢さんを救出したが、緊急の任務が入ったので居合わせた警備騎士の自分が預かった。 剣士は用が済んだら来るらしい』

・・・という風に説明したが、 それどころじゃなかったw
「お嬢さんが帰って来た~!」
これ一色w。

 でも何かヘンだった。
「・・・・・・・・・って」
少女を門衛に渡そう って時に彼女が小さく呟いたんだ。
( 寝言か? )って思った。 普通の人間なら聞き取れなかったと思う。
でも、ゴブリンの俺の耳には聞こえちゃったんだよ。
彼女はこう言ったんだ。

『アッキー  頑張って!』  って。



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