金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter66 マンジュウ

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 午後になってやっとリュカシオンとノアセルジオが丸い小型のセイロと四角い大きめの木のセイロを手に帰ってきた。
「それがセイロ?使い方は?」
ユスヘルディナが聞くと、ルーベンスがセイロの使い方を本で調べる。
「セイロより少し小さめの鍋に水を入れて沸かせて、その上に濡らしたセイロを重ねてキャベツなどを置いてから具材を乗せるとくっつかない……それでフタをする…ふむふむ」
ルーベンスが中心となって、小麦粉の皮にグリーンピースのあんこを入れて包んで蒸してみた。
その間にカシアンやリュカシオン、ルベルジュノーが宿泊客を案内する。
と、一人の客が白い部屋の鍵を手にセイロを見て立ち止まる。
「やあ懐かしいな、マンジュウかい?」
「ご存知なんですか?」
「俺の故郷でよく作ってるからね。野菜蒸したり肉まんも作れるし…」
そう言うと、フィナアリスとリナメイシーとルーベンスがそのお客さんに駆け寄る。
「教えてくれませんか?!」とフィナアリス。
「美味しい物を色々知りたいんです!」とルーベンス。
「お願い!」とリナメイシー。
「まいったな…家庭の味で良かったら教えるよ」
男性はそう言って子供達と共にキッチンに入った。
アルシャインは頭を下げる。
「急にごめんなさい」
「退屈だったしちょうどいいよ。ちょっと火が強いね…」
そう言い男性は慣れた手付きでセイロを避けて水を足した。
そして、ちょうどあるグリーンピースのあんこを皮で包む。
「こうやって包むんだ。閉じる感じで」
皮の包み方をみんなに教える。
「小豆があるといいけど……無いんだね」
「アズキ?」とクリストフ。
「赤い豆でね。あれが美味しいんだけど…」
「…これは違いますか?この前、粉屋さんがくれて、レッドビーンズだって言ってて…サラダとかスープに入れてました」
そう言ってアルシャインが穀物倉の奥からレッドビーンズの袋を抱えて出てくる。
「それそれ!これであんこを作ろう!」
男性は喜んで準備をした。

みんなは男性と共にアンコを作る。
「さあ出来た。我が家のマンジュウだよ」
男性が作った物をみんなで食べた。
「美味しー!」とユスヘルディナ。
「甘くて美味い!」とルベルジュノー。
「あのレッドビーンズがこんなに変わるんだ…」とルーベンス。
それに同意見のアルシャイン。
男性が丁寧に作り方を教えてくれたので、みんなが理解出来た。
「隣国で醤油を手に入れたら、また泊まりに来て今度は団子を教えるよ」
そう言って男性が部屋に入った後で、みんなは会議をする。
「幾らがいいかな…」とルベルジュノー。
「マンジュウをここで出すなら一個5Gがいいと思う。大きくてアンコがかなり入ってるし」
そうルーベンスが言うと、みんなが頷く。
「グリーンピースのアンコも美味しかったから…黒マンジュウと緑マンジュウって名前でどうかな?」
とノアセルジオが言うと、みんなが笑う。
「いいねそれ!」とレオリアム。
「来週からの新商品ね!」とアルベルティーナ。
「バザーなら倍の値段にすればいいわね!」
アルシャインが言いながらレシピをノートに書く。
他にも男性が教えてくれた野菜マンジュウや肉まんというのもレシピに書く。
野菜や肉を包んで蒸すおやつだと言っていた。
いつ作ろうか悩んでいると、もう宿泊客のディナーの時間になり、みんなもディナーにした。

ディナー客はみんなサンドイッチを買っていった。
「昼に食べた雑貨屋のジルダが美味いって広めてたんだよ」
そう言いながら茶葉売りのジャレドがサンドイッチを手に店を出た。
「やだ、パンが無くなりそう…一つだけ焼いとくわね~」
アルシャインがそう言って追加でブレッドを焼いた。

 空いた時間にアルシャインがピアノを弾いて言葉遊びをした。
「月の日には~1・2・3・4・5人の小人達~がブレッド買いに街に来た~♪待っているのはだぁれかな~?」
「ブタさん!」とクリストフ。
「ブーブー、ブレッド美味しいな♪火の日には~6・7・8・9人の小人達~がクッキーを買っていく~♪誰のお土産なんだろう~?」
「アヒル!」とメルヒオール。
「カバ」とルベルジュノー。
「ふふ、仲良く食べようね♪水の日には~15人の小人達~がソーセージを買っていく~♪誰と誰が待ってるの?」
「んー、クジラ!」とリナメイシー。
「ゾウさん!」とティナジゼル。
「じゃあ海岸でピクニックだね♪楽しいね♪」
ジャン、と鳴らした後に曲調を変える。
「風の日は~アリさん32人からの注文だ~〝僕達チーズが欲しいんだ、2人で一つ運ぶんだ〟さあ何個買えばいいのかな~?」
「16個!」とユスヘルディナ。
「せいかーい♪炎の日は~ゾウさん13人からの注文よ~〝僕らはバナナが欲しいんだ~一人で5個持って行くよ~〟さあ何個買えばいいのかな~?」
割り算の次は掛け算だ。
「あ…と、50と15!」
混乱しながらマリアンナが答えた。
「はい、せいかーい♪大地の日には夜空から星がたくさん降ってきた~♪カモメが数えてみたら69個も網の中に入ったの♪嬉しくなったリスさんが星を3つ繋げてネックレスを作ったよ♪何個出来たかな~?」
聞きながらアルシャインはピアノに立てかけたノートをめくって答えを確認した。
みんなは手やテーブルに指で書いて計算する。
あえてフィナアリスやノアセルジオは黙っていた。
「24個!」とアルベルティーナ。
「23個!」とルーベンス。
ほぼ同時に言った。
「ルーベンスせいかーい!星の日にはゆっくり休もう、お星さまも寝ているよ~、みんな楽しく過ごしてね~♪」
一週間を使った言葉遊びだ。
そこで止めて、みんなはお客さんを見送って鍵を掛けて掃除をする。
「ねぇアイシャママ!ドレス着て踊ってみて!」
いきなりティナジゼルが言ってくる。
「踊るってみんなで?」
「ううん、舞踏会のダンス見たいの!」
そう言うと、みんなが寄ってくる。
「是非見たいな」とレオリアム。
「踊って~」とリナメイシー。
「でも相手がいないから…」
そう言うと、みんながカシアンを見た。
「騎士って踊れる?」
そうリュカシオンが聞くと、レース編みに挑戦していたカシアンが驚く。
「おど……踊れる、けど……」
「着替えに時間が掛かるし…」
そうアルシャインが言うと、アルベルティーナが言う。
「コルセットとか着けなくていいから~!ね~?」
どうやらダンスが見たくなったようだ。
「…じゃあ少しだけね。カシアン、踊れるなら騎士の制服に着替えてきてね~」
そう言ってアルシャインは2階に上がる。
カシアンは照れながら2階に上がった。
するとみんなはテーブルとイスを寄せてスペースを作って待った。
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