金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter117 人形の生地選び

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 街に着いてすぐ、注目されているのに気付く。
「みんなでパーカーを着てるから目立つのね」
アルシャインがクスクスと笑いながら言い、馬車から降りる。
「金の羊亭の証よ!あたしすごく好き!」
マリアンナが笑って言い、みんなが頷いた。

 真っ先にみんなで布屋に向かう。
色んな布を選びながら、ふとメルヒオールが言う。
「…男の子を作るってどうかな?」
「え?」とルベルジュノー。
「女の子の人形しか無いから、男の子の人形も作ればきっと売れるよ!僕、欲しいと思うもん!」
そうメルヒオールが言うので、みんなは顔を見合わせて頷く。
「メル、ナイスアイディアね!」とマリアンナ。
「確かに、ボーイフレンドは必要よね!」とリナメイシー。
「それじゃあフェルトと毛糸も選んでね!色んな色が必要だわ♪」
一番張り切ってアルシャインが言い、みんなはフェルトを選ぶチームと毛糸を選ぶチームと布を選ぶチームに別れた。
カシアンはカウンターの横にある丸椅子に座っている。
「肌の色も変えてみる?」とクリストフ。
「あー…今ネールピンクだったな。コルクとかピーチとかブロンズもいいかもな。良く見かけるし」とルベルジュノー。
「微妙に違うのもいいかな…小遣いあるし、聞いてくるよ」
レオリアムがそう言ってアルシャインに聞きに行くと、すぐに抱き締められた。
「すごくいいわね!そうしましょう!」
アルシャインの許可が出たので、フェルトチームは微妙に違う肌色のフェルトを揃えていった。
毛糸チームは様々な色の毛糸をカゴに入れていく。
ふと、ユスヘルディナが毛糸の本を見ながら呟く。
「これ…すごくいい!ね、レアム!コレ!」
「何……毛糸の服?」とレオリアム。
「かぎ編み…ベストとかビスチェとか…ワンピースなんてあるの!このワンピースなんて人形とかにも良くない?!」
そうユスヘルディナが言うと、横からティナジゼルがやってきて本を手にアルシャインに駆けていく。
次の瞬間には本はカウンターに置かれた。
「人形の服作りなの?」
奥から店主のポーラが出て来て聞く。
「はい!色んな服を作りたくて!」
「…それなら…割り引いてあげるから、その人形をそこのショーケースで売らない?」
「え…?」
「噂になってるのよ。金の羊亭のお人形が欲しいけど、中々買いに行けないって…ほら、街から遠いじゃない?」
「…確かに」
「ウチで独占販売してくれるなら布やフェルトや毛糸代は2割にしてあげる!」
「2…!」
言い掛けてアルシャインは口を塞いでから考える。
その間にポーラが聞く。
「幾らで売ってるの?どうせ安いんでしょ」
「…500Gです」
「作った子に何割あげてるの?」
「4割です…少ないから、今後は半分にしたいな~って」
するとポーラは考えてから言う。
「900Gで売りましょう。売り上げは7割渡すわ…あなたの手元に入るのは630G。その半分なら315Gだし、4割渡すなら…252Gね。どうかしら?布代も考えたらいい値段だと思うわよ?」
「ーーー…」
瞬時に計算の出来るポーラにも驚いたが、何よりきちんと売り上げを考えてくれているのにも感激した。
そしてアルシャインはコクリと頷いて言う。
「じゃあ、新しく作ったら届けますね!」
「どうせアデレードとカイルが毎日お茶を飲みに行くでしょ?その時に渡してくれたらいいわ。…ゆっくり選んでね」
ポーラは微笑んで言い、奥に行く。
するとアルシャインがティナジゼルを抱えてやってくる。
「たくさん選んで!新しい人形はここで売り出すわよ!」
「分かった!」
話を聞いていたみんなが次々と布や毛糸やビーズなどを選んでいった。
ここにはボタンもあるので、全部揃うのだ。


