上 下
95 / 116
第一章 始まりの館

Chapter93 フルコース

しおりを挟む
 ディナーで混雑する前にサンマを焼いていると、みんながじーっと見てきた。
「んふふ…食べたいんだなー?」
アルシャインがそう笑いながら聞くと、みんなはコクリと頷く。
「もー…そう言うと思って、お昼はパスタ食べたのよ!みんなで分け合って食べましょう♪」
そう言い、アルシャインは焼いたサンマを半分に切って大皿に盛り付ける。
虹色貝とエビのピッツァも特別に作って、みんなで囲んで食べる。
宿泊客は日替わりパスタを頼んできたので、スープとポテトを勧めて出した。
そこにスーツを着た男性で、黒の部屋に泊まっているお客さんが来てカウンター席に座って言う。
「マスター、今日のオススメは何かな?」
食べ終えて食器を片付けている時にそう言われてアルシャインが考えて答える。
「そうですね…魚が新鮮なので、オクトパスとカランクスの唐揚げとアジフライとサラダ…と言いたいんですけど、虹色貝とムール貝も美味しくて!」
「カランクスか…カルパッチョは無いのかな?」
「お刺身は大丈夫ですか?」
「出来たら食べたいな。焼き魚のいい匂いがして食べたくなってね。出来ればムニエルも欲しいが…」
それを聞いて、アルシャインはチラッとみんなを見る。
「ねえ、カルパッチョは前菜になるし…フルコースみたいにするのはどうかしら?」
そう聞くと、みんながキッチンに集まって料理の本を開いて会議が開かれる。
「フルコースは…前菜、スープ、魚料理、ロースト以外の肉料理、ソルベ、ローストの肉料理、生野菜、甘味、果物、コーヒー…!?」
読み上げたレオリアムが驚く。
「こっちは前菜、スープ、魚料理、ソルベ、肉料理、チーズ、デザートだって…ソルベは抜かしてもいいみたいだけど…ソルベって何?」リュカシオンが言う。
「リオンの方にしよう!」
ルーベンスが言い、鉛筆でノートに書く。
「前菜はカルパッチョ、スープは日替わり、えーと…魚料理はカランクスのムニエルでムール貝添え、肉料理は…?」
「今日は赤鹿のコトレッタよ!」とフィナアリス。
「チーズは無しで…デザートは栗マンジュウね!魚料理と肉料理の間に口直しのボーロで最後にグリーンティー!…どう?」
アルシャインが言い、ルーベンスが言う。
「魚の仕入れと考えて、230Gは?」
「いえ、250Gで!いかがですか?」
フィナアリスが言ってお客さんを見る。
「すごいな…こんな短時間で決められるなんて」
お客さんが感心する。
「だって早く決めないとアイシャママは安く済ませるんだもの!」とマリアンナ。
「フルコースは…その人だけ?」
今しがた入ってきたミュージ売りのコルマンが切なそうに聞く。
「えー…んー……」
みんなは顔を見合わせて唸る。
「ディナーで限定5名まで!」
アルベルティーナがそう言い、続けてルベルジュノーが黒板に書く。
「全部お任せで!」
ディナーのお任せフルコース限定5名 250G
そう黒板に書かれた。
するとみんなが頷いて調理に取り掛かった。
カルパッチョはオリーブオイルとレモン汁と塩コショウでソースを作って、カランクスの刺し身の上に玉ねぎの千切りとベビーリーフを添えた。
これで立派な前菜だ。
それを食べている間にムニエルとムール貝の白ワイン蒸しを作る。
ムニエルにはジャガイモを添える。
そこにお客さんが入ってきて、すぐに残り3名のフルコースが注文される。
「いやぁラッキーだな!」
フルコースを注文した種屋のホレスが言うと、夫婦でフルコースを注文した野菜農家のウィルモットと妻のドルシラが笑う。
「初めてのフルコースだもの、ドキドキするわ!」
ドルシラが言うとウィルモットも頷く。
「楽しみだな」
「くそ…オクトパスとカランクスの唐揚げとアジフライとサラダと…ステーキと白エビフライのセットをくれ!」
ペンキ屋のダグラムが言うと、リサイクル屋のハンクと飴屋のルパートも同じ物を注文した。
すると他の男性客もセットを2つ頼み、女性は日替わりパスタを注文した。
「そんなに食べられるの~?」
慌ただしく作りながらアルシャインが聞くと、ハンクが頷く。
「食えるさ!男はたくさん食べるんだから」
その言葉に微笑みながら、アルシャイン達は忙しく料理を出していく。

