金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

文字の大きさ
上 下
13 / 123
第一章 始まりの館

Chapter11 ひと月

しおりを挟む
 あれから一ヶ月が過ぎた。
ベッドとサイドテーブル、テーブルと椅子そしてクローゼットは各部屋に設置されて、みんなが一部屋ずつに暮らせるようになった。
クッションやぬいぐるみなども置かれた。
ダイニングのテーブルと椅子のセットも4組に増えて、カウンター席も作った。
もう立派な宿屋だ。


 朝は起きたら交代で水やりと雑草取りと動物の世話をする。
手を綺麗にしてからジャガイモの皮むきかミュージの乳搾りをして、お客さんと一緒に朝ご飯を食べる。
 お客さんが旅立ったら、掃除をする。
 少し前くらいから、街の方からランチを食べに来る人が現れ出したので、そういうお客さんには食事だけ提供した。
常連は綿売りのおじさんと野菜売りの夫婦だ。
「今日のスープはシチューか!ミュージのミルクは美味いね!」
綿売りのおじさんが言い、アルベルティーナが笑って言う。
「アイシャママ特製シチューよ!」
「パンはいかが?1Gよ」とマリアンナが売り込む。
「アップルパイもいかが?2Gよ」
リナメイシーがティナジゼルと共に売り込む。
「もちろんもらうよ!」
おじさんと夫婦は毎日そうして買ってくれる。
そこに、表の看板を見た旅人が入ってきた。
「部屋はあるかい?」
「ええ、ありますよ」
アルシャインがコーヒーを淹れながら言うと、フワリといい香りが立ち込める。
「…その前に、コーヒーは幾ら?」
旅人が思わずカウンターに座って聞く。
「コーヒーは一杯2Gです」
「安いな!街だと5Gはするのに…」
「コーヒーが安く仕入れられるから、安く提供出来るんですよ」
そう言いアルシャインがコーヒーを出す。
旅人はコーヒーを飲みながらキョロっと店内を見回してメニューを見つける。
一泊5G
パン一つ1G
日替わりスープ一杯1G
コーヒー一杯2G
紅茶一杯2G
角ウサギのステーキ5G
日替わりパスタ2G
ソーセージ2個4G。
アップルパイ2G
ミートパイ3G
「…どれも安いな…これで成り立つのかい?」
思わず旅人が聞いた。
「そう思ったら、チップを弾めばいいのさ」
野菜売りのおじさんが言い、代金を置いて妻と出ていく。
「ありがとうございましたー!」
元気よくみんなが言った。
「なる程、ここは活気が溢れてるな」
外を見れば、花が咲いていて道が整っている。
旅人は部屋を案内して貰ってから外を散歩して、ガゼボらしき場所のベンチに座ってゆったりとした時間を過ごす。
アルシャインは庭で眠っている3人の旅人達を見つめて言う。
「リーナ、ナージィ、お勉強の後で庭で寝てる人を起こしてあげてね」
「はーい!」
とリナメイシーとティナジゼルが答えてクリストフ、マリアンナと共に木の単語表で勉強をした。
その間にアルシャインは新しいミートパイを焼いておく。
今日は夜に5人のディナーの予約が入っているのだ。
「ジュドー、リンゴとジャガイモ持ってきて~」
「今夜はカレー?」
そう聞くと、みんなが集まってくる。
「カレー?!」とクリストフ。
「ええカレーよ」
「やったぁ!」
とみんながはしゃいだ。
「あらみんな、お勉強は?いち、にのさんしで何が出る?」
歌遊びをすると、マリアンナが答える。
「鳥とバナナ!」
「バナナなの!それは美味しそうね!」
〝何が出る〟と聞いたら生き物と食べ物を答える遊びで、アルシャインが考えた物だ。
「はい、いちにのさんしで何が出る?」
「カメとリンゴ!」とクリストフ。
「ふふ、カメさんはリンゴ好きかしら」
アルシャインが笑っていると、街から来た布屋の店員さんが2人入ってくる。
「いらっしゃいませー!」
みんなで言って、カウンターに集まった。
「ミートパイとコーヒーを」と男性。
「パスタとアップルパイと紅茶でお願い」と女性。
2人はたまに来て、布の話をしながらランチを食べに来る。
クリストフがミートパイを運んで、マリアンナがアップルパイを運んだ。
今日のパスタはミートパスタだ。
アルシャインが作っている間に、ティナジゼルとリナメイシーが外で雑草取りをしていたアルベルティーナと共にお客さんを起こしに行く。
「お客さん、風邪引くよ?」
ティナジゼルがゆさゆさと体を揺すると、旅人は目を覚まして震える。
「おお、ありがとう。体が冷えたな…」
そう言い中に入ってコーヒーを頼んだ。
他の2人もコーヒーや紅茶を頼む。
すると狩りから帰ってきたノアセルジオがコーヒーを淹れて、りんごを取ってきたレオリアムが紅茶を淹れる。
 みんなすっかりこの暮らしに馴染んでいた。

 ディナーは賑やかで大忙しだった。
みんながカレーを注文すると分かっていたので、大鍋で煮ていたので良かった。
ノアセルジオとルベルジュノーとアルベルティーナとマリアンナとレオリアムが配膳などを手伝い、食材も切る。
リナメイシーとティナジゼルとクリストフは先に夕飯を済ませて、終わった順にアルシャインが作った〝お守り匂い袋〟をお土産として売り込む。
「お守り一つ3Gですよ、いかがですか?」
毎日手作りなので色も形も違うが、持っているとお守りになると評判ですぐに売り切れた。
お客さんも帰り、旅人達も部屋に入った後で、ルベルジュノーが水を飲みながら言う。
「アイシャ…まずい気がする」
「ん?」
「あのお守りさ…持って狩りに行った時に、怪我したんだけど…後で見たら治ってたんだよ」
と耳打ちした。
「…あら~…」
「あらーじゃないよ…どうする?」
ルベルジュノーは真剣だ。
もしも神聖力が戻ったら、アルシャインは連れて行かれてしまうのだから。
そこにノアセルジオもやってきた。
「アイシャ、国は移れない?」
「そうね…」
5メートル程先はもう隣国なのだ。
果樹園と廃材置き場は隣国なのだから。
しかし、館がない…。
「すぐ側に移れたらいいわねー…」
そう言ってため息をついた。
それを穀物倉で聞いていたカシアンが、何かを決意してヒョイと顔を出す。
「アイシャ」
「きゃあビックリした…何?」
「俺、一度家に行ってくるから」
「あ、そう?気を付けてね…あ!帰りにトマトとトウモロコシを買ってきてね」
アルシャインが笑って言うので、カシアンも笑って頷いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】 早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

処理中です...