金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter68 5倍

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 澄んだ青空が広がる水の日。
朝早くに水やりと花の手入れをしてから、野菜と肉の入ったマンジュウの練習をしてみる。
「んー、美味しい!」
「一人でずるーい!」
そうメルヒオールが言うので、人数分作って朝食のラビオリと一緒に出した。
「うん、美味い!」とカシアン。
「内緒のおやつ?」とレオリアム。
「これは出さないで取っておこう…来週からの方がいいよ」
そうルーベンスも言うので、みんなで頷く。
味付けがコンソメと塩コショウなので、味が薄いと言われる可能性もある。
「何をタレとして出す?」
アルベルティーナが聞くので、アルシャインが悩みながら本をめくる。
「そうね~…タレは醤油や味噌がいいって書いてあるけど…売ってないわよね…」
そこに昨日の男性客が来る。
「隣国で東国の出店があると聞いてるから、買ってきてあげようか?」
「いいんですか?」
「ついでだから構わないよ。朝ご飯はリゾットとコトレッタを」
そう頼んで座る。
「貴方のお名前は?私はアルシャインです、アイシャって呼んで下さいね」
アルシャインが聞くと、男性は笑って言う。
「ここでの名前はミルコさ」
「ミルコさん、ではお願いします」
そう言って金貨を渡そうとすると、ミルコが手のひらを向ける。
「あ、お代は後でいいよ。醤油は30Gくらいで味噌は50Gくらいだけど…何個ずつ買えばいい?」
「あ…では醤油は3つで味噌は2つお願いします!まだ使い方が分からないので」
「分かったよ」
ミルコは朝食の後に旅立った。
他の客も旅立つ。
慌ただしく仕込みをしてから子供達が教会に行く。
「行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい、気を付けてね!」
アルシャインとフィナアリスが見送り、ドアに〝OPEN〟の木の看板を掛けた。
結構前からリュカシオンが作っていて、やっと納得する物が出来たらしいのだ。
すると、ロレッソやエイデンが入ってくる。
「おはよう、ここも看板を付けるようになったんだな!」
そう言ってエイデンが座る。
「ええ、リオンが作ったんですよ!」
アルシャインが笑って言う。
「ああ、中々カッコいいな」
ロレッソが言う。
「そうそう、マスターグレアムがバザーの申請をしたから、借りる器材を決めて欲しいってさ」
「じゃあギルドに行かないと…」
そう言って支度をしようとすると、ロレッソが紙を渡してくる。
「これに借りられる器材が書いてあるから、丸で囲むか印を付けときな。アイシャマスターは忙しいだろう?持っていってやるから」
「ロレッソさん…!ありがとうございます!」
そう言いアルシャインは万年筆を手に座る。
「どれどれ…」

 借りられる器材
・簡易かまど大(2メートル)5百G
  中(1メートル)3百G
・オーブン(1メートル)4百G
・テーブル大 百G
・テーブル中 60G
・イス2脚 50G
・水瓶、大(50G)中(20G)
・水桶 15G
・木製のカップ(10個)6G
・木製の皿(10個)6G
・木製のスプーン(10個)5G
・木製のフォーク(10個)5G
・水魔石 20G
・着火魔石 10G
とある。
「水魔石かぁ…桶に5回くらいしか出ないんだよね…教会には井戸と手押しポンプもあるし…ウチは馬車もあるし」
とりあえず簡易かまど大とオーブンに丸を付ける。
「…これ借りたら楽ね………どうしよう…」
どれも借りておけば、持っていくのは鍋や材料だけで済む。
それぞれの項目の後には〝各 個〟と、何個借りるかを書くスペースもある。
アルシャインはお金を考えながら丸と個数を書く。
水瓶の大と水桶2つ、皿とフォークは3つ、スプーンとカップは2つにした。
「後は持っていけばいいわね!お金も渡すんですか?」
アルシャインが紙を渡して聞くと、ロレッソが受け取りながら言う。
「いや、当日だ。計算はしたのかい?」
言われてハッとしてアルシャインは慌てて紙を返してもらって計算をする。
「えーと………はい、大丈夫です!」
合わせて千35Gだった。
出店料と合わせると1235Gだ。
「じゃあ渡してきてやるよ」
食べ終えたロレッソが立ち上がり、キャンディとボーロをお土産に出ていく。
エイデンはキャンディとボーロとクッキーをお土産に出ていく。
「いっぱい売らないと!あ…レースのリボンも人気なのよね~…やっぱり買い物に行こう!」
「一緒に行くよ」
とカシアンとノアセルジオが言う。
「ノアはもしかしてお勉強に?」
そう聞くと頷いた。
「他に勉強に行く子は?」
「あ、僕もマスターグレアムの所に行く」
レオリアムもカバンを手にした。
ノアセルジオとレオリアムはいつの間にかリサイクル屋で買ったカバンを持っている。
男らしくてカッコいいデザインだ。
「いいわねそれ!いっぱいお土産売れてたものね~…」
アルシャインはカバンを褒めた。
2人が頑張って色んなお土産を作って売ったから、こうして服やカバンを買えるのだから。
少し照れた2人とカシアンと共に荷馬車で街に出た。

