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帝都デリドール
奪うゴブリン
しおりを挟む俺が最初に此処に来たのは剣士ギルドで”指名依頼”を受けての事だ。
『攫われた大商家の娘を救出する』 という内容だった。
腕の立つ剣士に限定して出される依頼は報酬がイイ。
だが勿論リスクも高い。( 命の危険がある )
帝都でも有数の商会の会頭の娘が誘拐されて身代金の要求があった。
「払えば返す。払わなければ殺す」 と矢文が届いた。
時々あることらしい。
年齢が行ってから授かり器量も飛び切りだった娘を会頭は溺愛していた。
高額な身代金を工面して支払った。
しかし娘は帰って来なかった。
偶にあることらしい。
帝宮の高位貴族に売られてしまうのだという。
帝都西北の暗黒街には貴族の ”汚れ仕事” を請け負うような連中が存在する。
武力を備え権力に庇護されているから一般人は泣き寝入りするしかない。
会頭はしかし、彼の持つ情報網から賊のアジトを突き止めていた。
金を払って娘が帰ってくれば良かったが帰って来ない。
間を置かず ”最強の” ギルドに依頼を出した。
「貴族に売られてしまう前に娘を取り戻して欲しい」 と。
そしてLv50を超えていた俺が指名された。 という訳だ。
今回はギルドからの依頼は受けていない。 ギルドからの報酬も無い。
しかし ”状況” は存在していた。
”ゴブリンのやり方” でやらせて貰おう。
「・・・な、なんでゴブリンが!?」
たった今気がついた、という体で親玉が叫ぶ。
「ひっ!」
親玉の左耳の耳朶が床に落ちた。 高そうなピアスが付いている。
「勝手に喋るな、と言っただろう」
俺は剣先を親玉の鼻先に突き付けて言った。
全く良く切れる刀だ。
「俺が ”優しい” ってのが分かったか? 今度は ”全部” いくぞ」
親玉は目を見開いてコクコク頷いている。
尊大な素振りが消え従順さをアピールしているように見える。
”痛み” には頗る弱いようだ。
「人に名前を聞く前に先ず自分が名乗れや!」
刀の小鎬で親玉の頭をカンカン叩く。
( かなり痛いかも )
「…は ハシムと云います…」
親玉が小さな声で名乗った。
( 頭頂部を打たれないようにか )頭を床に擦り付けている。
「よ~しハシム。 分かったら裸になれ。 服を全部脱ぐんだ」
親玉は黙ってそそくさと衣服を脱ぎだした。
余計な事を口走ってまた痛い思いをしたくないのだろう。
聞き分けの良い奴で助かった。
「装身具も全て外せ」
分かってます、という素振りでピアスや指輪も外し床に並べていく親玉。
結構な数になった。 ( トゥーリングまでしてやがる )
武器もあった。 帯に挟む小刀だ。 毒効果付き。 ( …怖ぇえな )
並べ終えたハシムは大人しく土下座姿勢で待機している。
「暫く其処で大人しくしていろ」
床上のアイテムを全て回収していく。
急いた素振りにならないように心掛ける。
格闘士と用心棒が残した装備も全て回収した。(大漁だ♪)
一息ついてからクロゼットの中から拳闘士のあんちゃんのズボンを取り出す。
「これを履いとけ」
ハシムの前に放り投げた。
FQ世界の人間にアレは付いてないが丸裸の男、てのはむさ苦しい。
ハシムが ”イインデスカ?” て表情で見上げて来る。
「言っただろう。オレは優しいんだ」
ズボンを履いたハシムが神妙な顔で次の指示を待っている。
「よ~し、それじゃ本題だ」
俺は剣を鞘に納めながら言う。
ハシムが少し安堵の表情を浮かべた。
剣をクロゼットに収納して替わりにシュトロハイムの山刀を装備した。
ハシムの顔が引き攣る。
「金を出せ」
山刀をパシパシ左掌に打ち付けながら言う。
「あるのは分かってるんだ」
山刀で階段口に向かって右側の壁にある扉を指す。 鋼鉄製の頑丈そうな扉だ。
絶望の表情を浮かべるハシム。
「あの扉を開けろ。 それがお前の命の値段だ」
ハシムが呆然とした表情で俺を見詰める。
半開きになった唇がパクパクと動くが声は出て来ない。
一片の同情の余地すらない屑野郎なのは確かだが、その心情は想像の及ぶ処だ。
「どうした? もうココで死ぬか?」
俺は "どっちでもイイ" という雰囲気で追い込みを掛ける。
「だが、楽に死ねると思うなよ」
黒光りする山刀をクルクル回しながらドスを利かせる。
「気が変わるかも知れねぇから少しずつ刻んでやるからな」
( ・・なんか”暗殺者”っていうより”強盗” って感じになって来たな )
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