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第一章 始まりの館
Chapter89 魚の仕入れ
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その頃。
カシアンは大根やキノコを買ってから、カボスを探し回っていた。
中央の露店には無かったので、東の露店を見てみたが、カボスもスダチも無かった。
最後に西の露店を見に来たが…街の西にある露店市場は、貧困街でもあるので一番注意が必要な場所だ。
しかし、珍しい物が多く置いてある場所でもある。
カシアンは青果露店を見てから、野菜の露店も見る。
「かぼす?聞いた事も無いな」
店員に言われてカシアンは他を探す。
「参ったな~…やっぱり東国の物だから売ってないのかな…アイシャがガッカリするだろうな…」
呟きながらも、しらみ潰しに探してみるが、どこにも無かった。
落ち込んで露店を後にすると、後ろから声を掛けられる。
「カボスが欲しいの?」
振り向くと、少し変わった衣装の少女が水の入ったバケツを手に立っていた。
「ああ…あるのかい?」
「えっと…今日仕入れたライムの中に紛れてて…あそこの屋台でライムソーダ出してる人がマスターで、あたしは雇われてるだけなんだけど…」
「ついてっていいかい?」
「いいよ」
少女は明るく笑って案内してくれる。
カシアンは屋台のライムソーダを注文して聞いてみる。
「カボスを譲ってくれないか?」
「ん?ああ…今日紛れてたライムの仲間かい?いいよ。トーラ、それを袋に入れてやりな!」
気の良さそうな女性が言うと、さっきの少女がカボスを5個袋に入れて渡してくれる。
「幾らだい?」
「いいよ、ソーダのオマケさ!」
「ありがとう」
カシアンはライムソーダの代金2Gにチップの5Gを置いて屋台を後にした。
〈これでアイシャも喜ぶぞ~〉
微笑みながらもカシアンは足早に帰った。
その途中。
もうすぐ館に着くという所で、前方に倒れ込んでいる黒人の女性とその側にしゃがむ子供を見つけた。
〈…親子か?〉
大きなバックパックを持った風貌から、旅人と思えたので近寄ってみる。
「どうしました?」
「…宿に向かう途中なのですが、足をくじいてしまって…」
女性が答える。
子供がヴァイオリンのような楽器を持っているのが見えた。
〈旅芸人か…〉
「宿はどこに?」
「ここをまっすぐ行くと、金の羊亭という宿があると聞いて…」
「そりゃ良かった。…これ持ってもらえますか?」
そう言い買い物袋を手渡して、カシアンは女性の前にしゃがむ。
「おぶっていきますよ」
「…ありがとうございます」
女性はカシアンの肩にもたれて、背負ってもらう。
「ただいまー!お客さんだ」
カシアンはそう言って中に入り、椅子に女性を降ろして買い物袋を受け取る。
「え、何…どうされました?」
アルシャインが聞くと、女性が答える。
「足をくじいてしまい、この方におぶってもらいまして…」
「そうでしたか…少し触りますね」
アルシャインは女性の足を手にして、魔法を使う。
「治癒」
淡い光が足を包んで、癒していく。
「あ…痛みが引いたわ!」
「良かった。念の為に、湿布をしておきましょう」
そう言い、アルシャインは2階に上がって救急箱を手に降りてくる。
そして中から塗り薬を取り出して女性の足に塗り、ガーゼを置いてから包帯を巻く。
「ありがとうございます」
「いいえ。お泊りですか?」
「はい、この子と2人で…あの、ここの部屋は色が塗ってあるって聞いて…」
「ええ!何色が残ってるかしら…」
アルシャインが立ち上がると、ルベルジュノーが鍵を手にしてやってくる。
「クリームとビリジアングリーンとインディゴブルーがありますよ!どこがいいですか?一人百Gです」
「ビリジアングリーン!」
元気良く答えたのは子供の方だった。
「じゃあ案内しますよ~」
そう言ってルベルジュノーが女性と子供を案内する。
その間に、カシアンが買い物袋をアルシャインに渡す。
「はい、大根とキノコとカボス!苦労したよ」
「大根って長いのね!皮をむいてすればいいのよね?…このライムソーダは?」
「お土産。腹減ったな…そろそろディナー?」
「ええ、私達のディナーはサンマの塩焼きとカジマグロのステーキとスープよ!カシアンには頭の肉とグラタンもご褒美にあげる!」