「じゃあ、頼んだわよ」
ポーラが見送ってくれる。
荷馬車には大量の荷物が積まれていた。
「じゃあ…ちょっとギルドに行ってくるね」
アルシャインが〝独占販売契約書〟を手にギルドに行くと、リュカシオンとルベルジュノーはランチに何がいいか見に行き、みんなは露店のビーズ屋を見に行く。
「人形は高く売るなら、材料費は上乗せもしてもらえるよね?」とアルベルティーナ。
「納品書に一つずつの値段を細かく書けばいいさ」とノアセルジオ。
「天然石のビーズはここがいいんだよね~」とマリアンナ。
いつも露店で見るビーズ屋は、布屋よりも品揃えがいいのだ。
「カシアン、買ってもいいよね?」
アルベルティーナが聞くと、カシアンは頷く。
アルシャインなら必ずそうするからだ。
みんなが選んでいる所にアルシャインがやってくる。
「あら、やっぱり人形の目は天然石って考えた?奇遇だわー♪」
アルシャインは嬉しそうにみんなと共に色んな色のビーズを選んだ。

 ずっしりと買い込んで荷馬車に戻ると、ルベルジュノーとリュカシオンがやってくる。
「露店にあるのは串焼きかクレープかパニーノだよ。どれにする?」とルベルジュノー。
「串焼きはお肉?」
クリストフが聞くと、リュカシオンが屋台を振り返りながら言う。
「いや、肉ももちろんあったけど野菜とか色々焼いてたよ。みんなで見た方が早いよ」
「そうね…じゃあ見て食べたかったら買いましょう!」
そうアルシャインが言い、みんなで屋台を見に行く事にする。
クレープの屋台は行列が出来ていた。
チラッと売っている物を見るが、誰も食べたいと思わなかったのでやめておいた。
次の串焼きの屋台も行列で、交代で何があるかを見に行くが、売り切れそうなので次に行く事にする。
最後はパニーノだ。
店先を覗いてから行列に並んだ。
すると並んでる人に声を掛けられる。
「素敵なパーカーね」
「ふふ、いいでしょ!」
ティナジゼルが嬉しそうに答えた。

「色々乗せるのを選べるのね~、じゃあ女の子から選んでね」
アルシャインが言い、ティナジゼルやベアトリスから何を乗せて貰うかを決めていく。
基本にレタスが付いているようだ。
野菜はトマト、パプリカ、茹でたカボチャやポテトもある。
果物はマンゴーとリンゴとマスカット、肉は角キツネかヤモ鳥。
そしてチーズとヨーグルトだ。
ここでいきなりつまづいた。
「…コレなぁに?」
指差したのはヨーグルト。
「これはヨーグルトよ。ちょっと酸っぱいの。私が頼むから、一口ずつ食べてみましょうね」
そう言いアルシャインがトマトとポテトとヤモ鳥とチーズ、ヨーグルトを乗せて貰った。
2人はそれぞれに、角キツネとリンゴとパプリカとポテトとチーズを一つと、ヤモ鳥とカボチャとトマトとチーズで頼んだ。
「じゃあ…噴水の側のベンチで食べましょう」
アルシャインが3つ持ち、ティナジゼルとベアトリスと共に噴水の側のベンチに座って食べる。
3人はそれぞれに一口食べて頷く。
「うん、ポテト美味しい」とティナジゼル。
「カボチャが甘い」とベアトリス。
「ヨーグルトはそんなに酸味が無いかな…はい、ちょっとずつ食べてみて」
アルシャインが言ってパニーノを差し出すと、2人は一口ずつ食べる。
「ん、酸っぱい」とティナジゼル。
「あ、カボチャと合うよ」とベアトリス。
ベアトリスは自分のパニーノをティナジゼルに食べさせた。
「あ、酸っぱいの消えるね!」
そうティナジゼルが言うと、やってきたリナメイシーとマリアンナがパニーノを差し出す。
「マンゴーとカボチャとチーズとヨーグルト、食べてみる?お肉は角キツネだよ」とリナメイシー。
2人はリナメイシーとマリアンナから受け取って食べてみる。
「甘い!これがいい!」
2人が言うので、リナメイシーとマリアンナはティナジゼルとベアトリスのパニーノと交換して座って食べた。
「あら、ヨーグルトいる?」
アルシャインが聞くと、リナメイシーとマリアンナは首を振る。
「一口食べたから大丈夫!」とマリアンナ。
リナメイシーも頷く。
始めから交換するつもりで頼んだのだ。
そんな2人に微笑みながら、アルシャインは次々とやってくるパーカーの集団と共に楽しくランチを食べた。
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