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五章 流浪

二十五.一夜の情事 〜武宮との契り〜 *

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  来た所は、武宮たけみやの集落より少し東にある森。
斧や弓矢が置いてある小屋が幾つか転々とある。
「ここは?」
「集落の者達が怪しまれぬように、木樵や猟をさせる為の小屋です。取った木材や獲物などは市に持って行かせたり、城下町で売っています」
そう言って武宮は一つの小屋に入る。
〈…そういえば、父さん達もそんな事をしていたな……〉
思い出しながら中に入り囲炉裏の側に座ると、翔隆は大きく溜め息を吐く。
それを横目に、武宮は炉に鍋を掛けて、野菜と餅を入れて煮る。
そして奥から酒を持って来て、盃を用意した。
「…ありがとう」
「い、いえ…」
礼を言い、翔隆は黙って酒を煽る。
クツクツと野菜の煮える音と、風の音だけが響いた。
…二人きりで居るのは初めてだ……武宮はドキドキと高鳴る己の鼓動の音を恥ずかしく思いながら、鍋の中を掻き混ぜた。
〈は…はしたない…。この間まで長とも認めず拒んでいたものを……〉
いつの間にか、武宮は翔隆に〝恋〟をしていた。

………いつからだろうか?
  上泉こうずみへの援軍か?
 いや、違う……――――恐らくは、集会の時の真剣な眼差しを見た時から、魅かれていたのだ。
そして、昨夜の援軍に来た翔隆の凛々しい姿を見て、愛してしまったのだ…。
〈いけない……。翔隆様には妻も子もおられるのだ…〉
ちらりと翔隆を見ると、彼は盃をじっと見つめている。
その深刻な表情に、何と声を掛ければいいのか分からずに、沈黙のまま時が過ぎた…。
〈………いつになったら、戻れるのだろうか…?〉
翔隆は不意に不安に駆られた。
解任されて、どれくらい経っただろうか…。
〈戻れるのか? いっそ、このままの方が――――〉
そうも考えるが、信長への愛しさが募るばかりでどうにもならない…。
〈こんな考えではいかん〉
翔隆は、己の中に膨れ上がっていく漠然とした不安を掻き消すかのように、酒を呑んだ。

  飯を食い、一時も経つと武宮も翔隆に勧められて酒を呑んでいた。
「…もうお止めになられた方が……」
「………」
翔隆は何も答えずに、ただ酒を呑む。
何もかもを、忘れ去ろうとするかのように……。

  カチャ カチャ
 どれ程経ったのか、武宮が鍋を土間に置いてから、囲炉裏の周りを片付け始めた。
「武宮……酒は…?」
「もうありませぬ。一升の樽が五つも空になるなんて信じられない……」
言いながら武宮は翔隆を見る。
翔隆は暑くなったらしく着物をはだけさせていた…。
暫く見とれてから武宮は赤くなって俯き、翔隆の周りも片付ける。
「ほらっ、足を避けて…ああ、もう…足がこんなに汚れて……」
言いながら、武宮は布で翔隆の泥汚れを拭いていく。
酔っているらしく、少しふらついていた。
そんな武宮をふと見ると、着崩れして膨よかな乳房が揺れているのがよく見えた。
「……女だなんて、言わなかったじゃないか……」
「男だとは一言も言ってません。大体、私は女である前に頭領で…あっ」
言い掛けてカクンと肘から力が抜けて倒れる所を、翔隆が片手で支えた――――が、持ってしまったのが、乳房であった…。
とても柔らかくて温かい感触が手に伝わる。
「あ、あのっ…」
「――――」
翔隆はぼうっと武宮を見つめ、そのまま武宮を抱き寄せて口付けをする。
「ん…っ」
息もつけぬ程の接吻をしながら着物の合間からその乳房を揉み、そのまま押し倒した。
「―――はっ…」
やっと口唇を解放されて、武宮は大きく息を吸った。
頬を赤らめて息を整える武宮が艶めかしくて、じっと見つめたまま翔隆は着物を脱ぐ。
「翔隆様……」
「私では、不満か…?」
優しく問う翔隆に、武宮は耳まで真っ赤になった。
「そんな…事…」
「嫌なら、言ってくれ…」
そう言い翔隆はそっと口付けをしてから、首筋に舌を這わせていく。
「あっ…は…」
嫌だなどと……生まれて初めて好きになった男の愛撫を、誰が断れようか…。
年甲斐も無く、好きになってしまった………いや、愛した人が抱いてくれるなどと、夢のようだ。
武宮は恥じらいながらも、そっと翔隆の逞しい背中に手を添える。
「…悔いても知らんぞ」
そう言い翔隆は武宮の柔らかな乳房を吸い、舐めながら邪魔な着物を脱がせていく。
「ああ…」
「………」
翔隆にはもはや理性が無かった。
ただただ、何かを求めるかのように武宮の体を貪っていく…。
〈…私が年相応の姿であったら…抱いてくれる事もなかっただろうな…〉
ふとそんな思いがよぎる。
が、武宮はそんな考えを打ち消して、愛しい翔隆に身を委ねた…。



 ―――朝日が顔に当たり、武宮は目を覚ました。
いつの間にか着物が着せられていて、翔隆の着ていた小袖が布団代わりに掛けられていた。
その本人の姿は、無い……。
「眠ってしまって…」
着た覚えは無いので、翔隆が着せてくれたのだろう。
「……翔隆様」
そっと小袖に頬擦りすると、翔隆の匂いがした。
…夢…ではなかった…だが、ふいに不安が過る。
〈これで、良かったのだろうか…?〉
 …忘れよう。
昨夜の事は夢だったのだ…と、武宮は自分に言い聞かせて小屋を後にした。
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