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第一章 始まりの館
Chapter101 新しい仲間
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グレアムが子供を抱えて少年と共に金の羊亭に姿を見せると、庭で遊んでいたティナジゼルとクリストフとメルヒオールが駆け寄ってくる。
「どうしたの?!」とティナジゼル。
すると少年がグレアムの後ろに隠れる。
「かなり衰弱しているんだ。ドアを開けてくれるかい?」
そう言うと、クリストフとメルヒオールがドアを開けてくれる。
「アイシャママー!マスターグレアムが誰か連れて来たよ!」とメルヒオール。
「え?」
アルシャインがキッチンから出ると、ドアで止まるグレアムが見える。
「その…何処か空いている部屋は無いかな?この子達が…」
グレアムが言い掛けるとすぐに何の事かを察知して、アルシャインはエプロンを外す。
「ナリス、ティーナ、ここをお願いね!」
「分かったわ」とフィナアリス。
「任せて!」とアルベルティーナ。
その返事に頷いてアルシャインは様子を見に来たみんなに言う。
「カシアンとリオンは私の部屋の隣を空けてきて!ジュドーとレアムは水桶を2つ用意して、私の部屋とその空いた部屋に置いて!」
「分かった!」
それぞれが返事をして駆けていく。
カシアンは部屋の鍵を受け取ってリュカシオンと2階に行く。
アルシャインはマリアンナに自分の部屋の鍵を渡す。
「アンヌ、鍵を空けて私の部屋の壁際のベッドに、マスターグレアムが抱えてる子が着れそうな下着とワンピースを用意してあげて」
「分かったわ!」
マリアンナも返事をして駆けていく。
「リフはその男の子が着れそうな下着とシャツとズボンをメルと一緒に用意してあげて!」
「分かった!」
クリストフとメルヒオールも2階に駆け上がった。
アルシャインはマスターグレアムの側に行って、抱えている子の顔色を見る。
「…少し体を拭いてから、ヒールを掛けますね」
「一目で女の子だと分かるんですね」
グレアムが言うと、アルシャインは微笑んでからしゃがんで男の子を見上げる。
「こんにちは。私はアルシャイン。アイシャママとかマスターって呼ばれるわ。貴方は?」
「俺はオルランド、そっちは従妹のベアトリス…ヴェーチェって呼んでるんだ」
「貴方はなんて呼ばれているの?」
「俺はオルディ…」
「まずは、体を綺麗にしましょう。話はそれからよオルディ」
そう言って笑うと、オルランドは頷く。
「さ、こっちに来て。マスターグレアム、その子を連れて来て下さい」
アルシャインはオルランドの肩をそっと押しながら2階に上がる。
グレアムも2階に上がった。
オルランドは隣の部屋でルベルジュノーとリュカシオンが世話をする。
マスターグレアムは女の子をくるんだまま床に寝かせる。
「ベッドが汚れては寝かせられないので、ここで脱がせてあげて下さい」
そう言いマスターグレアムは少し離れて横を向く。
幼いとはいえ女の子なので、見ないように配慮しているのだ。
アルシャインはベアトリスの服を脱がせて、マリアンナと共に体と髪を綺麗に拭いてあげる。
あちこちにすり傷や痣がある。
そしてとても痩せている。
あの辺りの村が魔物に襲われたのは、確か夏だ。
「あたし、水とスープを持ってくる!」
そう言いマリアンナは下に行く。
「可哀想に…病気はしてないかしら…どうしよう、調べられるかな……」
アルシャインはベアトリスに服を着せてから立ち上がる。
「その壁際のベッドに寝かせてあげて下さい!」
そう言い駆け出そうとすると、パシッと腕をグレアムに掴まれた。
「また何か無茶をしようとしていませんか?」
「あの…ハイポーションがあれば鑑定出来るんですっ」
「…あのスチークスの森には、確か使徒が居る筈です。ノア、呼んで来てくれないか?」