「頭の肉…?」
そう聞くと、皿に分けた頭の身を先に渡された。
「みんなは先に食べたから!さあ焼くわよ!」
アルシャインは張り切ってキッチンに戻った。
混雑する前に、お客さんの居ない頃を見計らって看板を下げて、小さい黒板に
〝今日のディナーは6時から〟
と書いてドアを閉めた。
自分達の食べるサンマが食べたいと言われても困るからだ。
「さあ召し上がれ~」
みんなでテーブル席に着いて、サンマの塩焼きとカジマグロのステーキとスープ、グラタンを置いた。
「あれ?グラタン…」
不思議そうにリュカシオンが聞く。
「まずはみんなで食べてからよ。…頂きましょう!」
アルシャインが笑って言い、みんなでサンマを食べてみる。
「美味い!」とルベルジュノー。
「焼き魚なのに泥臭くない!」とメルヒオール。
「カボス美味しいかな…」
クリストフがかじって酸っぱそうにする。
「あ、それはレモンの仲間だから食べちゃ駄目よ!少しずつ掛けてね」
アルシャインが言いながら隣のティナジゼルのサンマにカボスを少しだけ絞る。
「ほんの一滴から試してね」
「うん、美味しいよ!」とティナジゼル。
「大根おろしが魚と合うね」とノアセルジオ。
「辛いって聞いたけど、これなら平気!」とユスヘルディナ。
「このカジマグロのステーキも美味いな!」とカシアン。
「スープもいつもと違う味だ…」とレオリアム。
「魚のダシが出てるのよ。醤油も使ってるの」
そうフィナアリスが説明した。
「このスープ好き~」とマリアンナ。
「いい味だね!」とルーベンス。
「骨を取ってあげるよ」
ノアセルジオが隣のメルヒオールのサンマの骨を取り、それにならってカシアンもクリストフのサンマの骨を取ってあげた。
サンマは一人2匹も食べた。
デザートに団子も食べた。
「もーお腹いっぱい…」とリナメイシー。
「さあ、次は宿泊してるお客さんと、外で待ってるお客さんのディナーよ!」
アルシャインが笑って言い、みんなが片付け始める。
ディナーはカジマグロのステーキと日替わりパスタが飛ぶように売れた。
みんな魚の匂いにつられてパスタを頼んでいたのだ。
「これ美味いよ!明日も魚出るかい?」
茶葉売りのジャレドが聞く。
「オイル煮ならあるけど…貝は今日までね~」
アルシャインが苦笑して答える。
「仕入れないのかい?」
野菜農家のキースがカジマグロのステーキを頬張って聞く。
「魚市場は結構遠いから、毎日は行けないわ」
そう淋しそうに言うと、食べに来ていた漁師のトーマスが言う。
「なら、届けてやろうか?」
「え?!」
「…こんなに美味い所なら、俺の取ったのを任せたいし…毎日何が欲しいか言ってくれりゃあ、無い物は仕入れてきてやるよ」
「え、でも…トーマスさんの仕事が増えるんじゃ…」
「いつも水揚げしたらすぐに配達だから、変わらねーよ。…どうする?安くするぜマスター」
「ありがとうトーマスさん!是非!是非お願いします!オススメの魚介類とか…あ、すぐメモします!」
アルシャインは慌てて欲しい魚介類を書き出した。
「サンマ明日も食べたいし…みんなは?」
そう聞くと、ルベルジュノーが苦笑する。
「俺は肉がいいな」
「俺も」とリュカシオン。
それにカシアンとレオリアムとノアセルジオがウンウンと頷いた。
「男の子はお肉が好きよね~リフとメルはどうする?」
「僕も食べる!」とメルヒオール。
「僕は…ラザニアがいいな~」とクリストフ。
「あたしはグラタン食べたい!」とティナジゼル。
女の子達を見ると、悩んでいたのでサンマは20匹と書いた。
「後は…貝と、パスタはイカがいいな~…お任せで!」
他の魚や貝、イカ、エビなど30ずつくらいでお任せ、と書いてトーマスに渡した。
「…良し、任せとけ!」
トーマスは笑って言い、お土産にマンジュウや団子、レースのリボンや人形などを買って帰った。
「明日が楽しみね!」
アルベルティーナが言い、みんなで笑い合う。
お客さんも少なくなったので、アルシャインはピアノを弾く。
「さあさあ朝日だ、みんなおはよう~!今日は何を探そうか~?」
そう歌うと、テーブルを拭きながらティナジゼルが突然言う。
「あのねアイシャママ、あたし〝姫様と騎士様〟の恋物語が聞きたい!」
「ーーーん?」
「今日、聖歌隊が歌ってたの」
