金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter22 大きな買い物

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 翌日は晴れていた。
アルシャインは綿を平たく伸ばして重ねる作業を黙々とやっていた。
少しするとみんなも起きてきてミュージとニワトリの世話をする。
そして、ミュージの毛を伸ばして重ねる作業もした。

 今日は久し振りの晴れ間なので、廃材置き場には色んな物が捨てられていた。
「ミシンがある!これで2人で使えるわ!」
そう言いアルシャインが足踏み式ミシンを見付けたので、カシアンが運んで荷車に乗せた。
「…そろそろ新しいの買う事も出来ると思うが…」
「カシアン…ミシンが幾らで売ってると思う?」
「幾ら?」
「2万よ…」
真顔でアルシャインが言う。
「たっか!…それは、うん使えるといいな」
驚いてからカシアンはミシンを撫でた。
「他には……あ」
材木の陰にアップライトピアノを見付けた。
何個か音が鳴らないが、修理したら使えるかもしれない。
しかし、修理の方が高いかもしれない…。
「幾らになるかしら…欲しいな…」
「知り合いの音源屋に頼んでみるよ。ピアノやハープや木琴なんか扱ってて、調律もしてる奴。村の幼馴染みの一人でさ、この街に居るって聞いてるから」
「ホント?…でも買って高いか修理が高いか分からないし…」
どうしてもアップライトピアノが欲しいらしく、そこから離れようとしない。
カシアンはため息をついてアップライトピアノを持って荷車に乗せる。
「ほら、他の奴に取られないように、良い物探さないと」
カシアンが言うとアルシャインは慌てて探した。
まだ磨けば使える燭台や素敵な彫刻の付いた壁掛けランプが幾つもあった。
「どこかのお屋敷を壊したみたいね…あ、これも、それも!」
集めていると、帰りが遅いのを心配したノアセルジオとルベルジュノーとアルベルティーナがやってきた。
「わあ、素敵な彫刻!」とアルベルティーナ。
「ねー!お部屋に一つずつ欲しいわね!」
アルシャインがはしゃいで探し回るので、カシアンは荷物番で他の3人がいいと思う物を探して荷車に置く。
他にもリサイクルを生業なりわいとする人達が拾いに来ているので戦いになっていた。
「お願い譲って!」
「駄目だ!」
アルシャインと同じ物を手にして男が引っ張る。
しかし力の差で負けてしまった。
「ああ!ユニコーン取られた!待っておじさん!」
「お兄さんだ!まだ25だよ!」
「お兄さん!それ買いに行くから!お店の場所教えて!」
そうアルシャインが言うと、お兄さんは紙に住所を書いて渡してくれた。
「あんた金の羊亭のオーナーだろ?…少しは安くしてやるよ」
「ありがとう!」
他のリサイクル仲間もいるので、子供達と奪い合う。
「お願い!」とアルベルティーナ。
「こっちも商売なんだ!悪いなチビ」
おじさんが言って持っていってしまう。
ノアセルジオとルベルジュノーはなんとか素早く取っていた。
リサイクル店の人も引き上げたので、アルシャイン達も館に戻った。

燭台や彫刻付きの壁掛けランプをみんなで磨いて、ミシンは空いている部屋に置いてもう一台も置き、布や糸を置いてミシン部屋にした。
アルシャインがみんなにミシンの使い方を教えている間に、カシアンがピアノを荷車で知り合いの下に運んでいく。

「この辺りの筈だが…あ」
手帳に昔書いた住所を頼りに来ると、立派な楽器店があった。
カシアンはドアを開けて中を見てみる。
「あの…」
「いらっしゃいませー!」
眼鏡を掛けた店主がやってきた。
確かに幼馴染みのヒョロヒョロのもやしっ子だった少年の面影があった。
「あー…本当にベルナルドだ…」
そう言いカシアンは前髪をかき上げる。
すると店主のベルナルドも相手がカシアンだと分かった。
「カシアンか!デカくなって…」
「お前もな!…ピアノなんだが、修理は幾らするかな?」
カシアンが言いながら外に出ると、ベルナルドも外に出てきてアップライトピアノを触ってみる。
「これだと……多分3千Gかな。中古で3千Gのがあるけど」
「修理と中古が同じ値段かよ。すごいな」
「どうする?これを買い取りで、2千5百にしてもいいけど」
「どんな色だ?」
カシアンがアップライトピアノを持ち上げて店内に入ると、ベルナルドが案内した。
「白か黒があるよ。どうする?」
「あー……買い主を連れて来るから、ここに置いといていいか?」
そう聞くとベルナルドは頷く。
カシアンはすぐに外に出て荷車を引いて走って帰った。

帰ってすぐに荷車にお金を持ったアルシャインを乗せて走って楽器店に向かう。
「カシアン、今度馬を買いましょうね!」
「馬も高いですよ!」
言いながら走り、楽器店に行く。

カシアンは汗だくで楽器店に入った。
「ベルナルド!ピアノを見せてくれ!」
「走ってきたのか?あ、いらっしゃいませ」
「こんにちわ。まあ、これね……」
アルシャインは白いアップライトピアノを触る。
いい音だ。
「白にします。2千5百?」
「あ…2千3百でいいよ、お嬢さん」
「ありがとう!」
アルシャインは笑ってお金をプラチナで払った。
「コースターとかの売り上げがあって良かったわ…」
「これからも売らないと」
そう笑ってカシアンが言うとアルシャインは苦笑して頷く。
「そうね、頑張るわ!」
その後、ピアノに合いそうなイスを家具屋で見繕った。
丸い座面に牛革が張ってあって、オシャレな布も掛けてある椅子が2百で売られていた。
「これ素敵ね…」
アルシャインが見ると、ダンヒルが言う。
「…百でいいよ。寄付だ」
「ありがとう!」
思わず祈って、アルシャインは椅子を手に荷車に乗せる。
そしてリサイクル屋に向かった。
「お兄さんいる?飾りはもう出したかしら?」
そう言い中に入ると、ちょうど壁に並べられていた。
「わあ、やっぱり素敵ね!」
そう言い値段を見ていく。
「このユニコーンから鷹まで5つください!」
「はいよってあんたか!……えーと、全部で650だから…5百でいいぜ」
「ありがとう」
アルシャインはお礼を言ってお金を払う。
薄汚れた飾りがピカピカになっていて壊れたランタン部分も直っているから納得出来る値段だ。
5つも壁掛けランプが手に入ったし、アルシャインはご機嫌だった。
「さあ、帰ったらレース編みしまくるぞー!!」
「頑張って」
カシアンが応援すると、アルシャインは首を傾げた。
「カシアンはやってくれないの?」
「…お守りくらいなら手伝うよ」
そう言いカシアンは苦笑した。
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