グレアムがドアの外に居るノアセルジオに言うと、ノアセルジオは頷いて走っていった。
「落ち着いて下さい、アイシャマスター。この子を寝かせてあげましょう」
そう言うとグレアムは器用に片手でベアトリスを抱き上げてベッドに寝かせる。
手を離すとアルシャインが何か無茶をすると分かっているからだ。
「その…落ち着くので離して下さい…」
アルシャインが真っ赤になって言うので、グレアムは手を離して椅子をベッドの近くに置く。
「ここに座っていて下さい」
そう言うとアルシャインは素直に椅子に座って女の子の髪を撫で上げる。
「……あっ!マスターグレアムも汚れてしまいましたよね、洗濯しましょうか?」
そう聞くとグレアムは微笑んで上着を持ったまま魔法を唱える。
「清浄化」
すると一瞬で汚れが無くなる。
「ーーーえ?あれ…?最初から使ったら良かったのでは…?」
アルシャインが首を傾げて言うと、グレアムは真面目に言う。
「この子達にはここのやり方でやらなければ、無意味かと思いまして」
「それは…そう、ですけど………。マスターグレアムは魔術師なんですか?」
「分類としては魔法戦士ですが、魔術師レベルの方が上ですね。戦士レベルは18で魔術師レベルは28です」
「レベルまで聞いてませんが、凄いですね」
「先程、貴女のレベルを拝見しましたので、言った方が公平かと思いまして」
そうグレアムが真面目に言うので、アルシャインはプッと吹き出してクスクス笑う。
「やだもう…」
そこに、使徒のジュリアがノアセルジオの案内で入ってくる。
「失礼します…この子ですね」
「はい」
アルシャインは立ち上がって退く。
ジュリアは手をかざして呪文を唱える。
「精査」
唱えてしばらくして、ジュリアは信仰のネックレスの牙を握り締めて唱える。
「毒の治療!回復!」
すると光がベアトリスを包んで、ベアトリスの顔色に赤みが差す。
「毒に侵されていたようですね、後は酷い栄養失調です」
「ありがとうジュリアさん」
「どういたしまして。では私はこれで…」
ジュリアはノアセルジオと共に下に行き、注文していたマンジュウ3種類を受け取って帰って行った。
グレアムは廊下に出てオルランドの肩を押して部屋に入れる。
「ヴェーチェ…毒に掛かってたの…?」
「ええ…でももう大丈夫よ」
アルシャインは笑って言い、オルランドをソファーに座らせてあげる。
グレアムは自分が邪魔になると判断して廊下に出た。
そこにマリアンナが水の入ったカップを2つとスープのお皿を2つ乗せたトレイを持って入ってくる。
「まずはお水を飲んでね」
そう言いトレイをテーブルに置いて、カップをオルランドに渡す。
オルランドは少しずつ水を飲んでからベアトリスにも飲ませようと立ち上がる。
「ヴェーチェに…」
「あ、あたしがやるから、スープを飲んでて」
そう言い肉や野菜の入った皿をオルランドに渡して、マリアンナはカップを手に椅子に座る。
看病は教会でも習っていたので、これが実践となる。
まだベアトリスの意識は無いので、綺麗なハンカチを水で濡らして、それをベアトリスの口に付けてあげる。
「口を拭くようにね」
後ろでアルシャインがアドバイスをする。
すると、ベアトリスがうっすらと目を開ける。
「…オル、にーちゃ…」
「!ここに居るよ!」
オルランドがすぐに寄ってきてマリアンナの隣に来て床に両膝をついてベアトリスの手を握る。
「お腹空いたよね、少しずつ食べようか」
アルシャインがスープ皿を手にしてマリアンナに渡す。
マリアンナはそっと少しのスープをすくってベアトリスの口元に運ぶ。
「はい、ヴェーチェ…口を開けて…あーん…」
マリアンナが笑いながら言うと、ベアトリスは弱々しく口を開く。
スープを味わって飲むと、ベアトリスは微笑む。
「…おいしい…」
「もう少し飲める?」
マリアンナが聞くと、ベアトリスは少し頷く。
4口飲んでベアトリスは眠ってしまった。