そうリナメイシーが言うと、ポンポンとピアノを鳴らしながらアルシャインは考えて、一つ思い出す。
「あ、〝聖なる姫と聖なる騎士〟って題名ね!」
「そうそれ!」とティナジゼル。
「分かったわ~…むかーし昔の物語…切なくも淡い恋の物語…」
そう言いアルシャインはピアノを弾きながら語る。
隣国に嫁ぐお姫様の物語だ。
お姫様が生まれた時から護衛騎士として仕えた男の子と、お姫様が互いに惹かれながらも別れる…。
しかしすぐに戦争が起きてお姫様は修道院に入れられて、護衛騎士を想い続けて暮らす。
お姫様は清い体のまま〝聖人〟とされた。
護衛騎士も、姫を想い続けて独身を貫き、その想いの強さから〝聖人〟となったというお話だ。
この国の聖女は異世界人なので、女性の聖人を〝聖女〟とは呼ばないのだ。
「…いつも、いつまでもあなただけを~…」
歌い終えると、女の子達が涙ぐんでいた。
「あらあら…さあ、お掃除して!」
お客さんも帰ったので、アルシャインはノアセルジオとカシアンと共に門を閉めて外灯を消し、見回ってからドアを閉める。
すると、黒人の女性が部屋から出て拍手をしてきた。
「とても綺麗な歌声ね」
「そうですか?嬉しいな…」
「あ、お邪魔してごめんなさい。その…お水をもらえますか?」
「はい」
答えてアルシャインがカップに水を入れて2つ渡した。
「良い夢を」
そう言い女性はドアから覗く男の子と共に部屋に入っていく。
みんながローズパイロットをかまいに行き、アルシャインは肉などの在庫を確認する。
「…んー…今日の分のジャーキーが完売なのよね…もう少しジャーキー増やしましょうか」
そう呟くと、ルーベンスとレオリアムがやってくる。
「僕らがやるから、マスターは休んでて」とルーベンス。
「そう?じゃあお願いね」
そう言って野菜の在庫を見に行くと、すでにカシアンが調べていた。
「明日は玉ねぎとジャガイモ追加だな…どうした?」
「ううん、任せたわ~…じゃあ果物は…」
「もう見たから、マスターは好きな事してて」
そう言ってノアセルジオがドライフルーツにする果物をカゴに入れてやってきたので、アルシャインは苦笑して編み物のカゴを手にして、ロッキングチェアに腰掛ける。
〈…ここの冬は寒いわよね…〉
考えて、まずはみんなの手袋を編む事にした。
ーーー秋本番だが、冬はすぐに訪れるだろう。
カシアンは大根やキノコを買ってから、カボスを探し回っていた。
中央の露店には無かったので、東の露店を見てみたが、カボスもスダチも無かった。
最後に西の露店を見に来たが…街の西にある露店市場は、貧困街でもあるので一番注意が必要な場所だ。
しかし、珍しい物が多く置いてある場所でもある。
カシアンは青果露店を見てから、野菜の露店も見る。
「かぼす?聞いた事も無いな」
店員に言われてカシアンは他を探す。
「参ったな~…やっぱり東国の物だから売ってないのかな…アイシャがガッカリするだろうな…」
呟きながらも、しらみ潰しに探してみるが、どこにも無かった。
落ち込んで露店を後にすると、後ろから声を掛けられる。
「カボスが欲しいの?」
振り向くと、少し変わった衣装の少女が水の入ったバケツを手に立っていた。
「ああ…あるのかい?」
「えっと…今日仕入れたライムの中に紛れてて…あそこの屋台でライムソーダ出してる人がマスターで、あたしは雇われてるだけなんだけど…」
「ついてっていいかい?」
「いいよ」
少女は明るく笑って案内してくれる。
カシアンは屋台のライムソーダを注文して聞いてみる。
「カボスを譲ってくれないか?」
「ん?ああ…今日紛れてたライムの仲間かい?いいよ。トーラ、それを袋に入れてやりな!」
気の良さそうな女性が言うと、さっきの少女がカボスを5個袋に入れて渡してくれる。
「幾らだい?」
「いいよ、ソーダのオマケさ!」
「ありがとう」
カシアンはライムソーダの代金2Gにチップの5Gを置いて屋台を後にした。
〈これでアイシャも喜ぶぞ~〉
微笑みながらもカシアンは足早に帰った。
その途中。
もうすぐ館に着くという所で、前方に倒れ込んでいる黒人の女性とその側にしゃがむ子供を見つけた。
〈…親子か?〉
大きなバックパックを持った風貌から、旅人と思えたので近寄ってみる。
「どうしました?」
「…宿に向かう途中なのですが、足をくじいてしまって…」
女性が答える。
子供がヴァイオリンのような楽器を持っているのが見えた。
