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第一章 始まりの館
Chapter73 父からの手紙
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みんなで交代でディナーを食べて、宿泊客も食べ終える頃に混雑し始めた。
「ハンバーガーちょっと待ってね、今パンを焼いてるから~」
アルシャインが言いながらハンバーグを煮込む。
「コロコロドーナツ作りたてだよ~」
クリストフがそう言いながらテーブルの間を歩いて売る。
「クッキーはいかが~?」
ティナジゼルがクッキーのカゴを手にテーブルの間を歩く。
それは帰り間際の客に売れた。
「団子一個ずつ」
「こっちも団子一個ずつ!」
お客さんが言う。
あちこちから団子コールがする。
すぐに出せるし冷めても美味いし、手軽に作れるしとてもいい食べ物だ。
お客さんも少なくなり、みんなはバザーのリボンを作る。
〈みんな頑張るなー…〉
アルシャインはそう思いながらレース編みをして、ふと手を止める。
〈…そういえば、つい聖女時代のクセでたくさん作ろうと頑張ってるけど…食べ物も売るからいいんだわ…〉
そう気付いたものの、みんなも頑張っているので、少しでいいとは言い出せない。
なので、アルシャインは出来たリボンをチェックして手直しする側に回る事にした。
するとアルベルティーナが不思議がる。
「どうしたのアイシャママ。作らないの?」
「んー?こうしてはみ出た所とかも直すと評判が良くなるでしょ」
「そっか…まだ下手だから、それは手伝えないや」
ユスヘルディナが言いながらしょんぼりするので、アルシャインが頭を撫でて言う。
「こういう事は慣れた人の役目なのよ。あなた達がその分を作ってくれたらいいの」
笑って言い、手直しをする。
するとビーズで腕輪を作っていたルベルジュノーが作った腕輪を持ってくる。
「これで平気かな?花も入れたし、色も統一したけど…」
「うん、バッチリよ!あ、お人形用の小さな腕輪もあるのね!素敵だわ!」
褒められてルベルジュノーは照れながら戻って作業を進める。
みんなが張り切るのはバザーの為ではなく、アルシャインの笑顔の為なのだ。
息抜きにフィナアリスがピアノを弾いた。
聖歌の〝清き御手に〟という曲だ。
その清き御手にて、我を救いたまえと願う歌だ。
〈救われた事はないけれど好きな曲だわ…〉
これの歌詞はまだみんな覚えていないようで、リズムに合わせるだけだった。
夜更け。
バザーの品をミシン部屋に置いて鍵を掛けてから、アルシャインは自分の部屋に戻って机に向かう。
いつものように日記を書いて、引き出しにしまおうとした時、手紙があるのに気付く。
「やだ、すっかり忘れてたわ…お父様からの手紙…」
ドレスのカバンにひっそりと入っていた父からの手紙…。
アルシャインはなんだか嫌な予感がしつつ開けてみる。
拝啓、アルシャイン
空はすっかり秋のよそおいだが、風邪など引いてはいないか?
屋敷を魔法で隣国に移したそうだな。
中途半端に留まって欲しいと思ってしまって済まなかった。
お前の噂は聞き及んでいる。
孤児院宿をしているのだな。
立派な行いだと思うが、無茶はしないでくれ。
今度また屋敷が必要なようなら言いなさい。
少しは役立てよう。
「お父様ったら…嬉しいわ」
アルシャインは微笑んで続きを読む。
お前の一つ下の妹が、今度嫁ぐ事になった。
…お前は、婚約者がいなかったが…そちらの話はどうだ?
結婚するのなら、そっちの国にもツテがあるから紹介するぞ?
結婚は自由だが、出来れば爵位のある方がわしは嬉しいが…。
まあ、その内に、うむ。
「やっぱり結婚話してくると思った…長いわね」
そう言いアルシャインは続きを読む。
孤児院宿の菓子がこちらの貴族の間でも評判だと聞いた。
リザベラが食べてみたいと言うんだ…。
我が家に〝独占販売〟という形には出来ないか?