マリアンナはスープ皿をトレイに置いて言う。
「アイシャママ、この子はあたしが看病してるから、隣に行っていいよ」
「…分かったわ。さ、オルディ、隣に行きましょう」
アルシャインはオルランドを促してみんなと共に部屋を出る。
アルシャインはオルランドと、ルベルジュノーとレオリアム、リュカシオンとグレアムと共に隣の部屋に入った。
トレイはグレアムが持って出た。
「まずは食べなさい」
そう言ってグレアムがトレイをテーブルに置く。
全く食べていないからだ。
オルランドはソファーに座って一口食べてみる。
「…美味い…!」
そう呟いてからガツガツと食べる様子を見て、アルシャインはホッとしてリュカシオンに言う。
「パンを持って来てあげて」
「分かった」
答えてリュカシオンは下に行く。
リュカシオンがパンをオルランドに渡すと、驚く。
「硬くない…!」
街のパン屋が焼いた物はカチカチで石のように硬いのだ。
「マスターのパンは世界一美味いんだ!食ってみろよ」
ルベルジュノーが笑って言うと、オルランドはおずおずとパンを一口食べる。
「…酸っぱくない…」
オルランドはパクパクと食べて喉に詰まらせて、慌てて水を飲む。
「…落ち着いたかしら?」
アルシャインが聞くと、オルランドはコクッと頷く。
「じゃあ、ここで暮らす条件を話すわね」
「条件…?」
「ええ。ここではみんなが働いているの。朝にニワトリやミュージの世話をしたり、庭の水あげに畑の世話…教会にも通って貰うわ。食事を作ったり、配膳をしたり……その代わり、食事と部屋を提供出来るわ」
「…えっと……それ、普通の孤児院だよね…?前の孤児院だと色々作ってたし、一日一食だけだったし…。でもそこが潰れて、追い出されたんだ」
「なんて酷い…」
アルシャインがオルランドの頭を撫でる。
「俺も孤児院に居た事あるけど、鉱山に行かされたし、ムチ打たれたし嫌な所だったよ。ここは天国さ!自分で作った物は、半分くらいお金をもらえるんだ!」
ルベルジュノーが言うと、オルランドは目を見開く。
「本当?!ここに居たい!…居てもいい?服もキレイだし、ヴェーチェも治してくれたし…」
「ええ。貴方の部屋は…」
言い掛けると、クリストフが言う。
「僕達と一緒は?僕とメルだけだから、ベッドくっつけて寝転がってるんだよ!もう一つくらいベッドくっつけられるよ!」
「リフとメルはそれでいいの?」
アルシャインが聞くと、2人は頷く。
「なら、俺と交代するのは?レアムと同じ年なら同じ部屋のがいいんじゃないか?」
そうルベルジュノーが言うと、レオリアムが目を丸くして言う。
「僕が?…そっか、同じ年なのか…」
レオリアムは少し考えてから頷く。
「いいよ。オルランド、僕と一緒の部屋になるけどいいよね?僕はレオリアム。レアムって呼ばれてる。医者を目指しているんだ、宜しく」
「医者…凄いな……宜しくレアム。俺はオルディって呼ばれてたよ」
2人は握手をする。
どうやら子供達の間で決まったらしい。
「じゃあ…ジュドーのベッドを作らないとな」
リュカシオンが言い、ルベルジュノーと共に頷き合って外に出る。
まだ麦稈ロールも倉庫にあるし、布団も余分に作ってあるのだ。
「あ、余った布団って花柄だったっけ?」とレオリアム。
「確か水色の草花柄ね。はい、鍵を持っていって」
アルシャインが鍵をレオリアムに渡すと、レオリアムはオルランドを見る。
「一緒に準備を手伝ってくれ。君の布団を倉庫から出して移してから、ジュドーの荷物と布団をリフ達の部屋に移さないと」
「分かった」
オルランドはすぐにレオリアムと共に歩いていく。
するとグレアムが食器をトレイに置いて持って言う。
「自分達できちんと決められるのは素晴らしい事ですね」
「ええ…いつの間にか、みんなで色々と決めて実行する力を身に着けたんですね…偉いわ」
アルシャインは微笑みながら開いていた部屋の窓を閉める。