 途中でエビとイカが売り切れてしまい、注文出来なかったお客さんは日替わりパスタに切り替えた。
そしてマンジュウ3種類と団子とグリーンティーが次々に売れていく。
「これ持ち帰りで10個ずつ!」
大抵のお客さんがそう頼んでいく。
「このグリーンティーは、デカい器には出来ないのかい?」
そう聞かれて、アルシャインは苦笑する。
「この専用の器じゃないと、美味しく提供出来ないんです」
「コレだとすぐ飲みきって淋しいんだよ。何とかならないかな?」
そう言われて、アルシャインはキッチンのみんなを見た。
「確かに、紅茶も木のカップで出してるから…グリーンティーだけ小さくて物足りないかも」とフィナアリス。
「でも美味しくなかったら意味がないし…グリーンティーはさじ一杯でちょうどいい大きさだから…」とルーベンス。
「あ!アレはどうかな?!」
アルベルティーナがパンと手を打って、穀物庫に走っていく。
そして、小さくて綺麗な細工の木のトレイを手にして戻ってきた。
「まあ、綺麗な細工ね!」
アルシャインが聞くとアルベルティーナは笑う。
「バザーの帰りに見付けて買ったのよ!コレに、こうして…」
アルベルティーナは木のトレイにカチャカチャと専用の小さな器を4つ並べて、小皿を置いて団子を3個乗せた。
「グリーンティーセット!どうかな?!4杯とお団子一個ずつで30G!どう?」
「お団子3つは…あ!栗あんを?」
ルーベンスが笑って聞くと、アルベルティーナが頷く。
「ええ!みたらしとあんこ、栗あんの3つ!特別感が出るでしょう?」
「それいい!…トレイは一個しか無いな…」とルーベンス。
「露店にお茶セットにいいよ~って売られてたから…明日、すぐに教会の帰りに買ってくるわ!」
アルベルティーナが言うと、隣に居たマリアンナが笑って頷く。
「一緒に行くわ!リーナとユナが早く帰って料理してくれない?」
「分かったわ」とリナメイシー。
「任せて!」とユスヘルディナ。
「私も行きたいな~…」
ゴニョゴニョとアルシャインが言うと、
「ダーメ!」
とマリアンナとアルベルティーナに言われる。
「明日も絶対混むし、アイシャママが行くと何でも買うでしょ?!」とマリアンナ。
「そうよ!アレもコレもって買っちゃうんだから!お留守番してて!」とアルベルティーナ。
「…はーい」
小さくアルシャインが返事をすると、みんなが笑った。
木のトレイは見付け次第10個以上買う事に決まった。

