金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter70 スチークスと砂糖

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 清々すがすがしい風の日。
朝早くに水やりと花の手入れをしてから向かいの畑に行くと、レオリアムとルベルジュノーとクリストフが手入れをしていた。
「おはよう」
「おはようアイシャ」
レオリアムとルベルジュノーが言い、クリストフがアルシャインに抱き着く。
「おはようアイシャママ!」
「おはようリフ…あら?」
しゃがんだ目線の先の茂みに、小さい生物が見えた。
「!みんな下がって!」
アルシャインが警戒してクリストフを後ろにして両手を広げると、ルベルジュノーとクリストフがアルシャインの前で棒を構えた。
ガサガサと葉っぱをかき分けて出てきたのは、小さい…体長20センチ程の丸々とした鳥であった。
「…スチークス?」
スチークスとは、キーウィのような見た目で、クチバシは短い飛べない鳥で、夜行性だ。
この辺りの森に棲息していたが、戦争で絶滅したと聞いていた。
オスは頭と尾羽が青くて体はエメラルド、メスは頭と尾羽が白くて体は赤いのだ。
「小さい…確か40センチにはなる筈だから…子供かしら」
アルシャインが抱き上げてみると、後から5羽程出てきて、その後ろに倍くらい大きな大人のスチークスが2羽出てきて、野菜をかじろうとしていた。
「え、え、待って、やめてっ…これ保護対象かしら?!どうしたらいいの?!」
混乱していると、ルベルジュノーが一羽を抱き上げる。
「スチークスの話は小さい頃に母さんから聞いてるよ…確か絶滅したって。ニワトリ小屋に入れとこうよ」
「まずい、茎がかじられるよ!」
慌ててレオリアムが2羽抱えて走り、クリストフも一羽抱えて走った。
ルベルジュノーも2羽抱えたので、残りをアルシャインがエプロンの上に置いてくるんで走った。
8羽のスチークスをニワトリ小屋に入れると、ニワトリのエサを食べていた。
「どうしよう…マスターグレアムなら何か知ってるかしら…?」
「スチークスってこんななんだ~」とリナメイシー。
「可愛い!」とティナジゼル。
「絵本でしか見た事なかったな…」とルーベンス。
狩りから帰ったカシアンとノアセルジオとリュカシオンも見に来る。
「これスチークス?!」とリュカシオン。
「剥製がどっかの神殿にあったなぁ」とカシアン。
「…いけない、仕込みをしないと!」
アルシャインが言い、周りで見ていたみんなが慌ててキッチンに行く。
「誰かに言ったら見世物小屋に売られるかもな~」
カシアンがジャガイモの皮をむきながら言うと、マリアンナが怒る。
「あんなに可愛いのに?!」
「絶滅したと思われてる国鳥だし…有り得るわね」
アルシャインが真剣に言う。
「みんな、秘密にしておいてね。私がマスターグレアムに相談しに行くから!」
「分かった」
みんなが答えて、仕込みを急いだ。

朝食の後にみんなが教会に出掛けて、ロレッソやエイデン、ミュージ売りのコルマンが来る。
それと同時に粉屋のナディアが小麦粉やポテトスターチ、コーンスターチとサトウキビを届けてくれる。
「アイシャマスター、おはよう~」
「ナディアさん、おはようございます!わあ、サトウキビね!」
「サトウキビジューサーも持って来たわよ!これでサトウキビを潰せるから」
そう言ってナディアは手動のサトウキビジューサーをカウンターに置く。
「えー、ありがたいわ!真ん中に入れて右のハンドルを回すのね~?」
「そうそう、周りの皮をナタとかで切ってからね。やってみようか?」
「お願いします~!」
アルシャインが言うと、ナディアがキッチンに入ってナタでサトウキビの皮を縦に反動を付けながら切っていく。
「縦に切ってからジューサーでやると簡単よ」
そう言いながらナディアはサトウキビジューサーを使ってジュースを作る。
「これで、ザルを置いて綺麗な布で濾して煮る…」
そこまでやって、アルシャインに代わり、ナディアは紅茶を頼んでカウンターに座る。
「すぐに固まるから、うん、そうそう。焦げないように、湯煎でやるといいわね」
ライスコロッケを食べながら指導をする。
出来た砂糖は手動粉砕機で砕いてからペッパーミルで細かくした。
すると、少しの砂糖になった。
「…あれだけ煮たのに…」とフィナアリス。
「だから高いのね~…」
アルシャインがため息をつきながら言うと、ナディアが笑う。
「こんな風に作りたいなんて言う人はアイシャマスターくらいよ!ウチは工場で作ってるから安く出来るわよ。安心して」
「ナディアさん~ありがとう~!これ食べて!」
アルシャインはそう言ってナディアにリゾットタルトを出す。
「まあ嬉しい♪」
「ふふ」
そこにみんなが帰ってきた。
「ただいまー!」
「お帰りなさい…ってもうそんな時間!出掛けないと」
アルシャインが慌てて準備をする。
「いけない!私も帰らないと夫が拗ねるわ!」
ナディアもお土産にコロコロドーナツとボーロとクッキーとキャンディを買って帰り、ロレッソ達もお土産を買って帰る。
「砂糖ってそれだけ?」
小皿に盛られた砂糖を見てルベルジュノーが言うと、アルシャインがムーッとして言う。
「頑張ったのよ!」
それだけ言い出ていくので、カシアンが付いて行った。
「すごい竹の皮だね」
レオリアムがゴミ袋を見て言うと、フィナアリスが苦笑して言う。
「サトウキビの皮よ。確かに竹みたいだったわね」
「アイシャママが作った特別なお砂糖ね!…小瓶に入れて飾りましょう!」
ティナジゼルが言い、みんなが賛成した。
ティナジゼルは自分の大事な小瓶を持って来て洗ってから乾かして、それにアルシャインが作った砂糖を入れた。
そしてカウンターに飾る。
瓶には、〝アイシャママお手製の砂糖〟と書いたメッセージカードを紐で掛けた。
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