金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter05 浄化のやり方

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 翌日は曇っていた。
アルシャインは朝から綿入りの掛け布団と綿入りの敷き布団を作っていた。
食事の後で掃除をして、カシアンとノアセルジオとルベルジュノーがサイドテーブルを作り、マリアンナとアルベルティーナとレオリアムが洗濯をする。
「出来たわ!」
昼過ぎに、綿の布団がやっと3組出来た。
アルシャインは客室と自分達のベッドにそれぞれ置いてカバンを手にして外に出る。
「それじゃ村人に聞いてくるわね!」
「待て待て、一緒に行くから」
カシアンが金づちを置いて立ち上がる。
「だって、カシアンには作ってて貰わないと」
「………」
カシアンはとっとと歩いていくアルシャインを見て、ルベルジュノーとノアセルジオに言う。
「アイシャお嬢様が心配だから俺はついていく…帰るまでに作れるな?」
そう聞くとルベルジュノーとノアセルジオは頷いた。
「俺作れるよ」
とルベルジュノーが笑って言う。
「俺も」
とノアセルジオも頷いたので、カシアンは慌てて後を追った。

「…そうですか」
追っていくとアルシャインはもう村人と話していた。
「では村長に許可を得てきますね!」
そう言いアルシャインは歩いていく。
カシアンは慌ててついていった。
「どうしたの、カシアン」
「だって、あんた目を離すと危なっかしいから…」
「失礼ね、これでも世渡り上手って言われてるのよ。あとね、何かあっても手出ししないでね?」
そう言いながらアルシャインは歩いていき、村長の家の扉をノックする。
「村長さんはいらっしゃいますかー?」
「何用だ」
強面こわもてのゴロツキ風の男が出てきた。
「サンテローズです。村長さんに会えますか?」
「村外れのお嬢さんか…」
チッと舌打ちして男は村長を呼びに行く。
村長に合うと、アルシャインは金貨袋を置いた。
そしてポケットに忍ばせた録音装置の水晶をオンにする。
「あそこに食事処兼宿屋を建てたいので、まずはこれを納めにきました」
村長は金貨袋を手に取って中を見て満足そうに頷く。
「そうかそうか、礼儀がなっている娘はいいな。好きにすると良い」
「それと、目の前に果樹園だった所がありますが、そちらも手入れして使って宜しいですか?その分の代金も含めてありますが…」
「ふむ、あの〝瘴気潰れ〟の土地か。好きにしろ」
「ありがとうございます」
言質げんちは取ったので、一礼して去ろうとすると、村長が尻を撫でてくる。
「いい尻だな、どうだ、これから共に飲まないか?」
「!」
カシアンが何かを言おうとすると、アルシャインがそれを目で制してから、ニコリとしてアルシャインが村長に言う。
「お戯れを。村長程の方なら、私のような小娘よりもお色気たっぷりなお姉様方が待っていらっしゃるから大変でしょう?」
「ハッハッハ、分かっているではないか…行っていいぞ」
「では失礼します」
アルシャインはお辞儀をして、記録装置をオフにした。


村長の家から離れると、カシアンが言う。
「なんで黙って見てなきゃならないんだよ」
「…あのね、カシアン」
アルシャインはクルッと振り向いて真顔で言う。
「聖女ってていの良いはけ口なのよ」
「なっ…何言って…」
「処女であればいいだけだもの。口でさせる事もあるし、なんなら入れなきゃいいってだけでその行為をされた子もいるわ。聖女でなくても、女はみんなそんな扱いよねー…」
「……そんな事、誰も…」
「誰も知らないわ。言えないもの…聖女なのに穢らわしい事をされてる、なんて」
「…神殿は…」
「神殿が、金目当てで斡旋してるの。一晩で買われる娼婦と同じよ。だから、今の聖女達はみんな苦労してるわ…神に祈りを捧げながら、救いはなく、神は罰しか与えてこないもの。あとね、女の子を買うのは貴族と商人よ」
そう言うと、カシアンは言葉を失った。
〝アイシャは…?〟そう聞きたくても、怖くて聞けなかった。
「…ちなみに、私は~…今みたくかわしたり、娼婦のお姉様達の妬みを買わないように裏で打ち合わせして代わって貰ってたわ。だからそんな心配そうな顔をしないで?」
そう言ってアルシャインはカシアンの頬を撫でる。
するとカシアンはボッと顔を赤らめて離れる。
「し、心配してませんよ……」
心の中では安堵しながら、カシアンはドキドキと高鳴る胸を押さえた。


 帰ってから、サイドテーブルを設置して、みんなで果樹園を見に行った。
確かに瘴気で駄目になっている木が多かった。
「枯渇しなかったら、直せるのになー…」
そう言いながらアルシャインは麻袋を持って枯れ葉を集めた。
「みんなも葉っぱをこの中に集めて!」
「はーい」
みんなも茶色や黒い葉を集めて麻袋に入れた。
するとアルシャインは祈りながら持ってきていた聖水を掛ける。
麻袋からシュワァ…という音がして、黒いモヤが出た。
麻袋を開けると、黄色やオレンジのただの枯れ葉となっている。
「よし、この枯れ葉を土に混ぜましょう。浄化する人がいない時は、こうして土の浄化をするの。そうするとね、一週間くらいで土が元に戻って、木も草も回復するのよ!」
「へー、アイシャママすごい!」
アルベルティーナがそう言ってアルシャインに抱き着いた。
するとマリアンナも抱き着く。
「ほら、シャベルとスコップで木の周りの土を掘って!そこに葉っぱを敷いてからまた土をかぶせるわよ」
そう言いスコップを手にすると、アルシャインが木の周りの土を掘って手本を見せる。
木の周りを丸く掘ってからそこに浄化した葉っぱと聖水を一滴入れた水をたっぷり入れて土をかぶせた。
「さ、他の木もこうやるのよ!」
「はい!」
みんなが答えて土を掘った。

夜は鹿肉のスープを食べてから、鹿の皮をなめした。
「ふかふかであったかーい!」
マリアンナとアルベルティーナが綿の布団に寝て喜ぶ。
「明日はお客さんを呼び込まないといけないから、忙しくなるわよ。裏庭に馬小屋とニワトリ小屋と牛小屋も建てたいわね!」
「やるの多いね」
マリアンナが言う。
「まだまだよー…道を作って石を敷き詰めて、お庭にお花も植えて…綺麗なガーデンにして…」
言いながらアルシャインは疲れて眠ってしまった。
マリアンナとアルベルティーナはアルシャインに抱き着いて寝た。
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