「込み始めてきたようですよ、下に行ってあげて下さい」
「あ、トレイは私が…」
そう言うと、下から
「アイシャママー!手が空いたら来てー!」
というアルベルティーナの声がする。
「はーい!」
アルシャインは答えて、グレアムと共に下に降りた。
「どうしたの?!」とティナジゼル。
すると少年がグレアムの後ろに隠れる。
「かなり衰弱しているんだ。ドアを開けてくれるかい?」
そう言うと、クリストフとメルヒオールがドアを開けてくれる。
「アイシャママー!マスターグレアムが誰か連れて来たよ!」とメルヒオール。
「え?」
アルシャインがキッチンから出ると、ドアで止まるグレアムが見える。
「その…何処か空いている部屋は無いかな?この子達が…」
グレアムが言い掛けるとすぐに何の事かを察知して、アルシャインはエプロンを外す。
「ナリス、ティーナ、ここをお願いね!」
「分かったわ」とフィナアリス。
「任せて!」とアルベルティーナ。
その返事に頷いてアルシャインは様子を見に来たみんなに言う。
「カシアンとリオンは私の部屋の隣を空けてきて!ジュドーとレアムは水桶を2つ用意して、私の部屋とその空いた部屋に置いて!」
「分かった!」
それぞれが返事をして駆けていく。
カシアンは部屋の鍵を受け取ってリュカシオンと2階に行く。
アルシャインはマリアンナに自分の部屋の鍵を渡す。
「アンヌ、鍵を空けて私の部屋の壁際のベッドに、マスターグレアムが抱えてる子が着れそうな下着とワンピースを用意してあげて」
「分かったわ!」
マリアンナも返事をして駆けていく。
「リフはその男の子が着れそうな下着とシャツとズボンをメルと一緒に用意してあげて!」
「分かった!」
クリストフとメルヒオールも2階に駆け上がった。
アルシャインはマスターグレアムの側に行って、抱えている子の顔色を見る。
「…少し体を拭いてから、ヒールを掛けますね」
「一目で女の子だと分かるんですね」
グレアムが言うと、アルシャインは微笑んでからしゃがんで男の子を見上げる。
「こんにちは。私はアルシャイン。アイシャママとかマスターって呼ばれるわ。貴方は?」
「俺はオルランド、そっちは従妹のベアトリス…ヴェーチェって呼んでるんだ」
「貴方はなんて呼ばれているの?」
「俺はオルディ…」
「まずは、体を綺麗にしましょう。話はそれからよオルディ」
そう言って笑うと、オルランドは頷く。
「さ、こっちに来て。マスターグレアム、その子を連れて来て下さい」
アルシャインはオルランドの肩をそっと押しながら2階に上がる。
グレアムも2階に上がった。
オルランドは隣の部屋でルベルジュノーとリュカシオンが世話をする。
マスターグレアムは女の子をくるんだまま床に寝かせる。
「ベッドが汚れては寝かせられないので、ここで脱がせてあげて下さい」
そう言いマスターグレアムは少し離れて横を向く。
幼いとはいえ女の子なので、見ないように配慮しているのだ。
アルシャインはベアトリスの服を脱がせて、マリアンナと共に体と髪を綺麗に拭いてあげる。
あちこちにすり傷や痣がある。
そしてとても痩せている。
あの辺りの村が魔物に襲われたのは、確か夏だ。
「あたし、水とスープを持ってくる!」
そう言いマリアンナは下に行く。
「可哀想に…病気はしてないかしら…どうしよう、調べられるかな……」
アルシャインはベアトリスに服を着せてから立ち上がる。
「その壁際のベッドに寝かせてあげて下さい!」
そう言い駆け出そうとすると、パシッと腕をグレアムに掴まれた。
「また何か無茶をしようとしていませんか?」
「あの…ハイポーションがあれば鑑定出来るんですっ」
「…あのスチークスの森には、確か使徒が居る筈です。ノア、呼んで来てくれないか?」
グレアムがドアの外に居るノアセルジオに言うと、ノアセルジオは頷いて走っていった。
「落ち着いて下さい、アイシャマスター。この子を寝かせてあげましょう」
