金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter10 冒険者一行

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  翌日は晴天だった。
アルシャインは綿の布団を3組作った。
もう綿が無くなってしまう。
〈まだお金に余裕があるわ…今日買いましょう〉
客室予定はあと5部屋もある。
ダイニングの隣りはキッチンで、その奥は穀物倉だ。
2階も全部で12部屋あるが、そこは子供達に使わせたいのだ。
また廃材を見に行こうと思うと、外でガラガラと音がする。
出てみると、カシアンが廃材を運び入れていた。
「どうしたの、これ…」
「さっき廃材置き場から取って来たんですよ。足りなそうだし…ダイニングのテーブルと椅子も居るし……子供達のベッドも足りないし。あとワラも貰ってきましたよ」
そう言い荷馬車からワラを運んで2階の倉庫に運んだ。
アルシャインも運ぶ。

 今日も卵は2つ…。
どうするか迷ったけれど、ベーコンとスクランブルエッグにして分けて、パンにはチーズを添えた。
すると4人は満足してくれた。
「また来たら必ず寄るよ」
そう言い、ジョージさん達一行は旅立った。

 子供達にも、チーズをパンに塗って出してあげた。
「んま」「うまい」
とルベルジュノーとクリストフが言いパクパクと食べる。
「美味しいね」
アルベルティーナ達もゆっくりと味わっていた。
〈食べ盛りの子供達に、いっぱい食べさせてあげたいけど…〉
今後を考えたらお金は使えない。
一番辛いのは、多分カシアンだろう。

そう思ったので、食後にアルシャインが突然言う。
「あなたは家に帰りなさい!」
「ーーーへ?」
カシアンは金づちを持ったまま止まる。
ルベルジュノーがカシアンから金づちを取り上げてベッド作りを続行した。
「アイシャお嬢様…なんて?」
「だから、クビよ!今すぐ屋敷に戻りなさい!」
「理由は?」
「りゆ…そ、そんなの…あなたが大きいから、養えないの!スープと少しの具で痩せ細るわよ!」
そう聞いてカシアンは、アルシャインが自分の体を心配してくれているのが分かったのでホッとする。
「じゃあ………デカい角ウサギを取ったら、ステーキにしてくれますか?」
「デカいってどのくらいの予定…?」
「イノシシくらいの!」
「取れる訳ないじゃないの!」
アルシャインが呆れて言ったので、カシアンはムッとして立ち上がる。
「すぐに狩ってきますからね!ノアセルジオ、ルベルジュノー、見学に来い!」
そう言って歩いていくので、ノアセルジオとルベルジュノーが慌ててついて行った。
「もー…なんでムキになったのかしら」
アルシャインが言いながらベッドなどを作るのを手伝った。

 2時間後。
カシアンがイノシシ程の角ウサギを背負ってやってきた。
ノアセルジオとルベルジュノーも大きな角ウサギを持ってきている。
「どうやって……」
アルシャインが驚いていると、カシアンが得意げに言う。
「これでも騎士ですからね!角ウサギぐらい狩れますよ」
そう言って中に運び込んで、裏庭で捌き出した。
その手付きは手慣れている…。
「…シェフとして雇ってあげる!」
アルシャインが突然言う。
「……さっきの言葉を謝ってくれたら考えますよ」
カシアンが言う。
〝狩れる訳が無い〟と言った事だ。
するとアルシャインはすぐに頭を下げた。
「ごめんなさい!…騎士ってすごいのね…頼りになるわ」
アルシャインが微笑んで言うので、カシアンは顔を赤らめながら捌いていく。
「じゃあ、夕飯はステーキね!ご馳走だわ…お客さん来るかしら…あ!綿を買わないと!」
今思い出して慌てて用意をすると、ノアセルジオが手を出す。
「一緒に行く。言葉も覚えて、アイシャの役に立ちたい」
「ノア…」
「僕も!」とレオリアム。
「あたしも!」とマリアンナ。
「嬉しいけど、サイドテーブルやダイニングのテーブル作りもあるから…じゃあ、ノアとレアムだけ行きましょう。2人にはいつかおつかいに出て貰いたいから!」
そう言ってアルシャインはノアセルジオとレオリアムを連れて買い物に出た。
荷馬車を借りてから小麦粉を2袋分買い、綿を袋に圧縮して乗せていく。
「たくさん買うけど、何を作ってるんだい?」
綿売りのおじさんが聞くとアルシャインが笑顔で答える。
「宿の布団に使うんですよ!買うと倍以上の値段だから!」
「そうだな!」
おじさんが笑って言い、綿袋を一つオマケしてくれた。
荷馬車に乗せた袋を押さえながら歩こうとすると、冒険者風の女性が寄ってくる。
「あの、宿屋なんですか?」
「はい!ちょっと歩くけど…」
アルシャインが頬をかきながら笑うと、女性はパアッと笑顔になる。
「泊めてもらえませんか?もう部屋が無くて…あの、パーティーだから5人なんですけど……」
「大丈夫です!一泊4Gですけど…」
「わ、安い!みんな!宿が見付かったよ!」
そう言うと、ワラワラと人が集まった。
そして、荷馬車の綿が落ちないように押さえるのを手伝ってくれる。
さっきの女性は僧侶、女剣士に盾防御タンクの男性、魔法使いと…耳の長い水色の髪のエルフの男性。
やたらとイケメンなエルフだ。
〈ダメ…イケメン過ぎてとても見れないわ…〉
アルシャインは思いながらも歩く。

 家に付くと、みんなが畑と花壇に水やりをしていた。
「ただいまー、お客さんよ!みんな、客室の掃除はしてある?」
そう聞くとマリアンナとクリストフとアルベルティーナが笑顔で言う。
「掃除したよ!窓もピカピカ!」とマリアンナ。
「さあ、お客さんを案内して」
そう言うと、クリストフとアルベルティーナとマリアンナとリナメイシーとレオリアムが一人ずつ案内していく。
その間にアルシャインはノアセルジオと共に綿や小麦粉を運び入れた。
客室はもう6部屋も揃っていた。
少しいびつな家具なども味がある。
一年後にはもっと上手くなっているだろう…。

その日からまたメニューにステーキが追加された。
相場を聞いたら5Gだったので、そう書いた。
付け合せはジャガイモ一つとニンジン少しだ。

冒険者達がワイワイと話す隣りでの夕飯となった。
「今日はご馳走よ!」
アルシャインが言ってステーキをみんなに出す。
今日はスープとステーキとパンだ。
「美味しい!」とアルベルティーナ。
「チーズも作ってあるからね」
アルシャインがみんなの面倒を見ていたので、女剣士が呟く。
「…故郷の母さん、元気かな…」
「ウチのお母さんもどうしてるかな…」
どうやら母親を思い出したようだ。
その日の夜は、冒険者達の冒険譚を聞いてから眠った。
 アルシャインは自分が女剣士になって角ウサギと戦っている夢を見た。
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