街で分かれて買い物を…と思ったらグレアムが商業ギルドから出てきて言う。
「マスターアイシャ、つかぬ事をお聞きしますが…売り物は幾らで出すつもりですか?」
「あ…半分を寄付するので倍でいいかな、と…」
そう言うとグレアムはため息を吐いた。
「やはり…いいですか、相手は貴族なんです。全て5倍で売って下さい。1Gの物は0を一つ足して5倍にして下さいね」
「えー?!ぼったくり…」
言い掛けるとグレアムに口を塞がれる。
「ぼったくりは無いでしょう失礼な!貴族向けのバザーはみんな寄付を目的としているんですよ?安い値段を孤児院に寄付して喜ばれますか?」
「…喜ばないです…」
「みんな5倍以上が原則です。いいですね?!」
そう言ってグレアムはギルドに戻っていく。
「そっか5倍かぁ…たくさん買うぞー!」
そう言いアルシャインは露店を見て回り、レース編みに適した細めの毛糸と糸を買い漁った。
色んな色をたくさん買うので、カシアンの両手が塞がる。
「これ以上は無理だよアイシャ…先に馬車に行ってるぞ」
「あ、そうね…じゃあ後は…」
ついでに色んな大きさのビーズも買った。
「え、天然石だ!すごーい!」
露店には天然石のビーズまであって安かったのでたくさん買って荷物番のカシアンに渡した。
「あそこのレッドビーンズとグリーンピースを買っておきましょう!」
そう言うので、カシアンは慌てて荷馬車に入れてから動かし、豆の大きな麻袋を積んでいく。
ついでに小麦粉とコーンスターチとポテトスターチも粉屋から買う。
布屋では人形の服用に綺麗な端切れ布を買った。
「人形って…着替えが出来たら楽しいわよね~」
そう言いながら色んなボタンも買う。
荷馬車に戻って荷物を積むと、カシアンが苦笑した。
「どれだけ買うんだか…」
するとアルシャインは荷馬車に乗る。
「つい色々あるのよ」
話をしながら帰路に着いた。
「お人形の服のボタンでしょー、毛糸はレース編みでリボンを作る為でしょー」
「リボンだけ?」
「ええ。貴族が買っても捨てないでおくとしたら髪のリボンだけだもの。今日買った端切れ布ならサテンやリネンの物もあるから、男性用のリボンも作れるわ」
「へえ…アイシャは色々作れるな」
カシアンが感心して言うと、アルシャインが笑いながら言う。
「聖女しながら星の日にバザーでの売り物ばかり作らされたの。タッセルも作れるわね…ビーズもあるし…」
アルシャインが拳を口元に当てて考える間に金の羊亭に着く。
もうランチで混んでいたので、アルシャインは先に入ってカシアンは馬車を裏手に回して荷物を入れた。
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