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第一章 始まりの館

Chapter85 ミルコとの食事

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 金の羊亭に着く頃には、もう辺りが暗くなっていた。
カシアンが急いで門を開けて荷馬車を引いて扉の前に止める。
そしてみんなで荷物を降ろした。
そこにスチークスの悲鳴が聞こえる。
『ピチーク!』
『チークス!』
その声でユスヘルディナがいち早く〝散歩〟だと悟った。
「アイシャママ!早く開けて!スチークスが怪我しちゃう!」
「ええ!」
アルシャインが急いで扉を開けると、ユスヘルディナとマリアンナが走って中に入り、レジスターの棚に入れた緑色の魔法解除ゼルダムの魔石を取り出して裏庭とガゼボに別れた。
その間にリュカシオンとノアセルジオが外灯に魔石で明かりを灯していく。
スチークスは怪我をした子もいて、みんなで回復ヒールを掛けた。
中には血だらけの子も居て、ユスヘルディナが水に濡らしたタオルで血を取ってあげた。
スチークスはスミレの側で落ち着いたようだ。
「良かった……あら?」
片付けをしようとしてアルシャインが門を見て止まる。
そこで手を振る茶畑農家のミルコが居たのだ。
「おーい、アイシャマスター!」
「ミルコさん!」
駆け寄ると、ミルコは荷馬車を引いてきた。
「今日のバザーでグリーンティーがすごく売れてたって仲間が教えてくれてね!追加の茶葉を持ってきたよ!」
「まあ!もう売り切れてたから助かります!こっちに…カシアーン!」
「はいはい」
呼ばれたカシアンが駆けてきてミルコを中に招き入れる。
みんなが荷物を入れている間に、アルシャインがミルコと共に茶葉を中に入れた。
茶葉は木の樽に入れられていた。
「樽一つで千でいいよ」
「え?!どう見ても多いのに…」
「金の羊亭が流行らせてくれればいいんだよ。小箱もここに置くから、茶葉が欲しいって客に売ると良いよ!そうして儲けたら4割、ウチにくれないか?」
「…小箱はタダですか…?」
「ああ。売る為の箱だからね。これに茶葉を詰めて一箱百50Gで売るのはどうかな?お得だよ?」
ミルコが言うとアルシャインが頷く。
「分かりました!」
「そう言ってくれると思ったから、こっちの箱に急須とカップを入れて来たよ。茶葉とセットだと手が届きやすいだろう?」
そう言いミルコは箱の中からよく見るティーポットの形の色とりどりの急須と、手の平に収まる小さなカップを取り出す。
「急須……あ、ティーポットとカップ2つセットで5百!どうかな?」
ミルコが言うと、アルシャインはコクコクと頷いた。
「可愛いし綺麗な色合いだし、グリーンティーにぴったり!さすがね!」
「売れたら4割くれればいいから、これも置いとくよ」
「お店用に一つ欲しいな…カップが足りないかな…」
「うん、それはこっちの箱さ」
ミルコが荷馬車から違う箱を持ってきて、カウンターに置く。
「カップは20個あるから。ティーポットは好きなのを使って」
そう言って青や緑のカップを並べていくと、みんなが見に来る。
「わあ綺麗!宝石みたい!」とフィナアリス。
「このカップはね、陶磁器と言って、粘土や色んな石などから作られているんだ」
「割らないようにしないと…」
ルーベンスが言いながらカップをしまっていく。
するとミルコが栗を発見して言う。
「さすがだね!もう栗マンジュウの準備かい?」
「…栗マンジュウ…?!」
みんながミルコに注目した。
「あ、タケノコ!これなら栗ご飯にタケノコご飯…キノコご飯も出来るのか…凄いな」
そう言ってミルコが振り向くと、アルシャインが言う。
「教えて下さい!!」
「えー…と…俺、まだディナー食べて無くて…」
「私達と一緒にどうですか?!どんな料理があるのか聞きたいです!」
アルシャインが言い、みんなが頷くので、ミルコは苦笑して頷いた。
「分かったよ。じゃあ……そこのキノコで鍋を作っていいかい?」
「え、ええ…」

ミルコはキノコと肉と野菜で鍋を作り、タケノコとキノコの炊き込みご飯を作った。
アルシャインも、ディナーにと買った鶏も香草焼にして、ステーキにジャガイモとほうれん草とキノコのソテーを添えて出した。
みんなで祈りを捧げてから、炊き込みご飯を一口食べて目を見開く。
「美味い!」「美味しい!」
とみんなで言うと、ミルコが笑う。
「それは良かった。味が足りなかったら醤油を垂らすといいよ。鍋は醤油味だから、生卵がいいんだけど…これに付けて食べてくれるかな?」
そう言いミルコは温泉卵のように作った卵を皿に割って渡した。
「ここでは茹でないようだから…無理に食べなくてもいいよ」
そう言ってから、ミルコは温泉卵の黄身を割って肉やキノコを付けて食べて美味しそうな顔で食べる。
「………何事もチャレンジよ!」
アルシャインは人生初の生卵を付けた肉を食べてみる。
「ん!…んん、まろやかね!クセになるわ!」
アルシャインが食べたのでみんなも黄身に付けて食べてみた。
「あ!うん、美味い!」とリュカシオン。
「これいい!」とマリアンナ。
みんなも頷いている。
黄身が生焼けの目玉焼きも食べてきたので抵抗は無いようだ。
みんなは夢中で食べていた。

ミルコから故郷の食事などについて話を聞いて、泊まってもらう事にした。
アルシャインは、ベッドの中でミルコの言っていた言葉を思い出す。

「秋に海で捕れるサンマは焼いてカボスを垂らすと最高に美味いんだよ!スダチでもユズでも美味いんだ。大根おろしとなめこの味噌汁があれば幸せさ!」

そう言っていた…。
他にも鮭やイクラやマグロの刺身が美味い…と聞いた。
それらのレシピは書いたが、材料は手に入っていない…。
「サンマ……どんな魚かしら………」
ここら辺は海に面していない為、新鮮な海の幸が手に入らないのだ。
刺身は無理でも、塩焼きなら出来そうな気がする。
「んー!食べてみたーい!」
あんなに幸せそうな顔で話していたのだから、きっと美味しいのだろう…。
「明日、市場を覗いてみましょう!」
そう決意して、アルシャインはサンマという魚を想像しながら目を閉じた。
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