金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

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第一章 始まりの館

Chapter01 追放

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 私は、聖女だった。
しかしもう二度と聖女になどなりたくない。
 ノブリス・オブリージュを全うしろと大神官に言われて、神聖力を放出する毎日。

「聖女様、どうかお願いします」
「聖女様、助けて下さい」
「聖女様!!」

毎日毎日、怪我を治し病を治し瘴気を消し、神に祈り大地を浄化する日々ーーー。

朝起きて神に祈り、全裸で冷たい泉に浸かって体を清め、神殿で神に祈る。
ホーリーシンボルを握り締めて神像の前で祈る。
 …何故か?
神託を聞く為に。
この祈りでも、ハイポーション5本使う程、力を失う。
なのに、たまにしか声は聞こえない。
 昼には神殿に置いてある浄化石の浄化。
大きな浄化石が一つと、部屋の角に一つずつある。何百個も。
速攻で浄化して、ひたすら大地の浄化を二時間行う。
ハイポーション8本はイケるかな?
そして神殿を訪れる人々の治療。
夜の九時まで。
もうエリクサーが欲しくなる。

「部屋に戻るのが九時半、パンとスープを頂き、一日の終わりを感謝して眠ります。これが聖女というお仕事なのですが…何か質問はありますか?」
私は笑顔で聞いた。
しんと静まり返る教室…。
聖エリアンナ女学院の教室で、私は講師をしていた。
ここにいるのは12歳~16歳の若い聖女見習い達。
光属性や神聖力のある娘たちが集められる場所。

一般的に聖女というのは、崇められて癒やしているだけだと思われているようで、一瞬にして彼女達の表情が強張った。
〈だよね~、こんな激務だなんて思わないよね~〉
でも、それだけじゃないんだよ?
私は咳払いをしてから、続ける。
「今の日程は月の日、火の日、風の日の事です。炎の日と大地の日、水の日には魔獣討伐に付いていき、手当てをする者や、各地に出張します。たまに魔獣とも戦う事がありますが、これは高位の聖女がやる事です。星の日は、一日お休みですが、寝ていたり遊んでいると、天罰が下ります」
「ど、どんな罰でしょうか…?」
おずおずと一人の生徒が尋ねる。
「私の場合は、寝ていたらいきなり空中に放り投げられました。下が湖で助かったわ~」
ケラケラと笑って答えた。

授業の後、院長に呼び出されて叱られた。
「アルシャイン=サンテローズ!あんな事を言って、生徒たちが聖女にならないと言い出したらどうするんだ!」
「私は事実を…」
「もう来なくていい!」

…追い出されてしまった。
これで何回目だろうか…。
〈…だって、聖女に憧れてたのに実態があんなだなんて詐欺だよ…〉
私だって、最初から聖女という職業が嫌いだった訳では無い。
小さい頃から憧れて、頑張ってなったのにこき使われて…挙げ句、捨てられたのだ。
神聖力が枯渇して。
だから、元聖女の講師として事実をみんなに広めようと活動している。

ただ、私の本職は別にある。
「ただいま~」
「お帰りなさい、マスター」
扉を開けると、若くて可愛い女の子達とイケメンが出迎えてくれるここ、〝金の羊亭〟のマスターなのだ!
何故そうなったかと言うと…

話は追放時に遡る。

「国外追放だ!今すぐ出て行け!」
眼の前の皇帝陛下が怒鳴る。
「陛下お待ちを!それでは我が娘が余りに哀れ…」
「黙れ! 神聖力が枯渇するなど前代未聞の事態だ! 他国に知られる前に出ていけ、この偽聖女め!!」
そう、酷く罵倒されて国を追い出されたのだ。
 それでも父は優しかった。
別荘のある隣国近くの街に、ボロ館を買ってくれた。
「せめてここでひっそりと暮らしていなさい…」
そう言い、二千万程の資金と護衛を一人くれた。
紺色っぽい髪の毛をボサボサと鼻まで伸ばしてる護衛。
見るからに仕事の出来なさそうな護衛だ。
ていの良い厄介払いだろう。
アルシャインは思い切り息を吸い込んだ。
「やったーーーー!自由だーーー!!」
そう叫ぶと護衛がビクッとしてアルシャインを見る。
「あの…?」
「はああ~!13の時から5年も良く耐えたわ自分!そして地獄からの開放!!頑張ったぞ自分!」
そうアルシャインが自分を褒め称えていると、護衛が思わず前髪を上げて見ていた。
その護衛と目が合い、アルシャインは驚きの余り目を丸くして止まる。
「何そのイケメンな顔ーーー!」
叫ぶと護衛はビクッとして後ずさる。
「なによ、怖がらないでくれる?傷付いちゃうわ…」
頬を膨らませて言うと、隠れイケメンの彼がクスッと笑った。
「…お嬢様が聖女だったなんて信じられませんね」
「…アイシャでいいわ。ね、君の名前は?」
「カシアン=イシュヴァール、20歳…好きに呼んでいいですよ、アイシャお嬢様」
笑って言うカシアンがイケメン過ぎてアルシャインは固まる。
「やだわー、私ったら男の人に免疫無かったわ…前髪下ろしといてよ」
赤くなって言うと、カシアンも赤くなって前髪を下ろした。
「さて、まずは住めるようになってるか見ないとね…」
アルシャインは少し中を見て回る。
家具がいくつかあり…真ん中はカウンターのような作りで壊れた椅子やテーブルが放置されている。
「もしかして、宿屋だったのかしら?」
「そうですね…酒場兼宿屋でしょうね」
「お店をやるのもいいけど、まずは掃除ね!ほら水を汲んできて!」
アルシャインが張り切って窓を開けて掃き掃除を始めた。
「ほんと、変わったお嬢様だ」
カシアンは苦笑して庭にある井戸に水を汲みに行く。
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