金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

文字の大きさ
上 下
56 / 123
第一章 始まりの館

Chapter54 改築祝い

しおりを挟む
 朝から常連さんが来てくれた。
レンガ職人のロレッソ、鍛冶屋のエイデン、家具屋のダンヒル、ミュージ売りのコルマン、綿屋のダレル、粉屋のローハンとその妻ナディア、雑貨屋のジルダ、リサイクル屋のハンク、ペンキ屋のダグラム。
「改築おめでとう!」
そう口々に言って、開店祝いの花束や植木鉢の花などを贈る。
「わああぁ~…すごく嬉しいわ!」
「ほら、お祝い」
ダンヒルがそう言ってロッキングチェアをキッチンの隣りに置いた。
「お前さんがここに座ってどっしり構えて、他のに作らせるといい」
「きゃあー!これ座ってみたかったのよー!」
そう言い早速座って揺らしてみる。
「うふふ、なんだか揺りかごみたいね!レース編みが楽しくなりそう!ありがとうダンヒルさん!」
お祝いの品で一番嬉しかったようだ。
早速みんなの朝食を作って出す。
「イスの座り心地はどうかしら?」
アルシャインが聞くと、丸いテーブル席に着いた粉屋のローハンが答える。
「とてもいいね、クッションもあって背もたれも大きいから、我が家のように落ち着けるよ!」
「それは良かったわ!」
「壁のベンチもクッションが飾られているから好きに使えてすごくいい!」
そうミュージ売りのコルマンが言う。
「外側のベンチは背もたれがあるから楽だよ!」
リサイクル屋のハンクも喜んで言う。
「ベンチも綿と皮を貼り付けたの、お尻に優しいでしょ?イスは全部、ダンヒルさんとみんなで頑張ったわよ!」
「もはやソファーだな!」
笑って綿屋のダレルが言い、みんなで笑う。
「さあ、コロコロドーナツとクッキーはいかが~?」
カシアンが売り込む。
「あ、リゾットタルトある?」とジルダ。
「バターとハチミツのパンケーキ!」とコルマン。
「コロコロドーナツ10個くれ」
ローハンも言う。
するとカシアンが配膳で忙しく回る。
ノアセルジオはトレイにリゾットタルトとパンケーキを乗せて運んだ。
「そういえば、ギルドマスターがここの前にある空き地を売り出すとか言ってたな」
ロレッソが言うと、アルシャインが身を乗り出して聞く。
「え、幾ら?!」
「そこまで聞いてないが…」
「午後に行けば分かるかしら…」
アルシャインが呟く。
「じゃあ、一緒に…」
カシアンとノアセルジオが同時に言い、バチバチと睨み合った。
「出来れば街の情報も知りたいから、ノアも一緒に来る?」
「勿論」
答えて、ノアセルジオはニッとしてカシアンを見た。
カシアンはムーッとしてアルシャインに近寄る。
「金庫番は俺なんだけどな…」
「だから守っててね。今日は聞きに行くだけだし」
「そう言ってアイシャはいつも何か買うじゃないか」
「えー…と、そうね~…。でも大金は持たないわ」
何も分からずにアルシャインが答えて、カシアンはガックリと肩を落として座った。
するとダレルがカシアンの肩をポンポンと叩いた。
「青年、まだまだチャンスはあるさ!」
「……」
落ち込みながらもカシアンは穀物倉に入る。
「?カシアンどうしたの?」
アルシャインが聞くと、フィナアリスが苦笑して言う。
「アイシャママがかまってくれないから落ち込んだのよ」
「なにバカな事言ってんのよ。あ、この平パン焼いといてね!」
アルシャインは忙しそうに動く。


 みんなが帰って来て、常連さんが帰っていく。
「ランチの後でギルドに行ってくるわね」
「お土産のシール貼り替えないと」
アルベルティーナが言い、気が付いたアルシャインが盗難防止のシールを剥がして、フィナアリスが付けた。

ランチは新しいお客さんや宿泊客などが来てごった返した。
「えーと、紫ですね、こっちです!」
ルベルジュノーが一人を案内して、レオリアムが注文を取り、アルベルティーナとクリストフが席に案内する。
クリストフとティナジゼルとメルヒオールとカシアンが配膳をした。
「待って、そのステーキこっちが先!」とティナジゼル。
「コーヒーとリゾットタルト追加ー!」とメルヒオール。
その間にまたルベルジュノーが宿泊客の対応をする。
「いやぁ、ずっと工事してたから待ってたんだよ。ここの宿は最高だからね!」
旅人が言う。
確か前にも泊まった冒険者マーセナリーだ。
「もしかして冒険者ギルドでも有名?」
そう聞いてみるとその冒険者マーセナリーは笑う。
「ああ、ギルドにも金の羊亭が3ツ星だって紹介されてたよ!ポスターもあるしな!」
その冒険者マーセナリーは笑って部屋に入る。

「ごめんなさい、もう満室で…」
ランチの混雑の終わりと共に来た旅人に言うとガックリと肩を落とした。
その旅人は食事をたくさん食べてお土産も買って出ていった。
「じゃあ、そろそろ行きましょうかノア」
「うん」
ノアセルジオは微笑んで言い、エプロンを外す。
「それじゃあ商業ギルドに行ってくるわね!」
そう言いアルシャインはノアセルジオと共に出掛けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...