金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter17 作り直し

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 アルシャインはまず耐水の布を買ってからカシアンを見る。
「ねえ、宿屋ってどんな布団かしら?」
「大抵板だよ。綿布団なんて珍しいね。板のベッドで20Gは取るな」
「そんなに?!」
「綿布団なら40は取るだろ」
「…じゃあ家具は?」
「家具はテーブルと椅子とサイドテーブル…良くてクローゼットや…じゅうたんが敷いてあるな」
「じゅうたん…」
アルシャインが考え込むとカシアンが苦笑する。
「一流の宿屋でも目指す気かい?」
「そうじゃないけど…あの子達が話し合ってたように、家具は作り変えないと駄目ね。あとペンキも欲しいな~…青の部屋とか緑の部屋とか分けたら楽しそう!」
そう笑って言うと、カシアンも微笑む。
「いいと思うけど…ならさ、鹿の皮や角ウサギの皮をじゅうたんにしたらどうかな?椅子に敷くとか」
カシアンも提案すると、アルシャインはパンと手を打って笑う。
「それいいわね!帰ったら早速やりましょう!」
そう言い帰ろうとするのでカシアンが腕を掴んで引き止めた。
「待て待て。目的は?」
「あ…そうね……どこがいいのかしら?」
「そうだな…あそこにしよう」
そう言いカシアンは高そうなレストランに入っていく。
「カシアン!こんなお店に…」
「いらっしゃいませ」
ベスト姿の店員が来て案内してくれる。
割と普通の人達が多かったのでアルシャインは安心してテーブルの上のメニューを見る。
「ね、カシアン…」
「何か食べたいのは?」
「カシアンったら!」
小声で言うとカシアンが顔を近付けて言う。
「アイシャ、みんなにジロジロ見られるから。何か食べたいのは?」
「そ…えと……ラビオリとミートパテ…」
「じゃあそれと適当に頼むよ」
そう言ってカシアンはボーイを呼んで色々と注文した。

ラビオリはミートソースやホワイトソースをパスタ生地の中に挟んだ物だ。
ミートパテは野菜が中にあった。
「……うん、うん…」
アルシャインが頷きながら食べている。
カシアンはステーキを口に詰め込み、ジャガイモを頬張る。
「まあ美味いな」
「うん」
「これも食べなよ」
そう言いカシアンがステーキや鯛のソテーを一切れずつアルシャインの皿に乗せる。
エビのカナッペも一つ乗せた。
「スープもあるよ」
「そんなに食べきれないわ…」
そう言いながら食べて考え込む。
〈…どうしよう…自分で作った方が美味しい……〉
そう思いながらもミルフィーユを2人で食べて店を出た。
「あれで850Gなのね…」
「はー…まあまあのモンだけど、腹には溜まったかな?」
そう言ってからカシアンはアルシャインの顔を覗き込んで言う。
「ね、街でもこんなモンなんだから、自信持ちなよ」
「あ、ありがとう…」
アルシャインは真っ赤になりながら口に手を添える。
「値段は上げるわ、うん。…でも布団はふかふかにしたいわ…」
「…お屋敷みたいに?」
「…そうね、出来れば…どんな綿がいいのかしら…」
「ミュージの毛もいいと思うな。混ぜるのもいいと思うな…俺は少し硬い方が寝やすいし」
「そうなの…じゃあ、ミュージの安い毛を買って帰りましょ!」
「…荷車買いませんか?」
「…そうね」
アルシャインはまず荷車を見る事にした。
棒をはめると手で押せるタイプの荷車を買った。
馬やラバなども装着出来る物だ。
それからミュージの混合色の安い毛を大量に買う。
「こんなに?」
カシアンが聞くとアルシャインは笑って言う。
「だって半分は硬めの布団にするんだもの。それに、綿もへたってきたから……こつを綿屋のザックさんに聞いたら、ただ詰めるより平べったく伸ばして何重にもするのがいいそうなの」
「それなら、何日か宿屋を休みにして、布団と家具を作り直したらどうかな?」
「いいわね!…もう少し綿とミュージの毛を買うわ!」
そう言ってまた綿屋に行くので、カシアンが荷車を押してついていった。
綿と毛とペンキを買って帰ると、もう子供達は家具を作っていた。
「これで色も塗れるわよ!」
そう言って屋根の下にペンキを置く。
「お客さんは入ってる?」
「2人いるよ」とクリストフ。
「そう…あとの人は断ってね。家具と布団を作り変えるわよ!」
「おー!」
みんなが手を上げて言う。
開いてる部屋で綿を薄く伸ばして重ねる作業をアルベルティーナとレオリアムがやる。
同じようにミュージの毛も薄く伸ばして重ねる作業をマリアンナとリナメイシーがやる。
ルベルジュノーとノアセルジオが家具を作っているので、カシアンが弓矢を手にする。
「んじゃ、じゅうたんに良さげなの狩ってくるから…アイシャはみんなと値段を見直す事!」
「…ええ……」
アルシャインはメニューの木を表に出して綺麗に拭く。
するとティナジゼルとクリストフが黒板を持ってきた。
「まあ!どこにあったの?」
「廃材置き場にあったよ。チョークもあった」
そうルベルジュノーが言う。
「それなら、黒板の周りに板を張り付けてみましょうか!」
そう言ってアルシャインは小さな木を黒板の周りを囲うように釘で付けていく。
「細長い板を持ってきてね」
「分かった!」
答えてティナジゼルとクリストフが余った木を持ってくる。
作るついでにアルシャインは言葉遊びを歌う。
「風が吹いたら何が出る~?」
「お陽さま~!」とティナジゼル。
「お陽さまポカポカ気持ちいい~!みんながお家から出てきたよ~」
「こんにちわ!」とクリストフ。
「はい、こんにちわ!みんなで楽しくかけっこだ!」
「ほらほら走れ、走らない子は食べちゃうぞ~」とルベルジュノー。
「ジュドー、それじゃ鬼ごっこよ!」
そうアルシャインが言い、みんなで笑う。

2時間後には、カシアンが荷車に赤鹿を4頭乗せて帰ってきた。
「こんなに…」
「大丈夫、皮を剥いだら肉は3頭売ればいいさ」
カシアンが言って、そのまま裏庭に行った。
値段は、郊外という理由で5Gずつあげた。
宿泊は15Gにした。
黒板はカウンターの横に置いた。
一泊15G
パン一つ5G
日替わりスープ一杯5G
コーヒー一杯4G
紅茶一杯4G
角ウサギのステーキ10G
日替わりパスタ8G
ソーセージ2個8G
アップルパイ5G
ベリーパイ5G
パウンドケーキ5G
ミートパイ6G
ラザニア10G
ラビオリ7G
パンケーキ(レタスとチーズとクリーム)10G
パンケーキ(ベーコン追加)15G
スコーン5G
キャンディ5個8G
ミルク、紅茶、コーヒー、ベリー入り、ハーブ、レモン、ジンジャーリンゴ、
お守り匂い袋6G
…そう書いた。
一枚では収まらなかったので、明日大きな黒板を買ってきて壁に設置して書く事にした。

夜はラビオリも作ってホワイトソースを掛けたら旅人に好評だった。
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