金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter42 多大な寄付

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 午後になると、ギルドマスターのグレアムがやってくる。
「まず、この看板を建物の外と中に付けて下さい」
そう言い渡された木の看板には大きな十字に大きな文字で〝孤児院宿〟と書かれていた。
「この看板のもとで盗みや暴行を行う事は、国民としての恥であり条例違反ともなる。それ故、盗人は近寄らない。本や小物や売り物には、こちらのシールを貼りなさい。貼った者には簡単に剥がせるが、他の者には決して剥がせない物だ」
「痕が残ったりします?」
アルシャインが聞くとグレアムは笑う。
「綺麗に剥がせるから、気にしなくて平気だ。…おっと。いつもは敬語にしているのですが、説明でつい…失礼」
「いえ、マスターグレアムの方が年上でしょうし、構いませんよ!」
そうアルシャインが笑って言うと、グレアムは微笑んで頷いて喋る。
「それから、こちらが申請の証明証。あとこちらの書類にサインを」
そう言い数枚の紙を出してテーブルに並べて万年筆を置く。
「は、はい…」
「こことここに」
そう示される場所にアルシャインがサインをした。
「国からの補助金は毎月1日に払われますが…今月は申請したばかりなので、5日以内に払われる筈です」
「分かりました」
アルシャインが答えるとグレアムは頷いてクリストフを見て言う。
「紅茶とレモンと砂糖と、パンケーキのクリームとフルーツ添えを頼むよ」
「はーい!」
クリストフが答えてキッチンにいるフィナアリスとアルベルティーナに伝えてから注文を書く。
「それから地図と、これが様々な業種をまとめた冊子で、これが寄付する本です」
そう言いグレアムは地図と冊子と紙袋をテーブルに乗せる。
「わ、ありがとうございます!わざわざ冊子にしてきて下さって、子供達も喜びます!」
笑顔でアルシャインが言うと、グレアムも微笑む。
なんだか、見ていていい雰囲気に思えた。
遠くから見てもそうだったのだろう。
カシアンとノアセルジオがやってきて側に行く。
「アイシャ、これは?」とノアセルジオ。
「寄付して下さった本よ。出してみましょうか」
そう言いながら出してみる。
物の名称事典や植物事典、動物事典、国の歴史、言語辞典、薬事典、医学用語の本、経済についての本、数学事典や国語辞典などだった。
「他に興味のある職業が分かれば、それについて分かる本を探してきます」
「い、いえ充分です!ね?」
アルシャインが言うと、ノアセルジオが喋る。
「経営について知るには、どれを見たらいいですか?」
「名称事典と経済についての本と数学事典と言語辞典ですね。分からなければギルドを訪ねて下されば、様々な事を教えられます」
グレアムは真面目に答える。
本にはもうシールが貼ってあった。
〝商業ギルドからの寄付〟と書いたシールだ。
ノアセルジオとカシアンは本を本棚に置く。
そしてカシアンが看板を外側と内側の扉の側に取り付ける。
アルシャインは売り物にシールを貼りながら聞く。
「あの…この国の教会は学校をしてますよね?それはこの子達でも受けられますか?」
アルシャインが聞くと、グレアムは運ばれてきた紅茶を飲んでから答える。
「可能です。教会に行く時は筆記用具を持参します。そして一人1Gで良いので寄付をして授業を受けます。火の日、水の日、風の日、炎の日の午前9時から11時の間に授業があります。大抵は言語や数学ですね」
そう言うとアルシャインがみんなに言う。
「覚えてるかな?前に教えたけど、一週間は月の日、火の日、水の日、風の日、炎の日、大地の日、星の日で回るのよ!」
「知ってるー」とティナジゼル。
「教会って近い?」
レオリアムが聞くので、アルシャインは地図を手に立ち上がり、みんなが見られる入口の横に貼り付けた。
「ここからだと…街に行く途中にあるわ。街の周りに3つあるのね」
みんなが地図を見に来た。
リナメイシーもパンケーキをグレアムに運んでから見る。
結構細かく書かれた地図だった。
「今日は水の日だから、明日の風の日に行けるわよ!」
アルシャインが喜んで言うが、みんなはぞろぞろとテーブル席に着いて勉強を始める。
「ここで出来るからいいよ」とルベルジュノー。
「そうだ、筆記用具!全員?あ、何人分のノートが要るのかしら…」
急にアルシャインが焦りだすと、グレアムがパンケーキを食べながらもう一つの紙袋をテーブルに出す。
「これを……どうぞ」
パンケーキを飲み込んで言う。
アルシャインが見ると、中にはノートと筆記用具が入っていた。
「ええ?!」
「寄付です」
そう言いグレアムはまたパンケーキを食べる。
「アイシャママ驚き過ぎだよ。孤児院なら〝ありがとうございます〟って言う所じゃないの?」
そうアルベルティーナが言うので、アルシャインはハッとしてグレアムにお礼を言う。
「ありがとうございます!」
頭を下げて言ってから、アルシャインは紙袋を手にしてみんなの居るテーブルに行く。
そして中身を出して一人一人に配る。
「小物ケースにペンをしまってね、あとねハンカチもいるわよね…用意しておくからね!」
「待ってくれよ、行くとは言ってないよ」
そうルベルジュノーが言う。
「駄目よ!ジュドーは教会に通ってたって言ってたじゃないの!行かないと!」
「だって…そんな事より狩りとか剣を習ってる方がいいよ」
「ジュドーは騎士になりたいの?」
アルシャインが聞くと、ルベルジュノーは悩む。
「狩人か木こりもいいと思ったんだよ。いい木を切って、リオンに渡して家具にする…それもいいなと思ってるけど、迷ってる」
「悩むのなら、やっぱり行くべきよ。みんな行って貰いますからね!」
するとみんなが「えーっ!」と叫んで言う。
「朝からアイシャママ一人なんて無理よ!」とフィナアリス。
「そーよ、お土産もあるのに!」とティナジゼル。
「配膳は誰がやるの?!」とクリストフ。
「それは俺がやるから…一度は行った方がいい」
カシアンまで言う。
「明日9時には教会に着くようにね。それから、今は空いてるから自由時間よ!遊ぶの!」
突然言われてみんなは怪訝そうな顔をした。
「だから勉強してるよ」とレオリアム。
「言葉と数字に強くなりたいから」とメルヒオール。
「アイシャママ、ちょっと黙ってて。ねぇ、これだと掛け算が簡単になるの」
そうマリアンナが言って、先程寄付された数学事典を見てレオリアムに言う。
「そうだね。リフとメルとナージィは分かる?」
「分かる!8と8で16!ほら」とティナジゼル。
「うん、次が…」
とレオリアムが中心となって数学の授業をしていた。
アルシャインはムーッとしながらキッチンに行く。
「カシアン!私ちょっと支度してくるわ!」
突然叫んでアルシャインが2階に行った。
そして、カバンを漁るがいい物が見当たらなかった。
「買う?作る?」
アルシャインはまたドタドタと降りてきて言う。
「ね、カバンは買うのと作るのどっちがいい?!」
そうみんなに聞くと、みんなは悩んでグレアムを見た。
本当は〝要らない〟と言いたいが言えないので、アドバイスを求めたのだ。
「…みんな、手に筆記用具を持つだけですが…」
「え?カバンは?」
「特には要らないと思いますよ。盗まれても困りますからね」
グレアムに言われてアルシャインは気が抜けて座った。
「…料理しよ…」
一人で淋しく料理をするアルシャインを見て、みんなが苦笑していた。

