金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter99 初めての浄化

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馬車の中で、アルシャインは俯いていた。
「聖女じゃなくて聖女なのに…」
そう言うアルシャインをグレアムが励ます。
「そんなに落ち込む必要はありませんよ、アイシャマスター。貴女は金の羊亭のマスターです。胸を張って堂々として下さい」
「今でもカドミニオン王国の聖女っていう扱いなんでしょうか…?アレって消えませんか?」
「…聖女扱いは嫌なんですか?」
「…だって……国を追われたのにあんな表示だと、まるで逃げてきたみたいで…犯罪者みたいな感じがして……」
そう言うと、メルヒオールがアルシャインに抱きつく。
「大丈夫だよアイシャママ!犯罪者じゃないよ!」
「アイシャママはマスターだよ!」とクリストフ。
「そうだよ、マスターは僕らのマザーでもあるんだから!誰にもそんな扱いは受けさせないよ!」
レオリアムが強い口調で言い、みんなが頷く。
「みんな、ありがとう…」
アルシャインは涙ぐみながらもレオリアムやメルヒオール、クリストフ達を抱き締める。
グレアムもそれに頷いて言う。
「誰も犯罪者扱いなどしません。それに、あれは職業を映し出しただけで、次に表示されるのは〝金の羊亭のマスター〟の筈です。今は聖女では無いでしょう?」
「そう…ですけど……これからちょっとやる予定で…」
「……やる…?」
「マスターグレアムからもらった聖水もあるので…」
アルシャインは苦笑して言った。

 館に帰ると、もう色々な荷物が届いていた。
リュカシオンが豪華で繊細な彫刻の入った本棚をじーっと見つめている。
「ただいま」
「お帰り…ってなんか元気無いけど、何かあった?」
リュカシオンとルベルジュノーが心配そうにアルシャインの側に寄る。
「うん…みんなに隣国の聖女だってバレちゃったの……あそこにジャレドさんが居たのよ~噂が広まったらどうしよ~」
そう言ってアルシャインはその場に座り込んで顔を伏せる。
ジャレドはいつも紅茶の茶葉を買う所の店主だ。
「どうしようったって…バレたなら…開き直って自慢してみたら?」
そうリュカシオンが言うと、アルシャインは目を丸くして顔を上げる。
「…え?」
「いや、聖女だったなんて自慢出来るじゃんか。…マスターの事だから、ずっと真面目に頑張ってたんでしょ?」
「当たり前じゃない!星の日だって治療をしたり…っ」
「だったら堂々としようよ!俺はずっと自慢したかったんだよ!ウチのマスターは立派な聖女だったんだって!」
そうルベルジュノーが言うと、そうだそうだと周りが言う。
「お嬢様で聖女ですごかったんだって!…見てはいないけど、魔法見てるし!」とルーベンス。
「瘴気やられの直し方も知ってるんだって!」とマリアンナ。
「みんなに歌や料理を教えてくれるって!」とティナジゼル。
「世界一、料理が美味しいんだって!」とリュカシオン。
その言葉にアルシャインはクスクス笑う。
「ヤダ…料理は聖女と関係無いわよ」
そう言いアルシャインは立ち上がってみんなを一人ずつ抱き締める。
「ありがとう…あなた達が居なかったら、私きっと立ち直れないでいたわ」
「アイシャママが居なかったら、私達…生きてたかどうか分からないのよ。感謝するのは私達よ」
そうフィナアリスが言うと、みんなが微笑んで頷いた。
「ふふ…元気出た!」
そう言いアルシャインは真っ黒な家具と服の山を見る。
「よーし…やってみましょう!」
アルシャインは全ての瘴気やられの周りに丸く聖水を一滴ずつ垂らしていく。
そして、リナメイシーを見て言う。
「浄化の呪文は知ってる?」
「ううん」
リナメイシーが首を横に振ると、アルシャインはリナメイシーの肩を抱いて瘴気やられの前に立つ。
「両手を組んで、ヒールを使う時みたいな感じで〝セイン・ピュリファイ〟と唱えるの。聖なる浄化という意味よ」
「聖なる浄化…セイン・ピュリファイ…」
リナメイシーが呟く。
「ええ、やってみるわよ、いい?手を組んで…祈りを込めて、浄化するイメージを持って……せーの!」
聖なる浄化セイン・ピュリファイ!」
2人で唱えると、聖水から光が天に立ちのぼって、スーッと消える。
すると真っ黒だった品々が、元の色へと変化した。
「わあ!」「おお」
みんなが驚きの声を上げる。
「すごいすごーい!」
ティナジゼルとクリストフとメルヒオールがはしゃいで駆け寄る。
リナメイシーはドキドキする胸を押さえてアルシャインを見上げる。
「今、あたし出来てた?」
「ええ!初めてにしては出来てたわ!」
アルシャインが言い、2人が笑い合っているとみんなが拍手をする。
「やっぱ自慢のマスターだよ!」とリュカシオン。
「リーナも凄いな!」とノアセルジオ。
「さあ部屋に運びましょう!」
アルシャインが言い、カシアンとリュカシオンで本棚を書斎に運び、ティナジゼルは庭の置物を玄関の横に並べていき、クリストフとメルヒオールは靴やブーツを運び、レオリアムとアルベルティーナとマリアンナは馬車から紙を運び入れ、ユスヘルディナが箱を運び入れ、リナメイシーとルーベンスは小物などを入れていく。
アルシャインとフィナアリスが鏡を運んでいく間に、戻ってきたカシアンとリュカシオンとルベルジュノーが冷蔵庫を中に入れていく。
「これ、今の内は穀物倉の中でいいよね?!」
ルベルジュノーが聞くと、
「ええ!」
とアルシャインが大きな声で返事をする。
「ドアは?どうする?」
レオリアムが聞くと、アルシャインが走ってくる。
「えーっとね……色を塗りたいの!部屋の色と同じに!後ね、みんなの部屋のドアも…」
「えー!それは変よ!そのままの色にしよう?」
アルベルティーナとマリアンナが反対する。
「…変?」
「変!ドアは壁と同じがいい!」とリナメイシー。
「いつか壁紙を張り替えた時に考えたら?」とレオリアム。
「…そうね……」
アルシャインはしょんぼりしながらもドアをガゼボに運んでいく。
「じゃあ、まずはドアノッカーを取り付けてから変えるから、ここのガゼボに置いてねー」
アルシャインが言うので、手の空いた者からドアを運ぶ。
大変そうなので、グレアムも手伝った。
「あ!マスターグレアムまで…ありがとうございます」
「いえいえ。…運び終えたら、森に行きましょう」
微笑んで言い、グレアムは他の物も運んだ。
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