金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter114 卵料理

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 カシアンが金の羊亭に帰ったのは、お昼前の空いた時間だった。
側にルベルジュノーがやってくる。
「おかえりーって何その荷物!」
「ジュドー、馬を頼むよ!」
カシアンは木箱とマスカットとイチジクの袋を手にして中に入る。
「ただいまー!アイシャ!これお土産に!」
そう言ってカシアンは木箱をテーブルに置いてから、袋を2つカウンターに置く。
「あら、なぁに?」
ロッキングチェアに座ってマフラーを編んでいたアルシャインはカゴに入れて立ち上がり、袋を開ける。
「マスカットじゃない!こっちはイチジク!生でもいいし、パイにもいいわ~!」
「その…瘴気やられの物を、浄化して欲しくて…」
カシアンはリュックを降ろしてテーブルに置いてから、木箱と聖水を差し出した。
「あ…もしかしてコート?」
そう聞くと、カシアンはコクッと頷く。
「浄化?手伝うよ~」
マリアンナとリナメイシーが駆けてくる。
「私も!練習したいし…」とフィナアリス。
「あたしも!」とアルベルティーナ。
みんなで庭に出て、木箱の中に聖水を一滴垂らして、その周りに聖水を一滴ずつ円になるように垂らす。
そして5人で浄化をした。
聖なる浄化セイン・ピュリファイ!」
シュワァーッと淡い光が木箱を包んでキラキラと光が舞い上がる。
すると貴族の着るようなデザインのコートがハッキリと見えた。
「うわ何それカッコいい!」とルベルジュノー。
「え、いいな!」とレオリアム。
「え…これ、カシアンが…?」とノアセルジオ。
「そう、俺の…」
そう言ってカシアンはコートを手にしてまじまじと見つめる。
「うわ、カッコいいー!うん、アイシャ、アンヌ、リーナ、ナリス、ティーナありがとう!」
カシアンは嬉しそうにみんなに言い、コートをルベルジュノー達に自慢している。
「いいなー…ズルいや」
クリストフとメルヒオールが落ち込んでいた。
「全く子供なんだから…リフ、メル、あなた達のコートもちゃーんと作るから待っててね!」
アルシャインが言うと、2人は笑顔になった。
ティナジゼルもやってくる。
「ナージィのは?!」
「もちろん作ってるわよ~、あと紐とトグルボタンだけど、角ウサギと角キツネの角で作ろうと思うの!中々上手くいかないのよ…」
ティナジゼルを抱っこして中に入ると、アルシャインはカゴの中から角キツネの角を取り出す。
削って丸っこくなっているが、穴が開いていない。
「どれ、見せて?」
ノアセルジオがやってきて角を手に取る。
「…穴を2つか…水に入れて穴を開けるといいらしいから、試していい?」
「ええ」
それに頷いてノアセルジオは井戸で水桶に水を入れて、その中に角を入れてキリとハンマーでトントンと穴を開ける。
「これでどうかな?」
「うん、いいわね!私もやってみるわ!」
と、早速アルシャインも挑戦する。
そこにコートを部屋に閉まってきたカシアンが来て言う。
「ニワトリ園のサム…あれ?サンディ…?さんが、今日の夜に6人で7時半には来るってさ。魔法のパン4つずつ持ち帰りの予約だよ」
「ええ?!もっと早くに言ってよ!リーナ、魔法のパンは両方7時半に焼くのを取っておいて!」
「分かったー!」
中からリナメイシーが答える。
卵はもう冷蔵庫に入れてあった。
10個だけ出して、フィナアリスとルーベンスとアルベルティーナがチーズオムレツと野菜オムレツと野菜たっぷりのソーセージのフリッタータを作る。
そこにアルシャインがやってきた。
「ね、どうせなら卵フワフワのオムライスも作らない?」
それを聞いて、マリアンナがハッとして言う。
「アレね!卵2個使うチキンライスの!」
「そうよ~、一回しか作れなくて試食も出来なかったから、みんなで食べたいな~って!」
言いながらアルシャインはエプロンと三角巾を着けて準備をする。
「今日のランチは卵尽くしね!」
笑って言ってチキンライスを作った。
豪華な卵料理をテーブルに並べてみんなでランチにする。
「うん、うまーい!」とルベルジュノー。
「チーズオムレツ好き!」とマリアンナ。
「フリッタータ美味いよ!」とリュカシオン。
「すごい美味い!」とオルランド。
「このオムライス美味しい!」とフィナアリス。
「卵がフワフワ~!」とティナジゼル。
ちょうど今入ってきたレンガ職人のロレッソと綿屋のダレルと冒険者マーセナリーのマルフレーサが席に着きながらも、じっとみんなを見つめる。
「んふ、卵美味しー!」とクリストフ。
「僕、〝ようけーじょう〟やって卵を仕入れてもいいよ!」
メルヒオールが初めてなりたい物を口にする。
「ホント?それならメルは養鶏を学ばないとね」
アルシャインがクスクス笑いながらカウンターでそれぞれの料理を盛ったお皿を置いて食べる。
「んー!ホントに卵って美味しいわ」
「それ、もう注文出来る?」
我慢出来ずにマルフレーサが聞くと、アルシャインはみんなを見る。
「ねぇみんな、値段はどうかしら?」
「んー…チーズオムレツならソーセージブリトーと同じ12Gでどうかな?」
ルーベンスが言うと、みんなが頷く。
「じゃあ野菜オムレツは15Gね」とフィナアリス。
「それならフリッタータは20G!」とアルベルティーナ。
「オムライスも20Gで良くない?」
ユスヘルディナが言うと、みんなが頷く。
そして黒板にはノアセルジオが書く。