 夕方には旅人が宿泊に来た。
「ピッツァマルゲリータとデミグラスハンバーグー!」とクリストフ。
「コトレッタお待ちどうさまー!」とティナジゼル。
みんなが忙しく動き回る。
ディナーの忙しい時間に入り、手が離せなくなった。
「ねぇ、明日大丈夫?」
心配そうにアルベルティーナが聞くと、アルシャインは笑う。
「大丈夫よ、朝だし!」
「ホントかな…」
クリストフが呟く。

やっと落ち着いたので、アルシャインはピアノを弾いて言葉遊びをする。
つきの日にはミュージの毛刈り、の日にはニワトリ小屋の掃除だよ~、じゃあみずの日には何しよう~?」
「畑の水やり!」とクリストフ。
「今はトマトが実ってる♪かぜの日には何しよう~?」
「庭の手入れ」とリュカシオン。
「お庭が綺麗で嬉しいね♪ほのおの日には何しよう?」
「狩り!」とルベルジュノー。
「狩りは慎重にやろうね♪大地の日には、神への祈りと懺悔の日~一週間の良くなかった事を全て吐き出したら気持ちを切り替えて~、星の日は自由時間よ♪楽しい一日を過ごしてね♪」
そこで終わりにして、アルシャインは出入り口に立つお客さんの下に行く。
そしてチェスのコマの置物とコースターのシールを剥がして袋に入れてお金を貰って渡した。
お客さんも帰ったので、みんなで掃除をしてから、職業の冊子をみんなで見る。
「リフは何になりたい?」
アルシャインが聞くと、クリストフは笑顔で言う。
「野菜売り!アイシャママに安くしてあげるんだ!」
「まあ、ありがとう!」
アルシャインはギュッとクリストフを抱き締める。
「あたしは何がいいかな…」
アルベルティーナは迷って言う。
一人称が〝ティーナ〟から〝あたし〟に変わっていた。
きっと成長したのだろう。
「ふふ、たくさんあるから見てから決めたらいいわ」
アルシャインが言って、余ったミルクをホットミルクにしてみんなに出す。
レオリアムは医学書を読み、ノアセルジオは経済についての本と言語辞典を見ている。
リュカシオンも言語辞典を見ていた。
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