金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter44 楽しい毎日

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  ランチ前の仕込みをしている時に子供達が帰ってきた。
「ただいまー!」
「お帰りなさい、どうだった?」
アルシャインが続々と入ってくるお客さんを案内しながら聞く。
みんなは荷物を急いで部屋に置いてから、手を洗ってエプロンを付けて、頭にバンダナを巻いてキッチンに入る。
「楽しかったよ!」とマリアンナ。
「知らない言葉をたくさん習ったわ」とフィナアリス。
「歌も習ったよ!」とクリストフ。
「良かったわね!じゃあ明日も楽しみね」
アルシャインが言うと、リュカシオンが言う。
「アイシャ、俺は…」
「駄目よ。まだ一日目じゃないの!私じゃ言葉を教えきれてないし、数字と歴史も駄目なのよ」
それでも、断ろうとするとお客さんが来て混んだので言えなくなった。
フィナアリスも断ろうとしたが言えなくなった。

 リュカシオンとルベルジュノーとノアセルジオは最後の部屋の家具を作りに行き、レオリアムがペンキを塗りに行く。
すると家具屋のダンヒルとペンキ屋のダグラムが後から行って手伝った。

「お前達は、何になりたいか決まったのか?」
ダンヒルが聞くと、リュカシオンが答える。
「家具屋だってば」
「お前の夢は知ってるよ。…もっと細かな部分を見て調整しろ」
そう言ってからルベルジュノーとノアセルジオを見る。
「…俺はまだ迷ってるんだ…」
ルベルジュノーが答える。
「お前は?」
ダンヒルがノアセルジオを見て言うと、ノアセルジオは微笑して言う。
「宿屋のマスター。…出来れば、アイシャと」
「お前…そういう事か!強力なライバルが居るなー…」
「負けたくないから、勉強を頑張るよ」
そうノアセルジオが言うと、周りがピーピーと口笛を吹いてはやし立てた。


 午後はみんなで勉強。
少し手が空いたので、アルシャインはヴァイオリンを取り出して聖歌の〝清き御手みてに〟という曲を弾く。
少しでも聖歌を弾いておけば、みんなが教会で聞いた時に分かるだろうから、いいと思ったのだ。

メルヒオールとティナジゼルとクリストフの3人は庭で追いかけっこをする。
「ふふふふ」
「あはは!」
一人が追い掛けて、タッチした者が今度は追い掛ける役だ。
やっと、子供が子供らしい遊びをしているので、アルシャインはホッとする。
そこに旅人が来たのでティナジゼルがドアを開けた。
「お客さんだよー!」
「はーい」
アルシャインがヴァイオリンをケースにしまって対応する。
旅芸人の親子だったので、5号室に通した。

 ディナーの混雑の中で、冒険者の一団と吟遊詩人などの旅人が食事の後に泊まる。
吟遊詩人とは、片手で持てるハープを弾きながら英雄や何処かの国の出来事などを歌い、それで稼ぐ芸人の事だ。

その日は吟遊詩人が歌を歌って稼いでいたのでピアノはやめておいた。

 何も知らぬ少女達
 神殿という名の牢に入れられ
 永久的に魔力を取られる
 聖女という名の奴隷達
 月よ 風よ
 哀れな少女に安らぎを
 星よ 雨よ
 死にゆく少女に安らぎを

吟遊詩人が歌ったのは、隣国の〝聖女育成〟を皮肉った歌だった。
確かにその歌の通りで、なんとも言えない。
アルシャインはキッチンの片付けをして、最後のお客さんを見送った。
〈…何か出来る事はないかな…〉
もう聖女では無いから、直接何かする事は叶わないが、何らかの形で隣国のシステムを変えるような…そんな手助けが出来たらいいのに、と思う。
そんな壮大な事は出来ないので思うだけなのだが…。
などと思ってテーブル席に座ると、リナメイシーとアルベルティーナが寄ってくる。
「アイシャママ…辛い?」
リナメイシーの言葉にアルシャインは驚く。
「え?なんで?」
「アイシャママが、元は隣国の聖女だったって…カシアンから聞いたってアンヌが言ってたの」
アルベルティーナも心配そうに言う。
「私は……今は楽しい事ばかりよ?みんなが居て、お喋りをして料理を作って…そんな顔しないで」
アルシャインは苦笑してリナメイシーとアルベルティーナを抱き締める。
「毎日がとても幸せよ」
「アイシャママ…あたしも!」
アルベルティーナが言いアルシャインに抱き着く。
「リーナもよ!」
リナメイシーもギュッとアルシャインを抱き締めた。
「ふふ。さあ、お掃除をしてレース編みでもしましょう?上達したら高値で売れるようになるわよ!」
「うん!そしたらワンピースやブラウスの作り方教えてね!」
笑ってリナメイシーが言うので、アルシャインは頷いた。
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