金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter83 バザーの終わりに

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 バザーの終了は午後1時だった。
…が、アルシャインの店からお客さんが居なくなったのは午後2時過ぎてからだった。
みんなは疲れてへたり込む。
「はあ~…全部売り切れた…」とレオリアム。
「何あれ…最後のお客さん、貴族じゃ無かったよ」とマリアンナ。
最後に商人達が買い占めに来て、てんやわんやの大騒ぎだったのだ。

 みんなは少し休んでから片付け始める。
そこにマスターグレアムとスタッフの女性が来る。
「…その様子では売り切れたようですね」
「はい…」
アルシャインが苦笑いで答えると、後ろの女性が前に来る。
「この紙に、今日の売上金を書いて下さい。半分は帰り際に支払って頂く事になります。それと…」
女性スタッフは少しモジモジしてから小声で言う。
(グリーンティー残ってませんか?さっき飲んだら美味しくて…水筒で持って帰りたくて)
口の横に手を当てて言うと、アルシャインはニコッと笑う。
(1杯分なら作れます♪)
そう小声で答えると、女性スタッフは笑顔になって水筒を差し出した。
「お願いします!」
「はい、喜んで」
アルシャインが水筒を受け取ってお茶を注ぐ間に、フィナアリスとノアセルジオが紙に必要事項を書いてお金の計算をする。
「ね、ナリス、ノア~…もうバザーじゃないし、5Gでいいかしら?」
「…マスターグレアムに怒られるよ?」
そうノアセルジオが苦笑して言うと、アルシャインは首を伸ばして前で待つグレアムを見る。
するとしかめっ面で見ていたグレアムがグッと吹き出すのをこらえて口を手で押さえた。
「なん、て顔で見るんですか…」
「その…怒らないで欲しいな~って顔です。はい、どうぞ!」
「ありがとうございます!」
女性スタッフは嬉しそうに受け取り、きちんと25G払って水筒を置きにいった。
そこでふとアルシャインは気が付いてパンと手を叩いて聞く。
「そうだわ!マスターグレアム!牛一頭って幾らくらいしますか?」
「牛…ですか。種類にもよりますが…どんな牛ですか?」
「乳牛と食用、それぞれです」
「うーん……乳なら5千程、食用は一万からですかね」
「たっか!!」
片付けながら聞いていたルーベンスが叫ぶと、グレアムが苦笑して言う。
「仔牛だと2万からですよ…角ウサギの肉の2倍は取れて、臭みも無く柔らかいですからね」
グレアムが言いながら用紙をノアセルジオから受け取り、チェックを入れる。
「…随分売れましたね。お金は…袋に入れて彼女に渡して下さい」
グレアムは戻ってきたスタッフを見て言い、隣のスペースに声を掛けに行く。
アルシャインは戻ってきたスタッフの女性と共に奥でお金を数えて確認して貰いながら袋に入れて渡す。
「マンジュウ、食べに行きますね!」
そう笑って言い、女性スタッフは戻っていった。

みんなで片付けをしてから、荷馬車に荷物を入れている間に、アルシャインはリナメイシーとマリアンナとアルベルティーナ、ユスヘルディナとレオリアムと共に庭で掃除をするシスター達の元に行く。
「こんにちはシスター!」
「こんにちは、金の羊亭の方々」
「こんにちは」
言われてみんなも挨拶をする。
「どうかしましたか?」
そうシスターが聞くと、レオリアムが言う。
「あの…回復ヒールのやり方を教えて下さい」
「…ではこちらに」
一人のシスターがレオリアムと共にその場から少し離れて回復ヒールのやり方を教える。
するとマリアンナが聞く。
「パフィーラのやり方を教えて下さい!」
「パフィーラを…?」
若いシスターが首をかしげると、隣の年配のシスターが頷く。
「確か大事な物を預かっているのよね、ほら…」
そう言い若いシスターに耳打ちでスチークスの事を言うと、若いシスターも二・三頷く。
「ああ!…絶対防壁パフィーラなら、それを解く魔法解除ゼルダムも出来ないと…ああ、でも熟練度が足りないと…」
「いっぱい練習します!」とマリアンナ。
「お願いします!」とリナメイシー。
アルシャインも胸の前で手を組んで言う。
「解除の魔石ならたくさん貰いました。ですから、教えて下さい!」
その言葉にため息をついて年配のシスターが頷く。
「分かりました。掃除はやりますので、教えて差し上げなさい。国の大切な鳥を守る為です」
「はい」
若いシスターが答えてアルシャイン達を見る。
「ではあそこの繁みで練習しましょう」
「はい!」
アルシャインとリナメイシーとマリアンナとユスヘルディナとアルベルティーナがついていった。

 1時間程の練習で、薄い膜を作れるようになった。
「その調子なら、たくさん練習をすればすぐに出来るようになりますよ。頑張って下さいね」
そう言い若いシスターは笑って掃除に戻っていった。
「じゃあ、続きは帰ってからにしましょう」
アルシャインも笑顔で言い、みんなと共に荷馬車に戻る。
待っていたカシアン達は荷馬車の側で木の棒を持って剣術の練習をしていた。
フィナアリスとレオリアムとクリストフとメルヒオールとティナジゼルは回復ヒールの練習をしている。
「………」
アルシャインとリナメイシーとマリアンナとユスヘルディナとアルベルティーナはじっとカシアンとノアセルジオとリュカシオンとルベルジュノーとルーベンスの剣術を見つめる。
(なんか、カッコいいね)
ボソッとユスヘルディナが呟く。
同じ事を思っていたアルシャインは真っ赤になって首を振ってから駆け寄る。
「みんなお待たせ~!帰るわよ!」
「あ…」
ノアセルジオが〝アイシャ〟と言い掛けてやめて、柔らかい笑顔で迎える。
「お帰り
「…急にどうしたの?」
そう聞くと、ルベルジュノーが苦笑して馬車に乗るのを手伝いながら言う。
「いや、なんか…周り見てたら、みんな自分の所の上の人を〝マスター〟って呼んでたしさ…名前で呼ぶのも恥ずかしいって言うか…照れるって言うか…」
「………」
瞬間、アルシャインは初めて出会った頃を思い出す。
「…大人になったのね、ジュドー。カッコいいわ」
微笑んで言うと、ルベルジュノーは真っ赤になって前に行く。
するとリュカシオンも言う。
「そうだマスター、街の露店で何か夕飯になるモン買わない?星の日なんだから…ディナーくらいは休んだ方がいいよ」
「リオン…そうね!じゃあ街で何か買いましょうか!」
アルシャインが言い、みんなが
「さんせーい!」
と声を上げたので、そのまま街に出る事にした。
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