そう言うとグレアムは器用に片手でベアトリスを抱き上げてベッドに寝かせる。
手を離すとアルシャインが何か無茶をすると分かっているからだ。
「その…落ち着くので離して下さい…」
アルシャインが真っ赤になって言うので、グレアムは手を離して椅子をベッドの近くに置く。
「ここに座っていて下さい」
そう言うとアルシャインは素直に椅子に座って女の子の髪を撫で上げる。
「……あっ!マスターグレアムも汚れてしまいましたよね、洗濯しましょうか?」
そう聞くとグレアムは微笑んで上着を持ったまま魔法を唱える。
「清浄化」
すると一瞬で汚れが無くなる。
「ーーーえ?あれ…?最初から使ったら良かったのでは…?」
アルシャインが首を傾げて言うと、グレアムは真面目に言う。
「この子達にはここのやり方でやらなければ、無意味かと思いまして」
「それは…そう、ですけど………。マスターグレアムは魔術師なんですか?」
「分類としては魔法戦士ですが、魔術師レベルの方が上ですね。戦士レベルは18で魔術師レベルは28です」
「レベルまで聞いてませんが、凄いですね」
「先程、貴女のレベルを拝見しましたので、言った方が公平かと思いまして」
そうグレアムが真面目に言うので、アルシャインはプッと吹き出してクスクス笑う。
「やだもう…」
そこに、使徒のジュリアがノアセルジオの案内で入ってくる。
「失礼します…この子ですね」
「はい」
アルシャインは立ち上がって退く。
ジュリアは手をかざして呪文を唱える。
「精査」
唱えてしばらくして、ジュリアは信仰のネックレスの牙を握り締めて唱える。
「毒の治療!回復!」
すると光がベアトリスを包んで、ベアトリスの顔色に赤みが差す。
「毒に侵されていたようですね、後は酷い栄養失調です」
「ありがとうジュリアさん」
「どういたしまして。では私はこれで…」
ジュリアはノアセルジオと共に下に行き、注文していたマンジュウ3種類を受け取って帰って行った。
グレアムは廊下に出てオルランドの肩を押して部屋に入れる。
「ヴェーチェ…毒に掛かってたの…?」
「ええ…でももう大丈夫よ」
アルシャインは笑って言い、オルランドをソファーに座らせてあげる。
グレアムは自分が邪魔になると判断して廊下に出た。
そこにマリアンナが水の入ったカップを2つとスープのお皿を2つ乗せたトレイを持って入ってくる。
「まずはお水を飲んでね」
そう言いトレイをテーブルに置いて、カップをオルランドに渡す。
オルランドは少しずつ水を飲んでからベアトリスにも飲ませようと立ち上がる。
「ヴェーチェに…」
「あ、あたしがやるから、スープを飲んでて」
そう言い肉や野菜の入った皿をオルランドに渡して、マリアンナはカップを手に椅子に座る。
看病は教会でも習っていたので、これが実践となる。
まだベアトリスの意識は無いので、綺麗なハンカチを水で濡らして、それをベアトリスの口に付けてあげる。
「口を拭くようにね」
後ろでアルシャインがアドバイスをする。
すると、ベアトリスがうっすらと目を開ける。
「…オル、にーちゃ…」
「!ここに居るよ!」
オルランドがすぐに寄ってきてマリアンナの隣に来て床に両膝をついてベアトリスの手を握る。
「お腹空いたよね、少しずつ食べようか」
アルシャインがスープ皿を手にしてマリアンナに渡す。
マリアンナはそっと少しのスープをすくってベアトリスの口元に運ぶ。
「はい、ヴェーチェ…口を開けて…あーん…」
マリアンナが笑いながら言うと、ベアトリスは弱々しく口を開く。
スープを味わって飲むと、ベアトリスは微笑む。
「…おいしい…」
「もう少し飲める?」
マリアンナが聞くと、ベアトリスは少し頷く。
4口飲んでベアトリスは眠ってしまった。
マリアンナはスープ皿をトレイに置いて言う。
「アイシャママ、この子はあたしが看病してるから、隣に行っていいよ」
「…分かったわ。さ、オルディ、隣に行きましょう」