〈旅芸人か…〉
「宿はどこに?」
「ここをまっすぐ行くと、金の羊亭という宿があると聞いて…」
「そりゃ良かった。…これ持ってもらえますか?」
そう言い買い物袋を手渡して、カシアンは女性の前にしゃがむ。
「おぶっていきますよ」
「…ありがとうございます」
女性はカシアンの肩にもたれて、背負ってもらう。
「ただいまー!お客さんだ」
カシアンはそう言って中に入り、椅子に女性を降ろして買い物袋を受け取る。
「え、何…どうされました?」
アルシャインが聞くと、女性が答える。
「足をくじいてしまい、この方におぶってもらいまして…」
「そうでしたか…少し触りますね」
アルシャインは女性の足を手にして、魔法を使う。
「治癒」
淡い光が足を包んで、癒していく。
「あ…痛みが引いたわ!」
「良かった。念の為に、湿布をしておきましょう」
そう言い、アルシャインは2階に上がって救急箱を手に降りてくる。
そして中から塗り薬を取り出して女性の足に塗り、ガーゼを置いてから包帯を巻く。
「ありがとうございます」
「いいえ。お泊りですか?」
「はい、この子と2人で…あの、ここの部屋は色が塗ってあるって聞いて…」
「ええ!何色が残ってるかしら…」
アルシャインが立ち上がると、ルベルジュノーが鍵を手にしてやってくる。
「クリームとビリジアングリーンとインディゴブルーがありますよ!どこがいいですか?一人百Gです」
「ビリジアングリーン!」
元気良く答えたのは子供の方だった。
「じゃあ案内しますよ~」
そう言ってルベルジュノーが女性と子供を案内する。
その間に、カシアンが買い物袋をアルシャインに渡す。
「はい、大根とキノコとカボス!苦労したよ」
「大根って長いのね!皮をむいてすればいいのよね?…このライムソーダは?」
「お土産。腹減ったな…そろそろディナー?」
「ええ、私達のディナーはサンマの塩焼きとカジマグロのステーキとスープよ!カシアンには頭の肉とグラタンもご褒美にあげる!」
「頭の肉…?」
そう聞くと、皿に分けた頭の身を先に渡された。
「みんなは先に食べたから!さあ焼くわよ!」
アルシャインは張り切ってキッチンに戻った。
混雑する前に、お客さんの居ない頃を見計らって看板を下げて、小さい黒板に
〝今日のディナーは6時から〟
と書いてドアを閉めた。
自分達の食べるサンマが食べたいと言われても困るからだ。
「さあ召し上がれ~」
みんなでテーブル席に着いて、サンマの塩焼きとカジマグロのステーキとスープ、グラタンを置いた。
「あれ?グラタン…」
不思議そうにリュカシオンが聞く。
「まずはみんなで食べてからよ。…頂きましょう!」
アルシャインが笑って言い、みんなでサンマを食べてみる。
「美味い!」とルベルジュノー。
「焼き魚なのに泥臭くない!」とメルヒオール。
「カボス美味しいかな…」
クリストフがかじって酸っぱそうにする。
「あ、それはレモンの仲間だから食べちゃ駄目よ!少しずつ掛けてね」
アルシャインが言いながら隣のティナジゼルのサンマにカボスを少しだけ絞る。
「ほんの一滴から試してね」
「うん、美味しいよ!」とティナジゼル。
「大根おろしが魚と合うね」とノアセルジオ。
「辛いって聞いたけど、これなら平気!」とユスヘルディナ。
「このカジマグロのステーキも美味いな!」とカシアン。
「スープもいつもと違う味だ…」とレオリアム。
「魚のダシが出てるのよ。醤油も使ってるの」
そうフィナアリスが説明した。
「このスープ好き~」とマリアンナ。
「いい味だね!」とルーベンス。
「骨を取ってあげるよ」
ノアセルジオが隣のメルヒオールのサンマの骨を取り、それにならってカシアンもクリストフのサンマの骨を取ってあげた。
サンマは一人2匹も食べた。
デザートに団子も食べた。
「もーお腹いっぱい…」とリナメイシー。
「さあ、次は宿泊してるお客さんと、外で待ってるお客さんのディナーよ!」
アルシャインが笑って言い、みんなが片付け始める。
ディナーはカジマグロのステーキと日替わりパスタが飛ぶように売れた。
みんな魚の匂いにつられてパスタを頼んでいたのだ。
「これ美味いよ!明日も魚出るかい?」
茶葉売りのジャレドが聞く。
「オイル煮ならあるけど…貝は今日までね~」
アルシャインが苦笑して答える。
「仕入れないのかい?」
