金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

文字の大きさ
上 下
64 / 123
第一章 始まりの館

Chapter62 歌とダンス

しおりを挟む
 午後はみんなで勉強だ。
その中でアルシャインがピアノを弾く。
「お池のお水が溢れそう~街にお水が溢れそう~♪誰ならお水を止められるかな~?」
そう歌うと、レオリアムが聞く。
「その水は何処から来て溢れそうなの?」
「池の底から湧いてるのよ~♪どんどんどんどんお水が湧くよ~♪」
「アヒルさんがグワーって口で吸い込むの!」とクリストフ。
「アヒルがガーガー頑張った!僕だけじゃ無理だよ~、誰か助けてよ~♪」
「分かった!ゾウさんよ!教会でゾウさんは鼻から水を吸って吐き出すって言ってたから、その水を川に流せばいいんだわ!」
そうアルベルティーナが言う。
「ゾウさんゾウさん頑張って!アヒルさんはもう泳いじゃったわよ~?誰が出来るかな~?」
ただの言葉遊びではなく、池の水をどうすれば止められるかを考えてもらいたくてアルシャインは歌っていた。
「…池の底から…みんなで川まで道を作ったらどうかな?溝を掘って、川を作るみたいに」
そうルベルジュノーが言うと、アルシャインが歌う。
「池から川まで溝を作るぞー♪誰がどんな風に作るのかなー?」
「さっきのゾウに荷車を引かせて、みんなでシャベルで掘る!」
ルーベンスが言う。
「みんなってだぁれ~?」
「んー…クマ!」とティナジゼル。
「じゃあクジラ!」とメルヒオール。
「うんいいね!クマさんは力持ちだし、クジラさんは泳ぎながら手伝えるよ!これで水が川に流れたね♪」
「やったね!」
パチンとティナジゼルとメルヒオールが手を叩き合う。
「あらあら川が深くなったら、みんなが渡れなくなったよ~、さあどうする~?」
「…橋を作る?」とユスヘルディナ。
「舟を出した方が早いよ」とマリアンナ。
「両方やったらどうかな?」とリナメイシー。
「どうする~?アリさんがケーキを対岸に運びたいって並んだよ~?」
「じゃあ舟を出してから、橋を掛けていこう」
そうルベルジュノーが言ってみんなが頷く。
どんどん問題を出して、解決策を考えてもらう言葉遊びだ。
「あら大変、雲がモクモク嵐が来るぞー!嵐が来ると何が起こる~?」
「えー…風が強いー」とティナジゼル。
「大雨!」とメルヒオール。
「さっきの川が増水して橋が流されるね」とノアセルジオ。
「えー!それヤダー!」とクリストフ。
「そう大雨の時は川に近付いちゃいけないよ!土砂も流れるから気を付けて!」
そうアルシャインが歌ってピアノを終わらせた。
「ねー、何が正解?」
ルーベンスが聞くと、アルシャインは笑う。
「正解はみんなが経験して作っていくのよ。池の水はね、川にするのが正解。川には橋と舟で正解なのよ」
アルシャインがそう答えると、ユスヘルディナが頷きながらノートに書く。
「じゃあ次はあたしが弾いていい?」
アルベルティーナが言い、イスに座って聖歌を弾く。
新しく習っている物で、楽譜を写してきていた。
楽譜の読み方もシスターに教わった。
するとアルシャインはミシン部屋に行ってヴァイオリンを持って来て共に弾く。


 ディナーの後で、みんなでダンスをした。
教会の子供達と踊ったとかで、リナメイシーとマリアンナとクリストフがみんなを誘って踊り出したのだ。
するとアルシャインがピアノを弾く。
「これ、隣国でも流行ってたのよ~!」
みんなで輪になって男女で手を合わせて回って手を叩いて、また反対に回って手を叩いて、男の子が隣の女の子に移るというフォークダンスだ。
「私も弾けるわ、アイシャママも踊って!」
そう言いフィナアリスがアルシャインを立たせて代わりにピアノを弾く。
「弾いた事はあるけど…踊った事は無いのよね~、あ、こう?」
「男の子と手を高く合わせて回るの!」
ティナジゼルが楽しそうにアルシャインに言う。
「回る時は片手でスカートを持ってスキップよ!」
アルベルティーナがそう言って回る。
「あはは、やだこれ楽しいのね!」
ぎこちないながらもアルシャインはリュカシオンと踊ってから次に来たノアセルジオと踊る。
「やーねー、なんか照れる…」
ノアセルジオの手が意外と大きくてごつかったのでアルシャインはドキドキしながらも手を合わせる。
「アイシャは意外と小さい手だよね」
そう言いにっこり笑い、ノアセルジオは指と指を絡ませるように握って回る。
するとアルシャインは真っ赤になって手をパーッと開く。
「ノア!」
「あはは、アイシャはシャイだなぁ」
笑いながら今度はちゃんと手を合わせて回る。
その次はカシアンだ…アルシャインはじっとカシアンを見てから、何かを警戒して一人でカシアンの周りを回る。
「アイシャ!そりゃないよ!」
「だってカシアンも手を握りそうなんだもん!」
そう言うとみんなが笑った。
「そんな事言うなら…!」
カシアンは強引にアルシャインの手を握ってクルクルと回した。
「ちょ、これ踊りになってない!」
「あるさ!どれだけ女の子が回れるかを見るやつ、ダンスの中間に!」
そうカシアンが言うと、リュカシオンがアルベルティーナの手を握ってクルクルと回し、ノアセルジオがユスヘルディナの手を握ってクルクルと回す。
ピアノもそれに合わせて鳴らされた。
すると周りが
「回って回ってお姫さま!」
と掛け声を言う。
舞踏会のお姫さまはクルクルと優雅に回るだろうという発想から、どれだけ回れるかを競う踊りでもある。
「いいわ、ひっさびさに回るわよ~!」
アルシャインはそう言ってカシアンの手を軸にして回り、今度はカシアンを回した。
「え、ちょ、手首っ」
手首をひねって回すので、カシアンが回れずに尻もちをついてみんなが笑った。
「駄目ね~カシアン!手首はこうひねるのよ」
アルシャインは言いながらみんなに教えて、またみんなで回って楽しんだ。
「回って回ってお姫さま!回った後は支えるよ!」
そう言い、フラフラになった女の子を男の子が支えるのだ。
そこを逆にアルシャインがクリストフを支えた。
「リフ上手いのね!」
「ふふふ、アイシャママのマネだよ!」
その次のメルヒオールも回るのが上手かった。
その日はみんな楽しくダンスをした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...