金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter72 マンジュウと緑茶

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マンジュウを蒸している所に、ミルコがやってくる。
「やあ、アイシャ!泊まりにきたよ」
「ミルコさん!」
リュカシオンが余ってる部屋の鍵を見せる。
「残念!黒は入られたかー…じゃあウィステリアかな、はい代金」
先に支払い荷物を置きに行いてから、ミルコは約束の醤油と味噌を大きなカゴに入れて持ってくる。
どれも蓋付きの壷に入っていた。
壷は紐でグルグルに縛られて中身が出ないようにされている。
「茶色い壷が味噌で、黒い壷が醤油だよ」
「へえー…あ、今代金を…」
「いいよいいよ、寄付だから!それよりマンジュウのいい匂いだ。アンコと野菜だね!みたらし団子とアンコの団子を作らないかい?」
「はい、是非!」
アルシャインが笑って言うので、ミルコが用意をする。
「この粉は〝白玉粉〟…もち米の粉だよ。水でこうして溶いて、丸めてお湯で茹でて出来上がりだ!」
「手軽でいいですね!」
「これに…水と醤油と砂糖と片栗粉…えぇとポテトスターチを入れて煮る」
「こうですか?」
言われてアルシャインが作る。
「そうそう、とろみはそのくらいで。それを団子に掛けて食べてごらん」
「これを…」
頬張ると、口に醤油と砂糖の甘じょっぱい味が広がる。
「んんー!美味しい!これ好きな味だわ!」
「食べたーい!」
みんなが来て、一つずつ食べる。
「んー!」「んま!」「んん!」
みんなは笑顔で親指を立てた。
「アンコは…んん~いいわ~!」
アルシャインと同じようにみんながホワンといい表情をする。
「もち米の粉なら手に入るね!」とクリストフ。
「どうする?バザー用?」
フィナアリスが聞くと、アルベルティーナが答える。
「…お土産として出さない…?その、マスターグレアムがじーっと見てるの…」
みんなでグレアムを見ると、じっと見つめていた。
「値段は決まったかな?」
そう言われてルーベンスが言う。
「その…じゃあ5個で20Gは?」
「良し、それで行こう」
ルベルジュノーが答えて黒板に書く。
団子5個(みたらし・アンコ) 20G
するとグレアムは
「それぞれに20ずつ頼むよ!」
と言った。
「え…団子だけで2百個?!」
みんなが慌てふためき、グレアムは嬉しそうにカウンターに来る。
「ギルドの者を呼ぶから、ゆっくりでいいよ」
そう言いグレアムはポケットの中の魔石を一つ割る。
割ると誰かが自分の所に駆け付ける仕組みだ。
「それで、バザーの品とは?」
「あ、これです!」
アルシャインが慌てながら出す。
「黒マンジュウと緑マンジュウと…野菜マンジュウです」
「ほう…どれどれ」
グレアムはまず野菜マンジュウを食べる。
「柔らかい!うん、旨味が出ていて…これなら20Gで食べますよ」
「え、まだ値段…」
「どうせ5とか6でしょう?バザーでは35Gくらいでお願いします」
「は、はい…」
強い眼差しで言われて、アルシャインはただそう返事をした。
「黒マンジュウは…」
グレアムは黒マンジュウを一口頬張り、目を見開く。
〈芳醇な香りと香ばしい味の中にまろやかさがあり調和が取れている…!甘さの中にも豆を感じられる…〉
頭の中で考えてから、グレアムは紅茶を飲んで落ち着く。
「これは30なんかじゃ駄目です。40でお願いします」
「え?!あ…はい…」
アルシャインのしょんぼりとした表情にも構わずにグレアムは緑マンジュウも頬張り、目を閉じて微笑む。
〈んー…なめらかな中にも豆を感じられる…甘過ぎず、いい味だ〉
しかし何か…紅茶を飲んで何か違うと感じた。
紅茶と合わない気がする…。
すると、後ろでマンジュウを食べていたミルコがキッチンに立つ。
「アイシャ、これにお湯を貰っていいかな?」
「あ、はいどうぞ?」
答えるとミルコは急須にお湯を入れて、木のカップ3つにお茶を淹れた。
「これは緑茶。東国のお茶で、マンジュウに合うんだ」
そう言ってグレアムとアルシャインに渡して、自分も飲む。
「んん!さっぱりしますね!」とアルシャイン。
「これだ!これならマンジュウに合う!」とグレアム。
「はは、そうだろう。俺は茶畑をいとなんでいてね。自慢のお茶なんだ」
そう言ってミルコは15センチ四方の四角い茶箱を一つ出して中身を見せる。
「急須にこので一杯入れてお湯を注いで30秒程でカップ一杯分!これで百G!今なら急須とサジのセットだよ」
「買った!!」
アルシャインが手を上げて言う。
「一個だけ?他には?」
「あと5個も売れ残ってね。ここらではマンジュウを食べないから…そうだ、アイシャが広めてくれたら、きっと売れるよ!全部で5百Gにまけるから、お茶が売れたら取引先になってくれるかい?」
「ええ勿論!届けに来てくれるなら、バザーで頑張って売ってから、お店でも出すわ!」
「俺の住所と地図を簡単に書いてくるよ。あ、ディナーはピッツァの角ウサギとコーンのホワイトソース掛けと、野菜ライスコロッケとフライドポテト2個で!」
そう言いミルコは部屋に行って茶箱を5個持ってくる。
「じゃあ、代金を」
アルシャインが言い、カシアンが5百Gを裏から持って来て渡した。
「部屋で数えてくれ。盗まれたら困るから」
「分かった。後で住所を渡すよ」
そう言ってから、ミルコは黒板に〝緑茶〟と書いた。
みどりのお茶。グリーンティーでもいいよ。多分、一杯だと…5Gかな?」
そう言ってミルコは部屋に行く。
「…じゃあ…」
ルベルジュノーが黒板の緑茶の文字を消して〝グリーンティーが出る予定!〟と書いておいた。
どんな味か、みんなに配られる。
「あ、さっぱりしてる…」とフィナアリス。
「うん、これはミートソースやデミグラスソースにも合うよ」とルーベンス。
「これ毎日飲みたい!」とメルヒオール。
「そうね…飲みたかったら5Gで買うのよ?」
アルシャインが笑って言うと、メルヒオールは頷いた。
「分かった!頑張ってお土産売るよ!」
「ふふ、よーし、マスターグレアムのお土産をみんなで作るぞー!」
「おー!」
みんなは張り切ってお土産を作った。
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