金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter97 買い物

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 街に着くとまず、紙専門の露店でみんなで紙袋用の紙を見た。
「これにさ、金の羊亭って文字が入れられたらいいのにね」
マリアンナが言うと、アルベルティーナがパンと手を打つ。
「それいいね!ねぇアイシャママ!ペンか何かで出来ないかな?」
「そうね!鉛筆じゃすぐに消えちゃうし…」
「それなら、このインクはどうだい?」
店主が言って色とりどりなインク瓶を取り出す。
「植物から作ったインクだよ。最近流行ってきたから売り出しててね。赤、青、黄色と緑があるんだ」
「素敵!」
すぐに女の子達が飛び付いた。
「あ、このノートいいな」
ノアセルジオがノートを見付けてみんなの分を取る。
「後は無いかしら?」
アルシャインが聞いて、みんなが買う物は無いかを探す。
伝票やそれぞれに使うノートの追加をして会計を済ませて、荷馬車に乗せた。
その次にお土産用のボックスが売ってないかを見て回る。
「…高いね」とクリストフ。
様々なボックスが売っている露店は中々の金額だ。
どこかに安いのは無いかと探して、最初の露店の裏に見付けた。
「あれ…さっきのおじさん」とティナジゼル。
「おや、今度はボックスかい?」
「ええ…ここは安いのね」
「あちこちの潰れた店から買い取ったりしてるのさ。未使用だから安心して買ってくれ」
「なるほど…」
アルシャインが答えている間に、みんなが選ぶ。
「これサンドイッチにいい!」とユスヘルディナ。
「これはクッキーとか!」とリナメイシー。
「ボーロやスコーンはこれね!」とアルベルティーナ。
「コロコロドーナツはこれだね!」とクリストフ。
「ワンホール買う人にはコレかな」とレオリアム。
「これはパイにいいよ!」とマリアンナ。
「マンジュウはこれ!」とメルヒオール。
「団子はこれ!」とルーベンス。
アルシャインが見る間もなく決まったようだ。
「みんな早いわね!じゃあ…それぞれにたくさん買わないとね!」
それらを買い占めても5日もつかどうか…。
「こんな厚手の紙は無いかしら?あれば作れるんだけど…」
そうアルシャインが聞くと、店主が奥の布をめくって何枚か厚手の紙を出す。
「こんなのかい?」
「ええ!…たくさん欲しいけど…ある?」
「今は無いんだ。帰れば倉庫にたくさんあるよ。紙の盛んな国から輸入してるからね」
「明日買えるかしら?」
「いいよ、届けようか?金の羊亭は評判がいいからな」
「本当?ありがとう!」
「じゃあ、明日の午後に届けるよ」
「お願いします!私はマスターのアルシャインです。アイシャって呼んで下さい♪」
「俺は紙商人のヘルベンだ、宜しくな」
そう言いヘルベンはアルシャインと握手をする。

 会計を済ませてから荷馬車に箱を乗せて、リサイクル屋に向かった。
リサイクル屋の横で荷馬車を預かってもらい、中に入る。
「冷凍庫あるかな…」
見て回ると、魅力的なランプや置物を見付ける。
色んな模様を施したドアも飾られていてアルシャインは目を輝かせて見つめる。
「素敵…」
そこにハンクが来た。
「やあいらっしゃい、アイシャマスター。今日はドアかい?」
「あー…欲しいけどそれは今度で……」
「瘴気やられのドアなら、今日は一つ百で譲るよ。大量にあってね」
「ウチのドアにはまるかしら?」
「玄関以外はドアの大きさは共通だから平気だよ」
「買うわ!全部!」
「え、30個あるけど…」
「いいわよ!今後の為もあるし!」
「じゃあ今回も瘴気やられの物を紹介するよ」
そう言いハンクは奥に案内する。
「アイシャママ!今日の目的はドアじゃ無いのよ?」
リナメイシーが言うと、アルシャインは笑って言う。
「いいじゃないの。これで全部の部屋を綺麗に出来るのよ、みんなの部屋も!」
アルシャインはとても楽しそうに言う。

奥の倉庫には瘴気やられのドアや置物、ランプに家具、小物など色んな物が置いてあった。
「人のいない館に魔物が棲みついたらしくてね、全部撤去してきたんだ」
「普通は捨てるのに?」とカシアン。
「…アイシャマスターなら、買うかと思ってね!」
ハンクは笑いながら言う。
みんなで真っ黒な家具をじっくりと見る。
「これ冷蔵庫だ!」
レオリアムが言うと、みんなが寄ってくる。
大型の冷蔵庫が3つもある。
「これは幾ら?」
アルシャインが尋ねると、ハンクが笑って言う。
「それらの家具は70でいいよ、その代わり…お願いがあるんだ」
「お願い?」
みんなは息を呑む。
「ーーートルティージャを、作ってくれないか?」
「トルティージャ?」
みんなが首を傾げる。
「卵にジャガイモとトマトが入ってて…」
ハンクが言い掛けると、アルシャインがパンと手を打つ。
「トルティージャ!卵料理ね!野菜たっぷり入れたら美味しそうだな~って本を見てたのよ!思い入れがあるの?」
「…昔、田舎で暮らしてた時に母さんが作ってくれてたんだ。今はもう病気で死んじまって食えないから…。アイシャマスターなら作れるかなって…」
「そうなの…聞いてごめんなさい」
「いや、いいんだ。安くするからさ、一度でいいから作ってみてくれよ」
「…分かったわ。同じ味は出せないけど、文句は無しよ?」
笑ってアルシャインが言うと、ハンクも笑う。
その後、ドアと冷蔵庫2つと、手持ちのキャンドルホルダー、薬棚や作れそうにない豪華な飾りの本棚、壁掛け鏡を30個、珍しい地球儀らしき物と階段の上に良さそうなペンダントシャンデリア、ミシン部屋に置くトルソー、真っ黒だがどこも破れたりしていないシャツやワンピース、ズボンや靴やブーツを選び出していく。
「アイシャママ、買い過ぎじゃない?」
アルベルティーナが言うと、アルシャインはみんなを見る。
「だって、みんな靴がボロボロじゃないの。私も破けそうだし…服はすぐにサイズが合わなくなるでしょう?小さいのから大きいのまであるに越した事はないわ」
そう言い、他にも服を選んだ。
小物や服はタダで貰えた。
ついでに庭の飾りだった動物や小人の置物も先に届けて貰う事にした。
「あ!ティーセットのトレイ!」とマリアンナ。
「いけない忘れてた!」
アルベルティーナも言い、トレイを探す。
するとハンクが東国の茶器セットを持ってくる。
「こんなのかい?」
「わあ素敵!」とアルシャイン。
四角くて丁度いいサイズのトレイがたくさんある。
「じゃあ、20個選びましょう♪」
アルシャインが言ってみんなで好きな模様を選んだ。
カップもミルコが持ってきた物と同じ物だったので買う事にした。

「今夜食べに行くよ!トルティージャ、楽しみにしてるから!」
ハンクは笑顔で言い、店員に運ばせていった。
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