金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter39 宿泊代の値上げ

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 ランチも満席で、ギルドマスターはパスタとラザニアとリゾットタルトを頼んだ。
忙しく接客をする内に午後になり、みんながそれぞれに交代で休憩を取る。
「あの人朝からいるね」
小声でクリストフが言うと、同じく休憩をしているリナメイシーが頷く。
「ずっと何か書いてるの。…まあ、頼んでくれてるし…小物見たりしてるし…悪い人じゃないよ」
「そうだね」
そう話し合う。
〈…さすがに夜まで見るのは…〉
思いながら、空いてきたのでギルドマスターはアルシャインに話し掛ける。
「マスター、泊まれるかな?」
「はい、何号室がいいですか?」
そう言ってアルシャインは鍵を見せた。
ギルドマスターは鍵に付いている木札の色が気になる。
「この色は?」
「部屋の色ですよ。今はお客さんがいないので見ますか?」
そう聞くとギルドマスターは頷いた。
案内すると、部屋ごとに色が違う事に驚かれた。
「色が違うし布団が凄い!これは百でも足りない程だ!今すぐ価格を変更しなさい!」
「えー…」
「えーって何ですか!来なさい」
ギルドマスターはアルシャインを連れて黒板の前に来る。
「宿泊は百です。他の食事も美味しいのに安すぎるでしょう!」
「でも、余り高いのは…」
「ここが孤児院である事を考慮すれば尚の事、上げなくてはいけません」
そう言われてアルシャインは渋々宿泊を〝65G〟にした。
「なんですか、その半端な価格は」
「まだ、中途半端なんです。この屋敷の外観だって古いし、立派な建物では無いから…」
そう理由を付けると、マリアンナが言う。
「アイシャママはなんでも安いんだってば!その人の言う通りなのよ!」
するとリナメイシーも言う。
「お客さんだって、あと10Gずつあげた方がいいって言ってるよ?!」
「でもね、アンヌ、リーナ…」
「あたし達を養うお金で無くなっちゃうじゃないの!」とアルベルティーナ。
「布を買っても僕らの服ですぐに無くなるのに、申し訳ないよ」
そうレオリアムが言うと、そうだそうだとみんなが言う。
「食事は上げたくないの…少ないお金でも、誰でも食べられるようにしたいのよ。…ごめんなさい」
アルシャインが俯いてそう言うと、みんなは何も言えなくなる。
みんながアルシャインの為を思って言っているのが分かる。
「…ではこの価格で。4号室ウィステリアでお願いします」
そう言いギルドマスターはチップ込みで70G払い、庭のベンチに座って中の様子を見た。

「あのお客さんいい人ね!」とマリアンナ。
「こんなに綺麗な宿屋だから、安いと逆に疑われるよ」
そうリュカシオンが言い、売り物の整理をする。
そこに3人のローブ姿の旅人が来て泊まった。
夕方には3人連れのお客さんが来る。
女戦士2人と女性の僧侶アポストルだ。
「あの、あと2部屋しか無くて…」
「じゃあ2人で一部屋は駄目かな?」
女戦士が言うと、アルシャインが頷く。
「いいですけど、ベッドとか大丈夫ですか?」
アルシャインが聞くと、女戦士の一人が僧侶アポストルの子の肩を抱く。
「この子と一緒に寝るから大丈夫!一人65Gだね、はい!」
そう言いお金を払って部屋に入ってからはしゃぐ。
「綺麗な宿だね!」
「可愛いー!これが宿?!」
「マスター!嘘みたいに綺麗なんだけど!」
そう3人で言ってアルシャインを見ると、アルシャインは笑顔で言う。
「綺麗な方がいいでしょう?ディナーは混みますから、早めに食べに来て下さいね!」
そう言いアルシャインは嬉しそうにキッチンに入る。
みんなで作った部屋が褒められるのが、とても嬉しいのだ。
「やっぱりソファーも欲しいわよねー…」
アルシャインが呟くように言うと、隣りでキャンディを作るクリストフが言う。
「値上げしないのに?」
「…あ!じゃあ今作ってる4部屋のベッドを2つにして2人部屋にするのはどうかしら?!」
フィナアリスが提案する。
「それなら5、6、7、8の部屋だよ!もう一組なら布団が作れるから!」
そうノアセルジオが言う。
するとアルシャインがパンと手を打って笑って言う。
「それいいわね!ナージィ、カシアンに伝えて来て!」
「はーい。カシアーン!」
答えてティナジゼルが走って行く。

ディナーで混む前に宿泊客をクリストフとティナジゼルが呼びに言って食事を取らせた。
宿泊客が食べている間に満席になったので、てんてこ舞いとなった。
ギルドマスターは驚きながらもその様子を見つめていた。
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