お客さんがボーロやクッキー、パウンドケーキやコロコロドーナツ、スコーンやキャンディもお土産に買って帰り、早めの店じまいとなった。
カシアンとノアセルジオとリュカシオンが外の見回りと戸締まりをして、残ったみんなで掃除をする。
いつものようにアルシャインがピアノを弾くと、マリアンナがリクエストをする。
「アイシャママ!鳴き声遊びがいい!」
「分かったわ!…てんとう虫のお散歩だ♪メエメエ鳴くのはだぁれ?」
「羊!」とメルヒオール。
「当たり!羊さんとお散歩だ♪横からワンワン聞こえてきたよ?」
「犬!多分ね、小さくて白いの!」とリナメイシー。
「正解♪さあどこまでも歩こうか♪ゲコゲコ誰かが跳ねてきた♪」
「カエル!」とクリストフ。
「当たり~♪カエルさんは犬の背に乗って♪森に入るとホー、ホー」
「フクロウ!」とマリアンナ。
「正解♪やあやあご一緒しませんか?シー!この声は…?」
「しー?」
みんなが首をかしげた。
「シャ~、ほらほら誰かが這ってきた♪」
「あ、ヘビ!」とルベルジュノー。
「正解♪お腹を空かせたヘビさんだー逃げろ~♪キーキー、夜に誰か来たよ?」
「きー…サル?」とレオリアム。
「夜に動くよ~♪バサバサバサ!」
「夜にキーキーバサバサ…ああ、4つ目鳥でしょ!」とカシアン。
「違ーう!」
「角ウサギだ!」とリュカシオン。
「違う~」
言われてみんなが首をかしげた。
「正解は~」
「待って!…コウモリ!吸血コウモリよ!」
慌ててフィナアリスが言うと、アルシャインは笑う。
「正解!…コウモリはこの辺では余り見ないもんね。コウモリさんさようなら~、海を目指してお散歩だ♪青い海が見えてきたら、何が聞こえるかな~…」
言い掛けてアルシャインはみんなを見る。
「海は見た事ある?」
そう聞くとみんなは首を振る。
するとカシアンが言う。
「俺は任務で行ったよ。綺麗なコバルトブルーでさ、しょっぱいんだ!港に行くと磯臭くて!」
「ちょっと!そんなに臭くないわよ!海はね、砂浜が広がって透き通る水で…深い所はエメラルドやコバルトブルーに見えるの!泳ぐと気持ちいいのよ~」
「へー!ナージィ行きたい!」とティナジゼル。
「ええ、いつかみんなで行きましょうね!」
そう言いアルシャインはピアノに布を掛けて、編み物のカゴを手にしてロッキングチェアに座る。
みんなはローズをかまいに2階に行き、少しするとノアセルジオが降りてきてカウンター席でグリーンティーを飲む。
「アイシャも飲む?」
「…ええ」
答えると、ノアセルジオは10Gをカウンター裏の袋に入れてグリーンティーを注いで、アルシャインの側に置く。
「あ、お金…」
「僕のおごり。…匂い袋作っておくよ」
そう言いノアセルジオは針と糸と端切れ布の入ったカゴを手にして縫い始める。
「アイシャは、海で泳いだの?」
「ええ…巡礼した日に、自由時間があってね。みんなではしゃいで…少しだけだけど、楽しかったわ」
そう思い出を語るアルシャインは、本当に楽しそうに微笑んでいた。
「いつか行こうよ。…お金貯めるからさ、みんなで海に」
「ええ!でも、お金ならみんなで貯めましょう…今のままで大丈夫よ。…来年の夏とか…行けるといいな~」
アルシャインは目を輝かせながらそう言い、編み物をした。
それをノアセルジオも微笑んで見て、縫い物をする。
外では虫達の鳴き声が響いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王女は世界ランキング1位の元廃ゲーマー ~一生Lv1固定が確定しちゃってても、チート級な知識の前にはそんなの関係(ヾノ・∀・`)ニャイ

