金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter78 黒アナグマ

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 ちょっと涼しくなった大地の日。
アルシャインは朝早くに手紙に封蝋印を押してから、花の手入れをする。
するとマリアンナとリナメイシーとユスヘルディナがスチークスのお散歩をさせていた。
ノアセルジオとリュカシオンとカシアンは狩りに行き、ルーベンスとクリストフが近くの川に網漁を試しに行った。
ルベルジュノーととアルベルティーナがミュージの世話、レオリアムとメルヒオールとティナジゼルがニワトリ小屋へ。
フィナアリスは早くに仕込みをしていた。
アルシャインが見守っていると、ユスヘルディナがガゼボの外で黄色い魔石を割る。
「パフィーラ!ってアレ使いたい!」
ユスヘルディナが言い、リナメイシーとマリアンナが頷く。
「分かる~!魔法使いたいよね!」とリナメイシー。
「…「絶対防壁パフィーラなら、シスターも習う魔法じゃないかしら?寺院なんかには大切な品物を保存するから」
「ホント?!アイシャママは?」
「私はね~…確か習ったと思うんだけど、神聖力って魔力と同じなのよね~…」
つまり使えないという事だ。
「…お医者さんに行けば治る?」
心配してマリアンナが聞く。
「ん~…分かんない。でも大丈夫よ。バザーの日に時間があったらシスターに聞いてみましょう」
そう笑って言い、3人と共に中に入る。
すると狩りからカシアンとノアセルジオとリュカシオンが帰ってきた。
荷車には角キツネよりも良質な肉の巨大な黒アナグマが乗っていた。
「え…モンスターなのよね?」
アルシャインが聞くと、カシアンが言う。
「そこの森の外れに居たんだよ。あっちの山にしかいない筈なのに、何かあったのかもな。…こいつは雑食で何でも食うからスチークスも危ないだろ?」
「ええ…角キツネは?」
「今日は3匹。角ウサギは一匹、裏に持ってったよ」とリュカシオン。
「捌くのに手間が掛かるから、畑の側でやってくる」
そう言ってカシアンとノアセルジオが向かいの畑の方に捌きに行った。
「そういえば、いつも食べてるのって、モンスターのお肉なのよね」
フィナアリスが気付いたように言う。
「この辺りは角キツネやアカシカや角ウサギが大量に発生するからね~…逆に飼育されてる牛や羊は高いから食べないのよね…」
「牛って幾らだろう…」
ルーベンスが呟く。
脂も乗ってて美味しいと噂だ。
「幾らかしら…バザーの時にマスターグレアムに聞きましょうね」
そう言ってアルシャインは仕込みを始める。
みんなも仕込みをする。
そこにルーベンスとクリストフがバケツ一杯に10センチ程の小魚を持って帰ってきた。
「あら、いっぱい捕れたのね!」
「こんなのも取れたよ!」
そう言ってルーベンスが20センチ程の立派なニジマスを見せた。
「わあ大きいわね!ムニエルにしましょうか!」
「3匹居たよ、みんなで分けよう」
そう言ってルーベンスは魚を洗いに行く。
洗った魚は早速調理した。

今日の朝食は黒アナグマのコトレットサンドイッチだ。
どんな味が確かめるのに揚げるのがいいかと思ってそうしてみた。
スープは豆と小魚と黒アナグマの余った肉や硬いスジや脚の肉を使った。
そして3匹のニジマスのムニエルを切り分けた。
「魚って美味いんだな」とカシアン。
「もっと臭いかと思ったけど美味しいよ!」とメルヒオール。
「明日はあの川で釣りしようっと」とルベルジュノー。
「いいね、大きな魚が居そうだし」とレオリアム。
「黒アナグマって美味しい~!」
みんなが言う。
「この肉はステーキとコトレットで、早い者勝ちだろうな~…中々獲れないものね~」
そうアルシャインが言う。
「…これはプラス50…いや!80Gで行こう!その価値はある!」
真面目にカシアンが言い、ノアセルジオも頷いた。
「とても獰猛だったから狩るのに苦労したし、捌くのも苦労したから、妥当な値段だと思うよ」
「…売れるかしら?」
アルシャインが心配そうに言うと、リナメイシーが笑って言う。
「売れなかったらあたし達のランチとディナーになって嬉しいわ!」
「そう?ならいいわ。この後、街に出るから…誰か来る?」
「あたし行きたいな、街の露店に飴屋さんがあるから見てみたい」
アルベルティーナが言うと、マリアンナも頷く。
「なんかすごく伸ばして作ってたの見た事あるの!あれ出来ないかな…」
「じゃあティーナとアンヌね。明日の材料も確認してから出るから…ナリス、任せられるかしら?」
「ええ、大丈夫!」
フィナアリスが笑って答える。
「護衛はカシアンね。何か買うだろうから」
「分かった」
カシアンがスープを飲みながら答えた。
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