上 下
158 / 237
五章 流浪

六.播磨

しおりを挟む
  あれから、翔隆一行は摂津を通って山陽道へ入った。

 それから五日目で播磨に入った。

確かここの頭領は小山と郡川こおりがわ、その二人を束ねるのが小寺氏に近侍として仕える黒田官兵衛かんべえ孝高よしたか(十八歳)だと聞いている。
先代の黒田家当主が不知火の頭領達と仲が良く、仲介となっていたそうだ。
集落の位置が分からないので、黒田を訪ねた方が早そうだが……。
〈いきなり行っても追い返されそうだしな……どうするか〉
しばらく考えた後、翔隆はある事を実行した。


 黒田孝高よしたかは主君の小寺政職まさもとと共に、御着ごちゃく城の本丸から晴天の空を眺めていた。
「はて……雲が…」
ある一カ所だけに雨雲が集まって稲光を放っている。
「妖の仕業か?!」
それを見た黒田孝高よしたかが立ち上がる。
「…! わたくしが、見て参りまする!」
「おお、気を付けよ!」
「はっ!」
孝高は答えて太刀を手に走って外に出ると、馬に乗った。
その馬の後を、一族の者が付いていった。〈…あんな事が出来るのは一族のみ…!〉
雨雲の下には、一人の男と馬、それに子供が二人いた。
黒い髪に黒い瞳……不知火に間違いは無いが、刀一つ持っていない……一体何の為に…?
黒田孝高よしたかは、馬からヒラリと降りて付いてきた頭領の小山と共に男を囲む。
「何者だ!」
「翔隆。不知火一族が嫡子、翔隆だ」
「何…?」
言った後、孝高は冷静に翔隆と子供らを見て、小山を見る。
「…確かに、集会で見た…者です」
それに二・三度頷くと、孝高は翔隆を見る。
「話は小山から聞いている。…聞いた話より、良い目をしているな。先程の雲は、我らを呼ぶ為か」
「そうだ。城に行っては迷惑と考え、使うまいと決意した《力》を使ったのだ。まず、無礼な行為をした事を詫びる。すまない」
「ほう…」
黒田官兵衛は興味を持って翔隆を見つめた。ただでさえ一族に狙われているというのに、太刀も帯びず頼みの《力》すら使わずにいようとは…。
「………して、何用で参った?」
「口説きに来たのだ」
「…はっきり言うな。生憎あいにくだが、認めぬぞ」
「いいのか? このままで…」
「…?」
「私は良くない。…私は、この戦を私の生きている内に終わらせたいのだ! こんな苦しみ…こんな悲しみは、全て終わらせて決着をつけたい! その為には、皆の力が必要なのだ!」
そう訴える眼は真剣で、闘志に溢れている…。
「…この乱世、誰かに仕えながら戦うなどと………自分で終わらせるなどと! 絵空事を……。尾張の織田に仕えているのであろうがっ!」
「…織田には解任された…。他に二人も主君を持った故に…」
「二人?!」
「ああ…。甲斐の虎に越後の龍に…。織田に仕えているのは承知の上で、仕えさせてもらっている。同じように忠誠を誓い、決して秘事は漏らさずに」
その言葉で、黒田孝高はこの男がどういう人物なのかを見抜いた。
主君一人ならまだしも、三人一度に忠実に仕えるなど、そうそう出来るものではない。
しかも、他の大名に仕える者を欲するなどと…それ程の魅力があればこそ……それだけ信じられる〝心〟があればこそ、だ。
それが嘘だと思えないのは、翔隆の瞳が澄んでいるからだろう。
それを確信し、黒田官兵衛は微笑した。
「良いでしょう。京の羽隆よりも頼もしい」
「黒田殿…!」
「良いではないか。この男は嘘偽りの無い、誠実な心の持ち主だ。本気で、自分の生きている内に、一族の戦を終わらせようとしている。…それは、今の話で分かった筈だ」
「………」
小山には何も言えなかった。
小山自身も、翔隆は信じられると思ったからだ。
「決まりだな。おさとして認めよう」
「…ありがとう、黒田殿、小山殿!」
「官兵衛、で結構。摂津、和泉・河内、丹波・丹後の一族は説き伏せておこう」
「恩に着るよ」
そう言って翔隆はにっこり笑って一礼した。その笑顔を見て、黒田孝高は頷く。
〈成る程。この無邪気な笑みが、人を安心させるのだな…〉
そう思い、子供らに目を移す。
「その子らが、文の…?」
「うむ。樟美と浅葱だ。…女子は殺す、などとゆう掟は、敵に寝返らせない為にあるのだろうが……男も女も、仕える者に魅力がなくば離反すると身に沁みて分かっているから。この子らが敵に回れば、それは私の責任だ。どうあっても敵となるのならば、討つまでだとこの子らには言ってあるから」
それに、またも孝高は頷いて微笑する。
情や肉親という絆に流されては駄目だという事を、分かっているな、と感心したのだ。
「先を急ぐといい。郡川こおりがわ殿には拙者から伝えておこう」
「ありがとう。では、いずれまた」
微笑んで言い、翔隆は子供らと共に去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、黒田孝高は呟く。
「…これからの事を考えれば、大変なんてものではないというのに………剛毅ごうきな御仁よ」
そう言って、黒田孝高は笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

彼女の母は蜜の味

緋山悠希
恋愛
ある日、彼女の深雪からお母さんを買い物に連れて行ってあげて欲しいと頼まれる。密かに綺麗なお母さんとの2人の時間に期待を抱きながら「別にいいよ」と優しい彼氏を演じる健二。そんな健二に待っていたのは大人の女性の洗礼だった…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

処理中です...