金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

文字の大きさ
上 下
112 / 123
第一章 始まりの館

Chapter110 街での買い物

しおりを挟む
 アルシャインとカシアンはリサイクル屋で大小様々な磁石と接着剤を買ってから、ダンヒルの店を訪ねた。
そっと覗いてみると、リュカシオンは板を磨いていた。
「そうそう、次はカンナ掛けて…お、見に来たのかい?」
ダンヒルがニッと笑って言うと、見つかったアルシャインは顔を出す。
「ちょっと用事があって…ついでにリオンの働く姿を見たいな~って…」
「マスター!…あ、メニューの?」
リュカシオンが側に来る。
「ええ。あの黒板も相当使ったから…どうせなら、綺麗な鉄板に板を並べたいな~って」
「鉄板に板?」
ダンヒルが首をかしげる。
「こんな感じで……壁にオシャレな木枠を着けた鉄板を飾ってから、メニューをズラッと並べていきたいな~って!」
アルシャインはミルコが描いてくれたノートを元に書き出したアイディアを見せる。
「縦に5個くらいで…板の大きさはメニューによって変わるけど…板の角は丸い方が安全だと思うの」
「ほお…マグネットを付けるのか!早速切り出してみようか」
そう言ってダンヒルは立て掛けてある板を手にしてあっという間に切っていく。
「このくらいの大きさかい?」
「ええ!それを2百個…ううん、3百個くらい!マグネットと接着剤はあるから、鉄板をエイデンさんの所に頼むとして…幾らになります?」
「そうだな…これはリュカシオンの仕事がいいだろう。実際に見ながら細かい調整も出来る。どうだ、やるか?」
そう聞くと、リュカシオンはニッと笑って
「はい!」と答える。
「報酬は板一枚にマグネットを付けて2Gだ。鉄板はアイシャマスターがエイデンの所で見て相談してくれ」
ダンヒルの言葉にアルシャインは頷いてリュカシオンに手を振って店を出た。
リュカシオンは板を切る作業に真剣に取り組んでいた。
エイデンの店で相談すると、そのままダンヒルの店に戻る事になった。
「木枠の中に鉄格子を作って壁に掛けたら負担も少ないよな」とエイデン。
「ああ確かに。木枠はオシャレなのがいいらしいから、彫刻が合うだろうな」とダンヒル。
「じゃあ格子だけ用意しよう」
そう言ってエイデンは戻っていく。
「あ、あの、宜しくお願いします!」
アルシャインが頭を下げて言うと、エイデンは笑って頷いた。
「じゃあ、彫刻をちゃちゃっと仕上げるか」
ダンヒルもすぐに仕事に取り掛かった。
「宜しくお願いします!」
「ああ任せとけ!金の心配は要らんぞ?国から出して貰えるからな!」
ダンヒルは笑って手を振る。
アルシャインは仕事の邪魔をしないようにお辞儀をしてから、買い物に出る。
「どこに行くんだ?」
カシアンが聞くと、アルシャインはあごに手を当てて悩む。
「みんなのコートが欲しいのよ……寒い冬を乗り越える為に。…で、厚い布を買うか、古着にするか迷ってるの」
「…んじゃまずは古着を見ようか」
カシアンは荷馬車を噴水の側の衛兵に任せて、アルシャインと共に古着屋に入る。
「やあ、いらっしゃいアイシャマスター」
顔馴染みとなった古着屋の店主のカティアお婆さんが微笑んで挨拶をする。
「こんにちはカティアさん!冬物はある?」
「こっちの奥さ。まあ好きなだけ見てお行き」
「ありがとう」
挨拶を交わしてアルシャインはカシアンと共に通路の奥に行く。
そこにはたくさんのコートが掛けられていた。
毛皮のコートやマントもある。
「…これ良さそう……」
子供用のコートを見て、その値札を見て思わず祈る。
「2千…そうよね、暖かいししっかりしてるもの」
「お、このコート、カッコいいなー…たっか!ちょっと高過ぎやしないかい?」
カシアンが声を掛けると、カティアはフフッと笑う。
「それは今年の流行り物でね。衛兵用のコートで、見本として置いてるのさ」
「だからって20万は無いだろー…うん、いいコートだけどさ!」
「新米衛兵の一月分の給金だよ」
そう言いカティアは笑う。
「…布を見てみましょう」
アルシャインはカシアンに言い、店を出た。
良い品物は高い…布はあるだろうか?

