金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter74 朝のお散歩

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 少し暑い炎の日。
アルシャインは朝早くに目覚めて支度をして、降りて水を飲んでから花の手入れをする。
『ピチーク!』
…と、ニワトリ小屋の方からスチークスの声がした。
「エサかな」
見に行くと、出ようとして金網を登ろうとしていた。
「あー…駄目なんだってば……スチークスの巣が無いからかな…それとも……」
アルシャインは過去に学んだ知識を思い出す。

「スチークスは散歩が好きで、朝は必ず森を一周します」

鳥好きな神官が確かそう言っていた。
「お散歩!はい、いいわよ~門も閉めてあるし…」
扉を開けると、スチークスはぞろぞろと歩いていく。
そこにみんなも来た。
「わ、何どうしたの?」とレオリアム。
「スチークスは散歩好きだって、昔神官様から聞いてね、さっき金網に張り付いてたから…お散歩よ」
「…花食べない?」
不安そうなマリアンナの言葉に、アルシャインも不安になる。
「んふ~、分かんない~!」
泣きそうな顔で答えながらスチークスの後を追った。
するとスチークスは庭を散歩して拾い食いをしたり、木を突いたりするが、花はかじらなかった。
花の側でまったりとして、毛づくろいや日向ぼっこをしているようだ。
「お花は食べないんだ。ほらご飯だよー!」
アルベルティーナとマリアンナがブルーベリーやクランベリー、ナッツなどを皿に入れて持って来て、くつろいでいるスチークスの前に置いた。
すると8羽が集まって食べに来る。
「可愛い…」
思わずマリアンナが撫でようとしたので、アルシャインがその手を止めた。
「撫でるのは駄目よ。スチークスは野生の子だからね…人に慣れすぎると死んでしまうの」
「そっか…」
マリアンナはグッと撫でるのを我慢して見つめた。
スチークスは日光浴をした後に自分からニワトリ小屋に入っていった。
どうやら安全な巣だと認定されたらしい。
アルシャイン達はそれを見届けてから仕込みをする。
「スチークスって〝チーク〟って鳴くよね」
メルヒオールの言葉に、クリストフがうんうんと頷く。
「そうそう、面白いよね!」
「今日はハンバーグでいいかなー?」
アルシャインが聞くと、みんなが頷いた。
「味はー?」
「みんなミートソースでいいんじゃないかな?」
そうノアセルジオが聞くと、みんなが頷いた。
「よーし、じゃあティーナはパンを焼いてね~、アンヌはスープの準備よ!」
「はーい」
とそれぞれに答える。

みんなが食べ終わる頃にミルコや他の宿泊客が起きてきた。
「やあ、おはようアイシャマスター!」
ミルコが言う。
「おはようございます!バザーでガンガンお団子とグリーンティーのセットを売りますからね!」
アルシャインが笑って意欲的に言うと、ミルコが笑う。
「うん、期待してるよ。あ、角ウサギのステーキとライスコロッケと野菜ライスコロッケね」
「はいはーい!」
それを作っている間に、ミルコがノアセルジオに紙を渡す。
「アイシャマスター忙しいから、これ渡しておくよ。俺の店はここから西にあるけど、茶畑は東にあってね…今度見においで」
「…どうして俺に?」
「君は経営者の顔をしているからね。ここの経理担当かな…違う?」
そう言われノアセルジオは嬉しそうに微笑む。
「はい!」
その後も忙しくなり、ミルコはお土産を買って軽く手を振って旅立った。
他の宿泊客達もパイや団子にコロコロドーナツ、クッキー、ボーロなどを買って旅立つ。
道中の軽食にサンドイッチまで買っていった。
 みんなが教会に行く頃に、ロレッソ達がやってくる。
「おはよう!聞いたよ」
突然ロレッソが言い、黒板を見る。
「あったあった!団子をくれ!昨日ギルドで美味い美味いってスタッフが食べてるのを見てな!…グリーンティーはまだなのか…楽しみだな」
「ホントホント」
エイデンも言う。
今、客はこの2人だけだ。
(内緒ですよ)
そう小声で言いアルシャインは団子と一緒にグリーンティーを2人に出した。
「うお甘くて香ばしいな!…ん!このお茶美味い!団子の為に存在してるな!」
エイデンが言うとロレッソは無言でパクパクと食べておかわりをする。
「…これ、値段は?」
「お2人には世話になっているので特別にお試しですよ!」
笑って言い、アルシャインはコーヒーを出す。
そこに別の客が来たので、グリーンティーの話は終わりとなった。
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