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第一章 始まりの館

Chapter102 魔法のパン

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 その後、グレアムは緑マンジュウと栗マンジュウとグリーンティーを頼んでカウンター席に座り、カバンから書類を出してオルランドとベアトリスの事を書いておく。
そこにクッキーの売り込みに来たクリストフが通ったので、クッキーを2枚貰う。
「クリストフ、畑の…」
言い掛けると、ちょうど降りてきたオルランドがアルシャインの所に行って頭を下げる。
「ごめんなさい!そこの畑からイモを掘って2個取ったんです。ヴェーチェに食べ物をあげたくて…その、弁償するから追い出さないで下さい!」
するとアルシャインはカウンターに来てオルランドの頭を撫でる。
「追い出したりしないわ、大丈夫よ。リフ、ジャガイモが出ていないか見てきてくれる?お陽さまに当たると毒になっちゃうから。緑色のは取って捨ててね!」
「はーい!」
答えてクリストフがカゴを置いて走っていく。
その後ろ姿を見送ってからオルランドが再び頭を下げて言う。
「ありがとうございますマスター」
「オルディ…もう荷物は運び終えた?」
アルシャインが聞くと、オルランドはコクリと頷く。
「それなら、リオンとジュドーの手伝いをしてきて。外でベッドを作ってるから…ね?」
優しく微笑んで言うと、オルランドはコクリと頷いて外に出た。
「ん?手伝いに来たのか?」とリュカシオン。
「あの…何したら…」
オルランドが聞くと、ルベルジュノーが紙ヤスリを渡す。
「これでこうしてこすって、表面を滑らかにするんだ」
「…こう?」
「そうそう、やりすぎないようにな」
明るく笑ってリュカシオンが言う。
その様子をアルシャインは微笑ましく見つめた。
「ジュドーもリオンも頼もしいわね」
その言葉を聞いたフィナアリスがパイの仕込みをしながら言う。
「あら、2人共まだまだ子供よ。昨日の夜なんて残ったパウンドケーキとベリーパイの取り合いをしてたんだから」
「あら」
アルシャインはフフっと笑う。
「じゃんけんで勝ったら好きな方をもらうって言ってたけど…半分に分けて両方食べる方がいいと思わない?」
そうフィナアリスが言うと、アルシャインとアルベルティーナとリナメイシーが笑う。
「確かに!」とアルベルティーナ。
「ふふふ…独り占めしたいのねー…」
アルシャインが言いながら冷蔵庫から瓶を取り出して、中の生地をパン生地に混ぜる。
フィナアリスとアルベルティーナとルーベンスが覗く。
「あ!それレーズンの酵母ね!」とフィナアリス。
「ええ。8日前にナリスが作った酵母よ…良さそうね♪」
いつもは冷蔵庫で発酵させた一日前のパン生地を混ぜて焼くのだが、料理の本にあった〝天然酵母〟という物をフィナアリスがレーズンで作っていたのだ。
その酵母から〝種〟となる生地を2日前にフィナアリスとアルベルティーナとルーベンスが仕込んだのだ。
生地を寝かせる間に、作っておいたパン生地を出す。
これにはミルクを混ぜてみた。
濡れ布巾を取って耐熱皿に並べていき、かまどの側に置いて発酵させる。
かまどの側は40℃以上だから、そこが適していた。
「柔らかいパンって何回も発酵させるよね…」ルーベンスが呟く。
「たくさんの手間を掛けるんだから、これは5Gじゃ切ないよ」とアルベルティーナ。
「そうねぇ…ミルクパンは15G、さっきのは10Gでどうかしら?」
「楽しみですね」
見ていたグレアムがカウンターに25Gを置く。
「…あの…試食してからですよ?」
アルシャインが聞くとグレアムは微笑む。
「分かっています」
そう言いグレアムは読書をする。
お金はメルヒオールが回収してレジスターの側に居るノアセルジオに渡した。
ノアセルジオは伝票に記入しようとして止まる。
「…マスター、パンの名前は?」
「ミルクパンと……?」
フィナアリスが言い、首を傾げる。
レーズンの酵母とはいえ、〝レーズンパン〟にするとレーズンを入れなくてはならなくなる。
「ん~…ロールパン?巻いて焼く予定なのよ」
アルシャインが答える。
予約が入ってしまったので、前日に仕込んで帰ってきてから成形しておいたロールパンを取り出す。
「うん、2倍になってるしへこむから大丈夫!焼きましょうか♪」
これは卵を表面に塗ってオーブンで焼いていく。
30分程して、先程のミルクパンも粉を振って焼いた。
焼き上がりのいい香りが外まで広がった。
「え、何…パン?」
リュカシオンとルベルジュノーとオルランドがドアから入ってくる。
マリアンナやレオリアムも下に降りてくる。
ミルクパンはくっついているので、一つちぎってそれを4等分にしてみんなに渡していく。
ロールパンは3等分にして渡した。
「えっ、なにコレ!」
一口食べてみんなが驚く。
「いつものパンより柔らかい!」とレオリアム。
「ふわふわだ!」とメルヒオール。
「魔法のパンだ!」とリュカシオン。
「魔法のミルクパンと魔法のロールパンだ!」
ルベルジュノーが言って黒板に書く。
「値段は?」
「ミルクパンが10でロールパンが15」
ノアセルジオがため息交じりに言うと、ルベルジュノーはそれに5Gを足して書く。

魔法のミルクパン 15G
魔法のロールパン 20G

するとグレアムは更にチップ込みで20Gを置く。
「一つずつ下さい」
「あ、はーい!」
アルシャインが皿にロールパンとミルクパンを乗せて出す。
すると、両方のパンを持ったままグレアムが目を見開く。
〈柔らかい…!〉
香りもいいし、口に入れるとふわりとした食感がたまらなかった。
「これは本当に魔法のパンですね!」
思わず立ち上がって言うと、みんなが頷く。
そこにカランカランとドアが開く音がして、続々とお客さんが入ってきた。
「そこを通り掛かったら、いい匂いがしてさ!」
「これはパンの匂いだよな?」
冒険者マーセナリーや街に向かおうとしていた人などが入ってくる。
「この匂いの物はどれだ?」
お客さんが言うので、ルーベンスが誇らしげに答える。
「魔法のミルクパンと魔法のロールパンです!」
「それをくれ!」
10人程で頼むので、次に仕込んでおいた酵母生地も取り出して焼く事になった。
「もっと仕込んでおかないと!」
アルシャインは慌ててロールパンとミルクパンを追加で仕込んだ。
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