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第一章 始まりの館

Chapter92 花選び

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 庭でリュカシオンが廃材を集めて作業に取り掛かると、ランチの時間で混雑してきた。
お客さんが外で待ち、店の中が慌ただしい…。
さすがに無視も出来ずに、リュカシオンは中に入って裏に回り手を洗ってから手伝う。
「何が足りない?」
「ジャガイモ切って!あと玉ねぎと…あ、そこのレンズ豆取って~!」
アルシャインがハンバーガーを作りながら言う。
リュカシオンは穀物倉からレンズ豆を取ってきて置いてから、カシアンと共にジャガイモを剥く。
「揺りかごは出来そうか?」
カシアンが手を動かしながら聞くと、リュカシオンは少し緊張した面持ちで答える。
「出来るだけ頑張るけど…赤ん坊だから、ゆるやかに揺れるようにしないといけないから…どうやって切るか考え中なんだ」
「そうか…お前なら器用だから出来るさ」
カシアンはリュカシオンの肩を叩いて剥いたジャガイモをキッチンに届けに行く。
「クッキーやコロコロドーナツはいかが?」
賑わっている中で、ティナジゼルがクッキーとコロコロドーナツの入ったカゴを手にして回る。
「スコーンとボーロもあるよ~!」
同じくメルヒオールがスコーンとボーロの入ったカゴを手にして回る。
「お守り匂い袋はいかが~?6Gだよ~」
クリストフがお守り匂い袋の入ったカゴを手にして回る。
定番となったお菓子は飛ぶように売れて、傷の治るお守り匂い袋もすぐに無くなる。
今日はグリーンティーのセットが3つも売れて、グリーンティーの茶葉も5箱も売れた。
「なんだか良く売れるわね~」
やっと空いたのでアルシャインがグリーンティーを並べていく。
「そりゃあバザーで大人気だったから、みんな買いに来るんだよ」
紅茶を飲みながら雑貨屋のジルダが言う。
「でも昨日はそれ程…」
言い掛けて在庫と売り上げ帳を見て、アルシャインは驚く。
「あら本当!やだ気付かなかったわ~」
「昨日マスターは魚市場に行ってたからね。昼間はお土産が空になったんだよ」
笑ってルーベンスが言う。
アルシャインは微笑みながら、みんなが作ったお土産をたくさん並べる。
〈きっとみんな、早く売れて欲しいわよね〉
売れれば6割が自分のお金になる。
いつかここを出ていく時にも役に立つだろう。
そう考えたら淋しくなった。
みんなを見てから、アルシャインはロッキングチェアに座って編み物をする。
…いつか、この店をフィナアリスに譲って、街に宿を出す。
隣はアルベルティーナのレストラン、反対側はレオリアムの医院の予定なのだから、淋しくはない。
〈5年じゃ早いかな…8年くらい?〉
そのくらい先の夢だ。
その頃には、自分も結婚して子供がいて…ーーー。
「ヤダ、どうしよう!」
思わず声に出すと、みんなが驚いてアルシャインを見る。
「何が?」とマリアンナ。
一緒に勉強していたアルベルティーナとリナメイシーもテーブル席から見ている。
キッチンで作業をしていたノアセルジオとフィナアリスとルーベンスも見ていた。
「な、何でもないのよ!」
笑って誤魔化しながら、アルシャインは庭に出る。
〈…ヤダ、子供が欲しいのに恋人もまだだなんて…〉
そう思いながらアルシャインは花の手入れをした。
〈恋人かぁ…〉
自分はどんな人と恋人になりたいのだろうか?
いくら考えても分からないのはーーー貴族として育ち、神聖なる場所で働いてきたからだろう。
 庭ではリュカシオンが揺りかごを作り、ユスヘルディナがスチークスとたわむれている。
道ではティナジゼルとクリストフとメルヒオールがボール遊びをしている。
カシアンは馬の世話、ルベルジュノーはミュージの乳搾り、レオリアムは畑の世話だ。
「…ハーブが足りなくなってきたかな…」
さすがに庭のハーブを全部使う訳にもいかない。
「ねぇリオン~、どこかにハーブ類が咲いてる所無いかしら?」
「ん?…あの荷車…」
話している最中に、ホロの付いた荷車を引いた男性が庭に入ってきた。
「やあ、部屋は空いてるかな?」
若い男性がそう聞くと、ティナジゼル達が笑って言う。
「空いてます!」とティナジゼル。
「案内します!」とメルヒオール。
「あ、荷車は裏に…」
そう言いアルシャインが駆け寄って、笑顔で荷車を見る。
「わあ!秋のお花がいっぱい!お花屋さんですか?」
「ああ。仕入れから戻る最中なんだ…ここは花がたくさん植えてあるな。ウチの花はどうだい?お安くするよ」
男性はガゼボの側に荷車を止める。
するとスチークスをしまったユスヘルディナと、勉強をしていたマリアンナとアルベルティーナとリナメイシーも見に来た。
「これはタイムとローズマリー!ちょうどハーブが足りなくて困ってたのよ~これ下さい!みんなは欲しい花はある?」
アルシャインがウキウキしながら聞くと、みんなは楽しそうに花を選ぶ。
「ナージィね、このピンクの!」
そう言いティナジゼルはコスモスを指差す。
「私はバラがいいと思う!アイアンアーチのバラを増やしましょうよ!」
フィナアリスがそう言って白いバラを見る。
「この紫っぽいバラとかも素敵!」とユスヘルディナ。
「ねえねえ!これキンモクセイよ!匂い袋にしたい!」
リナメイシーが奥の樹木を見て言う。
「この小さい花、キャンディに入れたい!」
そうアルベルティーナが言うと、男性がその鉢を降ろしてくれる。
「これはスイートアリッサムさ!パンジーやビオラも食べられるよ!」
「そうなんだ…ねぇアイシャママ、買わない?」とリナメイシー。
「買いましょう!パンジーとビオラも♪マリアンナは?」
そう聞くと、マリアンナは悩みながら言う。
「冬に咲くお花はあるの?」
「ああ、食べるならノースポールかプリムラかな。オススメだよ!」
「じゃあそれを下さい!キンモクセイは2本お願いします♪カシアーン、お支払いをお願ーい!」
アルシャインが大声で言い、女の子みんなで花と木を運んでいった。
慌ててカシアンが男性に花代を支払ってから、部屋に案内する。
荷車はリュカシオンが裏に置いた。
庭の左右にキンモクセイをそれぞれ植えるようで、ルベルジュノーとレオリアムとリュカシオンが呼ばれた。
「いい香り!」
みんなで言いながら少くなった庭の花を足していく。
「シンボルみたいで素敵!」とフィナアリス。
「そうね~…クリスマスにはモミの木も欲しいし…他にもジャスミンの木とか欲しいわね!…あるかしら?」
アルシャインが聞きに行くと、男性は笑って荷車からジャスミンの木を出してくれた。
これは紅茶にも出来るし、チキンを煮るといいと教わった。
「楽しみー!」
アルシャインはワクワクしながらジャスミンの大きな鉢を自分の部屋のドアの側に置いた。
「少ないけど…みんなで飲む分にはなるかな?」
「今取らないの?」とリナメイシー。
「ジャスミンの花は夜に咲くらしいの」
アルシャインは下に降りながら言い、レシピノートを広げる。
「夜に摘んで、茶葉と交互に瓶に入れるんですって。1週間程経ったら出して、半日くらい乾燥させる……。ふむふむ。グリーンティーで試してみましょう!まずはお花を摘むわよ♪」
「はーい!」
みんなが返事をして、まずはキンモクセイや食べられる花を摘む事にした。
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