ああ…陛下には内密なのだ。
どう言えば良いのか。
リザベラとは母の名前だ。
「…お父様に経営者の才は無いのかしら…独占かぁ…実家だからいいけど、大量に作る訳じゃないし…」
月、いや週に一度遣いをやるので、菓子の類を売ってくれればそれでいい。
リザベラが家で食べるだけなのだ。
勿論、私も食べる。
では、体を大事にな。
「えー…どう返事書けばいいの?返事要らないかな…手紙なんて持って来てないし、週に一度来るならいっか!」
アルシャインは手紙を日記帳と共に閉まって、ベッドに入る。
「…結婚するのか…幸せを祈りましょう」
アルシャインは妹の幸せを祈りながら眠りに付いた。
「ハンバーガーちょっと待ってね、今パンを焼いてるから~」
アルシャインが言いながらハンバーグを煮込む。
「コロコロドーナツ作りたてだよ~」
クリストフがそう言いながらテーブルの間を歩いて売る。
「クッキーはいかが~?」
ティナジゼルがクッキーのカゴを手にテーブルの間を歩く。
それは帰り間際の客に売れた。
「団子一個ずつ」
「こっちも団子一個ずつ!」
お客さんが言う。
あちこちから団子コールがする。
すぐに出せるし冷めても美味いし、手軽に作れるしとてもいい食べ物だ。
お客さんも少なくなり、みんなはバザーのリボンを作る。
〈みんな頑張るなー…〉
アルシャインはそう思いながらレース編みをして、ふと手を止める。
〈…そういえば、つい聖女時代のクセでたくさん作ろうと頑張ってるけど…食べ物も売るからいいんだわ…〉
そう気付いたものの、みんなも頑張っているので、少しでいいとは言い出せない。
なので、アルシャインは出来たリボンをチェックして手直しする側に回る事にした。
するとアルベルティーナが不思議がる。
「どうしたのアイシャママ。作らないの?」
「んー?こうしてはみ出た所とかも直すと評判が良くなるでしょ」
「そっか…まだ下手だから、それは手伝えないや」
ユスヘルディナが言いながらしょんぼりするので、アルシャインが頭を撫でて言う。
「こういう事は慣れた人の役目なのよ。あなた達がその分を作ってくれたらいいの」
笑って言い、手直しをする。
するとビーズで腕輪を作っていたルベルジュノーが作った腕輪を持ってくる。
「これで平気かな?花も入れたし、色も統一したけど…」
「うん、バッチリよ!あ、お人形用の小さな腕輪もあるのね!素敵だわ!」
褒められてルベルジュノーは照れながら戻って作業を進める。
みんなが張り切るのはバザーの為ではなく、アルシャインの笑顔の為なのだ。
息抜きにフィナアリスがピアノを弾いた。
聖歌の〝清き御手に〟という曲だ。
その清き御手にて、我を救いたまえと願う歌だ。
〈救われた事はないけれど好きな曲だわ…〉
これの歌詞はまだみんな覚えていないようで、リズムに合わせるだけだった。
夜更け。
バザーの品をミシン部屋に置いて鍵を掛けてから、アルシャインは自分の部屋に戻って机に向かう。
いつものように日記を書いて、引き出しにしまおうとした時、手紙があるのに気付く。
「やだ、すっかり忘れてたわ…お父様からの手紙…」
ドレスのカバンにひっそりと入っていた父からの手紙…。
アルシャインはなんだか嫌な予感がしつつ開けてみる。
拝啓、アルシャイン
空はすっかり秋のよそおいだが、風邪など引いてはいないか?
屋敷を魔法で隣国に移したそうだな。
中途半端に留まって欲しいと思ってしまって済まなかった。
お前の噂は聞き及んでいる。
孤児院宿をしているのだな。
立派な行いだと思うが、無茶はしないでくれ。
今度また屋敷が必要なようなら言いなさい。
少しは役立てよう。
「お父様ったら…嬉しいわ」
アルシャインは微笑んで続きを読む。
お前の一つ下の妹が、今度嫁ぐ事になった。
…お前は、婚約者がいなかったが…そちらの話はどうだ?
結婚するのなら、そっちの国にもツテがあるから紹介するぞ?
結婚は自由だが、出来れば爵位のある方がわしは嬉しいが…。
まあ、その内に、うむ。
「やっぱり結婚話してくると思った…長いわね」
そう言いアルシャインは続きを読む。
孤児院宿の菓子がこちらの貴族の間でも評判だと聞いた。
リザベラが食べてみたいと言うんだ…。
我が家に〝独占販売〟という形には出来ないか?
ああ…陛下には内密なのだ。
どう言えば良いのか。
リザベラとは母の名前だ。
「…お父様に経営者の才は無いのかしら…独占かぁ…実家だからいいけど、大量に作る訳じゃないし…」
月、いや週に一度遣いをやるので、菓子の類を売ってくれればそれでいい。
リザベラが家で食べるだけなのだ。
勿論、私も食べる。
では、体を大事にな。
「えー…どう返事書けばいいの?返事要らないかな…手紙なんて持って来てないし、週に一度来るならいっか!」
アルシャインは手紙を日記帳と共に閉まって、ベッドに入る。
「…結婚するのか…幸せを祈りましょう」
アルシャインは妹の幸せを祈りながら眠りに付いた。
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