アルシャインはオルランドを促してみんなと共に部屋を出る。
アルシャインはオルランドと、ルベルジュノーとレオリアム、リュカシオンとグレアムと共に隣の部屋に入った。
トレイはグレアムが持って出た。
「まずは食べなさい」
そう言ってグレアムがトレイをテーブルに置く。
全く食べていないからだ。
オルランドはソファーに座って一口食べてみる。
「…美味い…!」
そう呟いてからガツガツと食べる様子を見て、アルシャインはホッとしてリュカシオンに言う。
「パンを持って来てあげて」
「分かった」
答えてリュカシオンは下に行く。
リュカシオンがパンをオルランドに渡すと、驚く。
「硬くない…!」
街のパン屋が焼いた物はカチカチで石のように硬いのだ。
「マスターのパンは世界一美味いんだ!食ってみろよ」
ルベルジュノーが笑って言うと、オルランドはおずおずとパンを一口食べる。
「…酸っぱくない…」
オルランドはパクパクと食べて喉に詰まらせて、慌てて水を飲む。
「…落ち着いたかしら?」
アルシャインが聞くと、オルランドはコクッと頷く。
「じゃあ、ここで暮らす条件を話すわね」
「条件…?」
「ええ。ここではみんなが働いているの。朝にニワトリやミュージの世話をしたり、庭の水あげに畑の世話…教会にも通って貰うわ。食事を作ったり、配膳をしたり……その代わり、食事と部屋を提供出来るわ」
「…えっと……それ、普通の孤児院だよね…?前の孤児院だと色々作ってたし、一日一食だけだったし…。でもそこが潰れて、追い出されたんだ」
「なんて酷い…」
アルシャインがオルランドの頭を撫でる。
「俺も孤児院に居た事あるけど、鉱山に行かされたし、ムチ打たれたし嫌な所だったよ。ここは天国さ!自分で作った物は、半分くらいお金をもらえるんだ!」
ルベルジュノーが言うと、オルランドは目を見開く。
「本当?!ここに居たい!…居てもいい?服もキレイだし、ヴェーチェも治してくれたし…」
「ええ。貴方の部屋は…」
言い掛けると、クリストフが言う。
「僕達と一緒は?僕とメルだけだから、ベッドくっつけて寝転がってるんだよ!もう一つくらいベッドくっつけられるよ!」
「リフとメルはそれでいいの?」
アルシャインが聞くと、2人は頷く。
「なら、俺と交代するのは?レアムと同じ年なら同じ部屋のがいいんじゃないか?」
そうルベルジュノーが言うと、レオリアムが目を丸くして言う。
「僕が?…そっか、同じ年なのか…」
レオリアムは少し考えてから頷く。
「いいよ。オルランド、僕と一緒の部屋になるけどいいよね?僕はレオリアム。レアムって呼ばれてる。医者を目指しているんだ、宜しく」
「医者…凄いな……宜しくレアム。俺はオルディって呼ばれてたよ」
2人は握手をする。
どうやら子供達の間で決まったらしい。
「じゃあ…ジュドーのベッドを作らないとな」
リュカシオンが言い、ルベルジュノーと共に頷き合って外に出る。
まだ麦稈ロールも倉庫にあるし、布団も余分に作ってあるのだ。
「あ、余った布団って花柄だったっけ?」とレオリアム。
「確か水色の草花柄ね。はい、鍵を持っていって」
アルシャインが鍵をレオリアムに渡すと、レオリアムはオルランドを見る。
「一緒に準備を手伝ってくれ。君の布団を倉庫から出して移してから、ジュドーの荷物と布団をリフ達の部屋に移さないと」
「分かった」
オルランドはすぐにレオリアムと共に歩いていく。
するとグレアムが食器をトレイに置いて持って言う。
「自分達できちんと決められるのは素晴らしい事ですね」
「ええ…いつの間にか、みんなで色々と決めて実行する力を身に着けたんですね…偉いわ」
アルシャインは微笑みながら開いていた部屋の窓を閉める。
「込み始めてきたようですよ、下に行ってあげて下さい」
「あ、トレイは私が…」
そう言うと、下から
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