チーズオムレツ 12G
野菜オムレツ 15G
フリッタータ 20G
オムライス(トマトソースかデミグラスソース) 20G

そう書き出されると、すぐに注文が入る。
「私はオムライスのデミグラスソースと魔法のロールパンとミルクパンとアップルパイと栗マンジュウね!」とマルフレーサ。
「俺はチーズオムレツとサーモンのバター焼きと魔法のミルクパンとロールパンを!」とロレッソ。
「フリッタータとカランクスのミソ煮込みと魔法のロールパンとミルクパンをくれ!」とダレル。
「はいはーい!」
アルシャインが答えて、先に食べ終えたフィナアリスと共に料理をする。
そこにダンヒルとエイデンが遅れてやってきた。
「お、何だ?卵があるな!」
ダンヒルがテーブル席に腰掛けてみんなを見てから黒板を見る。
「じゃあチーズオムレツと野菜オムレツと魔法のミルクパンとロールパンをくれ」とエイデン。
「じゃあまずはフリッタータとオムライスのトマトソースと魔法のロールパンとミルクパンな!」とダンヒル。
「そうそう、今日のスープはクラムチャウダーだからオススメですよー!」
アルシャインが笑顔で言うと、みんなは日替わりスープを追加した。
先にスープを配ると、みんなは一口飲んで笑顔になる。
「いいね、優しい味だ…」とマルフレーサ。
「この貝美味いな。ミルクスープも悪くない!」とエイデン。
「ああ、これなら毎日でもいいな!」とダンヒル。
そう言い食べているみんなを見ながら、アルシャインは焼いた四角いパイ生地に作ったカスタードを乗せて半分にマスカットを乗せ、その上にクリームを掛けてからマスカットを並べた。
もう一つ、イチジクでも同じように作る。
パイ一つが7センチくらいの大きさだ。
ついでにフィナアリスが桃とマスカットとベリーでタルトを作る。
タルトは8等分にした。
その3つを皿に盛り付けてみんなに出した。
「はーい、デザートのマスカットパイとイチジクパイとフルーツタルトよ~」
「え、さっきのがデザートになった…うわ美味い!」とカシアン。
「ん、マスカットの酸味がカスタードと合うね」とノアセルジオ。
「イチジクが甘くて美味しー!」とベアトリス。
「このタルト美味しい!」とリナメイシー。
「それは幾らだ?」
ダンヒルが聞くと、みんなは顔を見合わせる。
「秋しか取れないフルーツだし…秋限定だね」とルーベンス。
フルーツや野菜について勉強しているのだ。
「栗と同じか…じゃあパイは5G?」とリュカシオン。
「フルーツタルトは初めてね…これ何が入ってるの?」
マリアンナが聞くと、アルシャインはボウルを見せる。
「このアーモンドクリームとカスタードクリームとクリームよ!美味しいでしょ♪」
「…なんか高そう」とルベルジュノー。
「確かに香ばしいもんね!なら20Gよ!」とリナメイシー。
「色々入ってるし、それがいいわね!」
フィナアリスも賛成して、黒板にはノアセルジオが書く事になる。
「…秋限定……」
ノアセルジオは少し考えてからチョークを手にした。

秋限定マスカットパイ 5G
秋限定イチジクパイ 5G
季節のフルーツタルト 20G

それを見てみんなは拍手をした。
「季節のっていいね!」とルーベンス。
「フルーツは季節によって変わるもんね!」とマリアンナ。
「さすがノア!」とレオリアム。
「照れるよ」
ノアセルジオは赤くなりながらもエプロンを着ける。
お客さんが増えてきたのだ。
当然、これも追加オーダーされる。
「じゃあ、俺はに移るね!」
リュカシオンはそう言って庭に出て、メニューの板を作る。
「じゃあ行ってきます!」
ユスヘルディナもスチークスの森へと出掛けた。
「2人共気を付けてね!」
アルシャインが忙しく料理をしながら見送り、カシアンがフルーツ園を見るついでにユスヘルディナを送った。
「よーし負けないから!」
アルベルティーナが仕事をする2人を見て、張り切って料理をする。
「僕だって負けないよ」
ルーベンスも手際良く料理をする為にアルシャインを見習いながら料理をした。
ランチはすぐに満席となり、みんなが忙しく動き回っていた。
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