金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter08 新たな仲間

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  翌日は晴天だった。
朝にクッションを10個程作ってから庭の敷石を探しに出ると、こそこそとついてくる人影があった。
〈…ジュドー達かしら?〉
気にせずに、近くの廃材置き場から平たい石を5つ見つけた帰りにもう一つ見つけた。
「やだ意外と重い…」
重いし持ちづらい…。苦戦していると、男の子が来てしゃがんで言う。
「持とうか?」
「え…君は?」
「持ったらお金くれる?」
そう聞いてくる。
すぐに戦争孤児だと分かった。
アルシャインは石を置いて聞く。
「あのね、持ってもお金はあげられない。あげられないけど…寝る所はあげられるわ」
「え?」
「毎日掃除とか水やりとか動物の世話をして、お客様をもてなすの。そんな仕事が体験出来て、今なら食事と寝る所が付いてくるけど…どうかしら?」
そう尋ねると、木の陰から女の子が出てきた。
「本当?寝るトコくれるの?」
「正確には、〝みんなで〟暮らすのよ。だから寝る場所も狭くなるけど…」
言い掛けると女の子が石を一つ持った。
「みんなと暮らすのいい…」
そう言う女の子の服はボロボロだった。
「じゃあ、石を一つずつ持って!わよ!」
笑って言い、アルシャインは石を持って歩いた。
歩きながら2人の名前と年を聞いた。
平たい石を更に見つけ出して運んでくれているのはクリストフ7歳。
女の子はリナメイシー11歳。
住んでいた場所が隣りの家同士だったらしい。
2人共、村に母親といて、魔族に襲われたのだと言う。
逃げろと言われて子供達は逃げたと…。
魔族は、隣国から現れたらしい。
この辺は国境なので警備も薄い。
魔族かもしれないし、人間だった可能性もある。
どちらにしても、家と母親を失った事に変わりはない。

館に戻ると、みんなが起きて畑や花の水やりや掃除をしていた。
「ほら増えた」とカシアン。
「アイシャママ、誰?」
アルベルティーナとマリアンナが寄ってきて聞く。
「クリストフとリナメイシーよ。愛称は…リフとリーナでどうかしら?」
2人を見て聞くと、2人は照れたように頷く。
「じゃあその石を、門から玄関まで並べるからそこに置いて。一つずつ置いてね!」
アルシャインが言うと、みんなが一つずつ平らな石を手にして玄関から順に置いていく。
その作業の中で、自己紹介をしていた。
「あたしマリアンナ、12歳よ。アンヌって呼んで」とマリアンナ。
「俺はルベルジュノー、11歳。ジュドーでいいよ」とルベルジュノー。
「僕レオリアム…13歳。レアムって呼ばれてる。ティーナと双子なんだ」とレオリアム。
「俺ノアセルジオ、18…ノアでいい」とノアセルジオ。
するとアルシャインが驚いて聞く。
「ノアって18だったの?!」
「うん」
「ヤダ、私と同じ年じゃないの!痩せてて小さいからもっと年下かと思ったわ…これからはみんなにたくさん食べさせてあげられるように、宿屋をやっていきましょうね!」
そう言うと、みんなは
「おー!」と手を上げた。
クリストフとリナメイシーもつられて上げた。

昨日の男性がスープとパンと目玉焼きとベーコンを食べて旅立ったので、ルベルジュノーとカシアンとノアセルジオに客室の掃除と整頓をしてもらって、その間にみんなで一つずつジャガイモの皮むきをした。
幸か不幸か、ナイフはたくさん台所にあったのだ。
掃除の時にナイフを見つけて磨いておいたのだ。
他にも鍋やフライパンなど必要な物が揃っている。
〈パスタレードルもあったから、今日はパスタも作ろうかな…〉
考えている時に、アルベルティーナが指を怪我する。
「いたっ!」
「大丈夫?!」
アルシャインが慌ててアルベルティーナの手を持つと、フワッと優しい光が手を包んで傷が癒えた。
「…え?」
「わあ、アイシャママすごい!」とマリアンナ。
「聖女さまみたいだ!」とレオリアム。
そこにカシアンとノアセルジオとルベルジュノーがやってくる。
「なんの騒ぎ?」
ルベルジュノーが聞くと、アルベルティーナが言う。
「今ね、ティーナが怪我したら、アイシャママがフワーって治してくれたの!」
「え、神聖力が枯渇したって…」
とカシアンが驚く。
アルシャインも首を傾げて戸惑っていた。
「枯渇したら治らない筈なんだけどねー…まあいいわ。みんな、今のはナイショよ?しーっ!」
アルシャインが口に人差し指を置いて言うと、レオリアムが首を傾げた。
「なんで?僕アイシャの自慢したいよ?」
「駄目なの…もしも〝治せる〟なんて事が国に広がってしまったら、私は神官に連れて行かれてしまうの。もう宿屋は出来ないし、みんなもここにいられなくなるの」
「ヤダ!」とマリアンナとアルベルティーナ。
「言わない!」とノアセルジオ。
「どこにも行っちゃやだ!」とレオリアム。
そう言ってみんなが泣いてしまうので、アルシャインとカシアンが慰める。
「大丈夫、誰にも言わなければ、ずっとここにいられるわ!」
「ほんと?」とマリアンナ。
「ええ、本当」
アルシャインが微笑んで言い、みんなの頭を撫ででから椅子に戻る。
「さ、ジャガイモを慎重に剥きましょう!指は出さないでね」
「はーい!」
みんなが答えた。
 朝はジャガイモのスープとほんの少しのミルクと、目玉焼きが一つ。
固く焼いた目玉焼きを、アルシャインが小さく8個に分けた。
「はい、一つずつね」
みんながフォークで取っていくと、一つ余る。
「アイシャママ食べないの?」とアルベルティーナが聞く。
「一つはね…そこの窓から覗いてる君よ!」
アルシャインがビシッと指を差すと、窓から女の子がじーっと見ていた。
女の子がビクッとして逃げようとするので、カシアンがすぐに掴んで中に引っ張り上げた。
「ごめんなさい!」
女の子が謝るので、アルシャインがスプーンで目玉焼きを一人分すくって、その口に入れる。
「どう?美味しい?」
アルシャインが聞く。
みんなもまだ食べていないのでじーっと見た。
「おいちぃ…ママの味だ…」
そう言って泣いた。
「そう、良かった。ほら、まずは食べましょう」
アルシャインが女の子を抱っこして膝に乗せて自分の分を食べさせてあげる。
するとクリストフとリナメイシーが自分の目玉焼きをアルシャインに差し出した。
「これ食べて!」とクリストフ。
「…それはね……」
アルシャインは器用に片手でそのフォークを手にしてクリストフに食べさせて、次いでリナメイシーのフォークも手にして食べさせた。
「どう?」
アルシャインが微笑んで聞くと、2人はにこ~っと笑顔になる。
「ほら、席について?まだ食べてる途中よ」
そう2人に言い、みんなを見る。
みんなも玉子を食べてとける感覚を噛み締めた。

食後に、その子の名前を聞いた。
「ナージィ、6つ……えと、ティナジゼルって、ママが付けてくれたの」
「そう、私はアルシャイン、アイシャでいいわ」
「アイシャ…ママ?」
そう呼ばれていたので聞いてみた。
するとアルシャインはにっこり笑う。
「ええ、そうよ。みんなのママなの」
その後で、みんなで自己紹介し合った。
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