金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

文字の大きさ
上 下
86 / 123
第一章 始まりの館

Chapter84 秋の味覚の誘惑

しおりを挟む
 星の日はどこも休みだが、露店や屋台はやっていた。
足りない果物やナッツなどを買っていたら、カカオを見付けた。
「…一つ50Gかぁ~…」
さすがに高い。
アルシャインが呟いてキョロキョロしていると、ティナジゼルがアルシャインの手を握って言う。
「ねえねえアイシャママ…あのトゲトゲの…おじさんが〝おいしいよー〟って売ってるの…なぁに?」
「ん?…ああ!」
アルシャインはその方向を見て笑顔になり、ティナジゼルと共にその露店に行く。
そこでは大量のイガ栗が売っていた。
「これはね、中に木の実が入っているのよ。おじさん!これイガは取ってくれるのかしら?」
「いらっしゃい!ご希望なら取るよ」
そこにアルベルティーナやマリアンナ、ルーベンスやルベルジュノーが寄ってくる。
「なにこれ…いてて!持てないよ!」
ルベルジュノーが持とうとしてイガに刺され、驚いて手を振る。
「大丈夫か?これは盗難防止の為にイガごと並べてるのさ。それで、どのくらい買うんだいお嬢さん」
「そうね…1キロで4百Gか~中々するわね…甘いの?」
「ウチの栗は国一番の甘さだよ!」
「東南から来てるの?」
「東北だよ!季節が早いからね、すぐに熟すんだよ」
「一つ味見させて?」
「生で食べるのかい?!…ここでは初めてだな…よし、待ってな!」
そう言うと、おじさんはイガを取って中の丸々とした栗を取り出し、器用にナイフで皮を向いてアルシャインに差し出した。
「どうぞ!」
「ありがとう!」
アルシャインはそれを受け取って色味をじっと見つめてからかじってみる。
「ん、これいいわね!確かに甘さがあるわ!」
「ナージィも!」
ティナジゼルが手を伸ばすので、アルシャインは少しちぎって渡す。
「これはね、煮たり焼いたりすると、とーっても甘くて美味しくなるのよ!生だから少しだけね」
そう言い、寄ってきたみんなに分ける。
「随分たくさん兄弟がいるんだな」
それには笑顔で応えて、アルシャインはカシアンを見てから話す。
「10キロ買うから3千にまけて!」
「ええ?!…あ!もしかして街で噂の孤児院宿の…?!」
「金の羊亭よ!」
笑顔でマリアンナが答える。
するとおじさんは苦笑してから頷いた。
「さっきのバザーでのマンジュウ、美味かったよ!良し、3千で売ろう!そこの兄ちゃん達、イガを取るのを手伝ってくれ」
「ありがとうおじさん!」
みんなは笑顔でお礼を言い、男子達がイガを取る手伝いをする。
「僕のおやつの緑マンジュウあげるから、少しオマケしてくれない?」
クリストフがそう言ってカバンに大切にしまっていた緑マンジュウを紙袋から出すと、メルヒオールも背負っていたバックパックから紙袋を取り出す。
「僕も黒マンジュウあげるよ。アイシャママはオマケしてもらうと喜ぶから…」
その2人に感動して、アルシャインより先におじさんがそのマンジュウを台に置いてから2人を抱き締めた。
「なんて優しいんだ!オマケするとも!君達、いつも頑張って料理を売ったりしてるんだってな…よーし任せとけ!…このマンジュウは魅力的だが貰えないよ。これは君達の大切な宝物だ」
おじさんはマンジュウを返してから、張り切ってイガを取っていく。
2人は戸惑いながらもマンジュウをしまって、それを手伝った。
クリストフとメルヒオールのお陰で、栗が5キロもオマケで付いてきた。
「こんなにいいの?」
アルシャインが戸惑いながら聞くと、おじさんは笑顔で言う。
「これが美味い菓子に変わるなら安いもんさ!あんたのトコの評判は聞いてるよ…この国で一番美味い料理と菓子を出してるってね!食べに行くから、たくさん美味いモンにしてくれよ!」
「ええ!ありがとうおじさん!きっとまた買いに来るわね!」
アルシャインは笑顔で言い、みんなと一緒に栗を荷馬車に運んだ。
荷馬車はすでに秋の果物でいっぱいだ。
荷物番で残っていたリュカシオンが呆れて言う。
「こんなに入る?!」
「だって誘惑が多いのよ…柿も梨もイチジクもジャムとタルトにいいし…あそこのプルーンにパッションフルーツにドラゴンフルーツも欲しいし…」
困りながらも、アルシャインはまだ露店を見ている。
「待った!買うなとは言わないから、今度はマスターがチビ達と留守番してて!ディナーを選んでくるから!ノア、ジュドー、行こう!」
そうリュカシオンが言うと、ノアセルジオとルベルジュノーが笑って頷いて共に走っていった。
「チビ達とは失礼ね」
そう言いながらマリアンナがクリストフと共に荷馬車の中の整理をする。
「そうだ!カシアン、ちょっと買いに行ってきてよ!」
「…プルーンとパッションフルーツとドラゴンフルーツ?」
「あとね、さつまいも!!果物は2キロで、さつまいもは10キロ!」
「……レアム、ルース、ナリス、大至急行くぞ!これ以上増えないようにな!」
そうカシアンが言い、レオリアムとルーベンスとフィナアリスがプルーンとパッションフルーツとドラゴンフルーツとさつまいもを買いに走った。
「あとはね~…」
そう呟くと、ユスヘルディナが止めに入る。
「アイシャママ、荷馬車が潰れちゃうわよ!」
「だって~…」
「ほら、お野菜なら明日、キースさんが運んできてくれるじゃない!」
「ナスとかほうれん草とかね。…あそこのキノコ見たいな…」
そう言う姿は自分達よりも子供のように見える。
するとマリアンナとアルベルティーナとユスヘルディナとリナメイシーがコクコクと頷き合う。
そして小声で話す。
(誰が行く?)とリナメイシー。
(あたしとアンヌで行くわ。少しでいいよね?)とアルベルティーナ。
頷き合って、アルベルティーナとマリアンナは後ろから出ていく。
少し経つと、2人が紙袋に様々なキノコを買ってきた。
「アイシャママ!色んなキノコを混ぜて売ってたよ!」
ティナジゼルが笑顔で言って見せると、アルシャインはたちまち笑顔になってキノコを見た。
「美味しそう~!キノコとほうれん草のクリームパスタに、ピッツァにも入れたいし、スープにもいいし…魚とキノコのムニエルとかいいなぁ~!」
なんだか聞いていて美味しそうだ。
そこにカシアン達やリュカシオン達が戻ってきたので、アルシャインがキノコを買いに飛び出していった。
「おい!まだあるのか?!」
カシアンが驚きながら付いていく。
大量のキノコも買って、荷馬車に座るスペースが無くなり、みんなで荷馬車の側を歩いて帰った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...