布屋に来ると、アルシャインは店員のカイルと話す。
「冬用のコートを作るような布はあるかしら?」
「厚手のコットンか…ミュージか羊か…手触りも違うから、奥から取ってくるよ」
「ええ」
答えて待つ間に冬の下着に良さそうな厚手の生地を見付けた。
「これで下着を作ろうかしら…淡い色ならいいわよね。それとも透けたら色が見えないような白がいいかしら…?…どう思う?」
小さめな声でカシアンに聞くと、カシアンは真っ赤になって腕で顔を隠す。
「頼むからそういう事を聞かないでくれよ…」
「あら、大事な事よ?男の子だってオシャレしたいでしょ?」
「…そ…りゃ、多分?」
「そんなに照れられたらこっちが恥ずかしいじゃないの…」
カシアンの顔を見てアルシャインは顔を赤らめて生地を見る。
そこにカイルが生地を手に戻って来る。
「こんなのはどうかな?」
「わあ、いいわねー…ボアは高めだけどやっぱり暖かそう…」
「コットンツイードとデニムニットで合わせるのもいいと思うよ。裏地だけボアやフリースにすると暖かいしね」
「カイルは上着作ってるの?」
「ああ。やっぱりフリースが柔らかくていいね。丈夫に作るなら表はデニムニットかキルトもありかな」
「そうねー…」
デニムニットは一メートルで3百G、ボアは一メートルで5百G、ニットフリースは一メートルで250G…やはりデニムニットとニットフリースが良さそうだ。
「じゃあ…」
言い掛けると、カウンターから老人の店主のポーラがやってきて上品な仕草でメガネを押さえながら言う。
「ボアになさいな。この辺の冬はこたえるわよ。…子供達には、いい品を作ってあげて」
「…ですよね…」
「ボアは百、フリースは50にしとくわ」
「マスター!それじゃ悪いわ!」
アルシャインが言うと、ポーラはニッコリと微笑む。
「いつもたくさん買って貰ってるもの。これくらいはさせて頂戴?ダンヒルやエイデンばかりズルいわよ。私の事もポーラって呼んで?」
ポーラはいたずらっぽく言う。
「ポーラさん…ありがとうございます!カイル、ボアとフリースの柄物はある?色も!」
「急にはりきったな…待ってて、今全部持ってくるよ!」
カイルは笑って生地を取りに行った。

たくさん生地を買い込んで荷馬車に詰め込むと、アルシャインとカシアンは急いで帰った。

 館の前には行列が出来ている。
「通りまーす…」
カシアンが荷馬車を中に入れる間にアルシャインが慌てて中に駆け込んだ。
「大丈夫?遅くなって…ご…めん……?あら?」
満席では無かったので、アルシャインはきょとんとしてキョロキョロする。
「え?あの行列なに…?」
「おかえりなさい!」
リナメイシーとティナジゼルが駆け寄ってくる。
「ただいま。外の人達は入らないの?」
「それがね…お土産待ちの人達なの」とリナメイシー。
「魔法のミルクパンとロールパンのお持ち帰りよ。お陰で今日の分が無くなっちゃったの」
アルベルティーナが作りながら言う。
「あら~…明日からパンだけ多めに仕込む?」
アルシャインがエプロンと三角巾を着けてキッチンに入って聞くと、リナメイシーが喋る。
「ねぇアイシャママ、あたしパン担当したい!」
「大変よ?」
「分かってる!でも、みんな料理で忙しいでしょ?将来パン屋さんもいいなって思うの!」
そう言うとアルシャインが微笑みながら小麦粉の袋をリナメイシーに渡す。
「街にあるパン屋は焼くだけだから、きっと行列が出来るわね。パン屋も素敵だと思うわ!じゃあ早速仕込んでおいてね」
「うん!…パン屋をしながらシスターとして活躍するなら、やっぱり〝レオリアム医院〟で雇って貰うのがいいのかな?」
そうリナメイシーが聞くと、お土産を紙袋に入れていたレオリアムが笑う。
「いいよ。でも、パン屋ならアルベルティーナのレストランの中で売り出すのも有りだよね」
「それもいいね!」とアルベルティーナが笑う。
「どんな形になるか楽しみね」
アルシャインが微笑んで言う。
みんなで将来を想像しながら、注文のお菓子類を作った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...