金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter87 魚市場

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 昼前にみんなが帰ってくると、アルシャインは急いでエプロンと頭に着けていた三角巾を取ってキッチンから出る。
「それじゃあ市場に行ってくるけど…大丈夫?」
「大丈夫だよ」
ルーベンスが答えてキッチンに入り、パンを焼く。
「マスター、お土産は海の幸でいいよ!」
そう言いリュカシオンは野菜の在庫を見て皮をむく。
「貝も見たいね、ミルコさんが言ってた〝サザエ〟とか〝ハマグリ〟とか?似たのがあったら」
レオリアムもエプロンと三角巾を着けながら微笑んで言う。
「サンマが無くても、何か海の魚買ってきてね!」
アルベルティーナがマリアンナと共に注文のサンドイッチを作りながら言うと、ティナジゼルがお土産を並べながら言う。
「アイシャママ、ランチ食べてきていいからね!」
「ありがとう」
答えてアルシャインはもう行く準備の出来ているカシアンとノアセルジオを見る。
「それじゃ行きましょう!」
アルシャインは張り切って言い、外に出る。
「今、馬車を出すから」
カシアンが馬を出して、ノアセルジオが荷車を門の外に出した。


 魚市場は街の東にあるテムドーラ川の側にあった。
テムドーラ川はとても大きな運河で、海から直接魚を運んでこられるのだ。
大きな橋が架かる側に、警備塔があるので、そこに馬車を預けて歩く事にした。
川沿いにテントや屋台がズラリと並んでいる。
ちょうど船から魚を降ろしているのが見えた。
大きな網の中に何百匹もの魚が見えて、圧巻だ。
「わあ~、色んな魚がいるのね!」
図鑑で見た大きな一角マグロや黒エビ、キングイカやトラタコなどなど…近海で捕れた魚介類が仕分けされて各テントに運ばれていく。
青や赤、緑の魚が並び、値札が付けられていく。
興味津々に見ていると、いい香りが漂ってきて3人のお腹がクゥ~と鳴った。
「あ…」
3人は顔を赤らめて互いを見る。
「何か食べましょうか!いい匂い…」
匂いの元を見てみると、貝や魚を焼いている屋台があって、側の小屋が飲食スペースになっているようだった。
「…何の魚だろ?」
ノアセルジオが焼かれた魚を見て首をかしげる。
「これはなぁに?」
アルシャインが聞くと、焼いているおじさんが笑って答える。
「これは今が旬のサンマさ!こっちはサザエのつぼ焼きにハマグリの白ワイン焼きだ!一つどうだい、お嬢ちゃん!」
それを聞いてアルシャインはパァーと笑顔になって言う。
「サンマにサザエにハマグリ!一つずつちょうだい!カシアンとノアはどうする?」
そう振り向いて聞くと、2人共コクコクと頷いた。
「同じく!」とカシアン。
「もちろん!一つずつ!」とノアセルジオ。
「サンマとサザエとハマグリ一つずつだね!じゃあ一人3百にオマケしとくよ!」
そう言いおじさんは皿に乗せてトレイに移してくれる。
サンマの皿には切ったレモンが添えられていた。
よく見ると屋台の横に値札があり、サンマ150、サザエ120、ハマグリ120とある。
「いいの?ありがとー!」
アルシャインははしゃいで喜び、トレイを持って小屋の中に入る。
その後にノアセルジオがトレイを持って付いていく。
カシアンが支払いをしながら聞く。
「何か飲み物はあるかい?」
「ワインは60、麦酒エールが50で水が20だよ」
「エール…といきたいが、まだ仕事中でね。水を3つくれ」
カシアンは言いながら60Gを追加で払い、サンマとサザエとハマグリと水が3つ乗ったトレイを持って中に入った。
ランチタイムなので、満席に近かった。
先に入って席に着いていたアルシャインが手を振る。
「カシアンこっちこっち~!」
「待たなくていいのに…はい、水」
カシアンは座って水を一つずつアルシャインとノアセルジオの前に置く。
「じゃあ…海の幸に感謝して、まずはそのままで頂きましょう」
アルシャインが軽く手を組んで言い、3人は同時にサンマを食べてみる。
「んん!」
アルシャインがにこ~とする。
「美味いな!レモン掛けたらどうなんだろ」
皿に置かれたレモンを絞って食べてみると、なんとも爽やかで美味しかった。
「これは美味しいわ!是非〝カボス〟か〝スダチ〟で味わってみたいわ!」
「大根も買わないとね…このサザエ、歯ごたえがあって美味しいよ」
ノアセルジオも驚きながら食べる。
カシアンはハマグリを一口で食べて
「んー!んんん!」
と興奮気味に何かを言っている。
〝美味い〟と言っているのは聞かなくても分かった。

 軽いランチの後で、アルシャイン達は魚を見て回る。
大きなテントの所で、5匹400Gのサンマを30匹買い、マリアンナくらい大きなカジマグロを一匹丸ごと買う。
「一角マグロやシママグロもあるけど…」
そうノアセルジオが言うと、アルシャインはカシアンが抱えるカゴを見て言う。
「一角マグロは脂が少なくて刺し身や唐揚げが良くて、シママグロは焼いて食べるのがいいらしいの。その点、カジマグロは脂が乗っていて、刺し身でも照り焼きや唐揚げ、素焼きにしても美味しいって聞いた事があるの!」
「へえー…あ、あそこの色とりどりな貝、飾りに良さげ…」
カシアンが言い終える前にアルシャインは走って貝を買いに行った。
見ていると大量に買うので、ノアセルジオが慌てて駆け寄る。
「アイシャ…マスター、その辺にしないと、街の露店が見れないよ」
「大丈夫よー!カボス探しはカシアンにやってもらうから!」
そう言いカシアンを見る。
「…え?」
「この…サザエとか虹色貝と魚を馬車で私とノアが運ぶから、カシアンはカボスを探して帰ってきてね!」
笑って言われて、カシアンは何も言えずにコクッと頷いた。

「じゃあキノコと大根もお願いね~!」
そう言い残してアルシャインはノアセルジオと共に荷馬車で帰ってしまう。
それを見送りながらカシアンは思う。
〈……そりゃ、2人は料理を作るから…〉
先に帰って大きなカジマグロを捌いて冷蔵庫に入れなければならない。
〈だからって…置いてけぼりはないだろ…〉
カシアンは一人淋しく街に向かった。
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