織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
 先日15歳を迎えたファンダール王国の第18王女アイラ。彼女の母は平民であったがために、ほとんどの血縁者だけでなく王家に関わる者たちから疎まれ続けていた。  そのアイラは15歳を迎えた者が挑まなければならない『王家の試練』に挑む。が、崩落事故に巻き込まれダンジョンの最奥でたった一人となってしまう。だがその事故の衝撃で前世を思い出した。  と同時に、今自身の生きている世界が、前世でやり込んでいたゲームである『ルナティック・サーガ』シリーズの世界だと気づく。そして同時にアイラは転生時に女神から与えられたとある効果により、Lvを1から上げることが出来ないことも気がつく。  Lvは1固定、ダンジョンの奥底でたった1人、しかもそこは全滅必至なダンジョンだと知ってもいる。どう考えても絶望的な状況……  そう、それはアイラが普通の人間であったのでなら、の話である。 「なんだ、低レベルソロ縛りの真似事をすればいいだけね。そんな縛りじゃ目を瞑ってもクリア出来るわよ。しかもレギュレーション違反もない、裏技もバグ技も何でも使い放題、経験値分配も気にする必要なし……って、やりたい放題じゃん!」  しかし、そんな絶望的と思われる状況もアイラにとっては、10万を軽く超える時間プレイし、何京回と経験済みで何万回とクリアした制限プレイの中の一つのようなものでしかなかった。  これは普通にゲームを楽しむことに飽き足らず、極限の状況まで自らを追い込むことで、よりゲームを楽しんでいた世界ランキング1位の廃ゲーマーが、そのチートと呼ばれても遜色のない極悪な知識を惜しげも無く使い、異世界生活を悠々自適に過ごす物語である。

竜と生きる人々

ねぎ(ポン酢)
ファンタジー
神はその身から様々な神聖な生き物を作った。 そして神に近い大地に彼らを住まわせた。 神聖な生き物たちはやがて分岐し、一部の者たちが世界に散っていった。 聖地を離れた彼らは、その土地に合わせ、その生き方に合わせ、姿形を変えていく。 そうやって分岐した生き物たちの子孫が今、多くの土地に根付いている。 そこには人間の他、多くの動植物、 そして竜がいた……。 これはそんな世界に生きる人々の物語。

伯爵令嬢は婚約者として認められたい

Hkei
恋愛
伯爵令嬢ソフィアとエドワード第2王子の婚約はソフィアが産まれた時に約束されたが、15年たった今まだ正式には発表されていない エドワードのことが大好きなソフィアは婚約者と認めて貰うため ふさわしくなるために日々努力を惜しまない

あなたが幸せになれるなら婚約破棄を受け入れます

神村結美
恋愛
貴族の子息令嬢が通うエスポワール学園の入学式。 アイリス・コルベール公爵令嬢は、前世の記憶を思い出した。 そして、前世で大好きだった乙女ゲーム『マ・シェリ〜運命の出逢い〜』に登場する悪役令嬢に転生している事に気付く。 エスポワール学園の生徒会長であり、ヴィクトール国第一王子であるジェラルド・アルベール・ヴィクトールはアイリスの婚約者であり、『マ・シェリ』でのメイン攻略対象。 ゲームのシナリオでは、一年後、ジェラルドが卒業する日の夜会にて、婚約破棄を言い渡され、ジェラルドが心惹かれたヒロインであるアンナ・バジュー男爵令嬢を虐めた罪で国外追放されるーーそんな未来は嫌だっ! でも、愛するジェラルド様の幸せのためなら……

夫は親友を選びました

杉本凪咲
恋愛
窓から見えたのは、親友と唇を重ねる夫の姿。 どうやら私の夫は親友を選んだらしい。 そして二人は私に離婚を宣言する。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

スウィ〜トな神様ご降臨! 〜おいしい甘味はいかが?〜

未来乃 みぃ
ファンタジー
前世で世界一のパティシエになった七星陽幸(ななほしひさめ)。 暴走したトラックが陽幸の店に突っ込み、巻き込まれ死んでしまった。 なんと、この事故は神さまのせいだった! 異世界に転生することになり、もう一度パティシエールとしての生を謳歌する物語! ◇ ◇ ◇ この物語は友達(すぅ〜さん(偽名))と一緒に書きました! 更新は日曜12時にする予定です。 感想お待ちしてます!

処理中です...