野菜農家のキースがカジマグロのステーキを頬張って聞く。
「魚市場は結構遠いから、毎日は行けないわ」
そう淋しそうに言うと、食べに来ていた漁師のトーマスが言う。
「なら、届けてやろうか?」
「え?!」
「…こんなに美味い所なら、俺の取ったのを任せたいし…毎日何が欲しいか言ってくれりゃあ、無い物は仕入れてきてやるよ」
「え、でも…トーマスさんの仕事が増えるんじゃ…」
「いつも水揚げしたらすぐに配達だから、変わらねーよ。…どうする?安くするぜマスター」
「ありがとうトーマスさん!是非!是非お願いします!オススメの魚介類とか…あ、すぐメモします!」
アルシャインは慌てて欲しい魚介類を書き出した。
「サンマ明日も食べたいし…みんなは?」
そう聞くと、ルベルジュノーが苦笑する。
「俺は肉がいいな」
「俺も」とリュカシオン。
それにカシアンとレオリアムとノアセルジオがウンウンと頷いた。
「男の子はお肉が好きよね~リフとメルはどうする?」
「僕も食べる!」とメルヒオール。
「僕は…ラザニアがいいな~」とクリストフ。
「あたしはグラタン食べたい!」とティナジゼル。
女の子達を見ると、悩んでいたのでサンマは20匹と書いた。
「後は…貝と、パスタはイカがいいな~…お任せで!」
他の魚や貝、イカ、エビなど30ずつくらいでお任せ、と書いてトーマスに渡した。
「…良し、任せとけ!」
トーマスは笑って言い、お土産にマンジュウや団子、レースのリボンや人形などを買って帰った。
「明日が楽しみね!」
アルベルティーナが言い、みんなで笑い合う。
お客さんも少なくなったので、アルシャインはピアノを弾く。
「さあさあ朝日だ、みんなおはよう~!今日は何を探そうか~?」
そう歌うと、テーブルを拭きながらティナジゼルが突然言う。
「あのねアイシャママ、あたし〝姫様と騎士様〟の恋物語が聞きたい!」
「ーーーん?」
「今日、聖歌隊が歌ってたの」
そうリナメイシーが言うと、ポンポンとピアノを鳴らしながらアルシャインは考えて、一つ思い出す。
「あ、〝聖なる姫と聖なる騎士〟って題名ね!」
「そうそれ!」とティナジゼル。
「分かったわ~…むかーし昔の物語…切なくも淡い恋の物語…」
そう言いアルシャインはピアノを弾きながら語る。
隣国に嫁ぐお姫様の物語だ。
お姫様が生まれた時から護衛騎士として仕えた男の子と、お姫様が互いに惹かれながらも別れる…。
しかしすぐに戦争が起きてお姫様は修道院に入れられて、護衛騎士を想い続けて暮らす。
お姫様は清い体のまま〝聖人〟とされた。
護衛騎士も、姫を想い続けて独身を貫き、その想いの強さから〝聖人〟となったというお話だ。
この国の聖女は異世界人なので、女性の聖人を〝聖女〟とは呼ばないのだ。
「…いつも、いつまでもあなただけを~…」
歌い終えると、女の子達が涙ぐんでいた。
「あらあら…さあ、お掃除して!」
お客さんも帰ったので、アルシャインはノアセルジオとカシアンと共に門を閉めて外灯を消し、見回ってからドアを閉める。
すると、黒人の女性が部屋から出て拍手をしてきた。
「とても綺麗な歌声ね」
「そうですか?嬉しいな…」
「あ、お邪魔してごめんなさい。その…お水をもらえますか?」
「はい」
答えてアルシャインがカップに水を入れて2つ渡した。
「良い夢を」
そう言い女性はドアから覗く男の子と共に部屋に入っていく。
みんながローズパイロットをかまいに行き、アルシャインは肉などの在庫を確認する。
「…んー…今日の分のジャーキーが完売なのよね…もう少しジャーキー増やしましょうか」
そう呟くと、ルーベンスとレオリアムがやってくる。
「僕らがやるから、マスターは休んでて」とルーベンス。
「そう?じゃあお願いね」
そう言って野菜の在庫を見に行くと、すでにカシアンが調べていた。
「明日は玉ねぎとジャガイモ追加だな…どうした?」
「ううん、任せたわ~…じゃあ果物は…」
「もう見たから、マスターは好きな事してて」
そう言ってノアセルジオがドライフルーツにする果物をカゴに入れてやってきたので、アルシャインは苦笑して編み物のカゴを手にして、ロッキングチェアに腰掛ける。
〈…ここの冬は寒いわよね…〉
考えて、まずはみんなの手袋を編む事にした。
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