天然公女は諦めない!〜悪役令嬢(天然)VS転生ヒロイン〜

紗々置 遼嘉

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第四幕 νήμα(ニーマ) 紡ぐ

νήμα24 卒業

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 9月。
卒業式だ。

3年生が学院の校庭に集まり、一人一人が水晶に手をかざして卒業証明を受ける。
そして、全員が男女に別れて輪になって、集団舞踏を行う。
音楽に合わせて向かいの男性と4拍くらい踊り次の相手へと女性が移動する。
全ての男性と踊り終えた女性は、皆と学院に手を振り、カーテシーをして去っていくのだ。
「卒業おめでとう」
「卒業おめでとう」
と声を掛け合い、笑顔で踊る。
離れる時は
「また何処かで」
と言い離れるのだ。

マリミエドはギルベルトと踊る。
「卒業おめでとう、お兄様」
「卒業おめでとう、リュミ」
手を繋いでクルクルと回って離れる。
「また何処かで」
「そりゃ無いよリュミ」
笑ってギルベルトが言った。
「卒業おめでとう、アルビオン公子」
「卒業おめでとう、マリミエド公女」
2人は見つめ合いながら踊って離れた。
「また何処かで」
「また何処かで」
次にベルンハルトと踊る。
「卒業おめでとう、ベルンハルト公子」
「卒業おめでとう、マリミエド公女」
そう言い踊り、ベルンハルトと離れる。
「また何処かで」
共に言った。
そうして次々と踊る。
「卒業おめでとう、クリフォード公子」
「卒業おめでとう、マリミエドお嬢様」
そう言い踊ると、マリミエドが笑う。
「やだわ、ここでお嬢様だなんて…ではまた何処かで」
「また何処かで」
そう言い離れて、ユークレースと踊る。
「卒業おめでとう、ユーク」
「卒業おめでとう、リュミ」
見つめ合って微笑んで踊る。
「また後で」
「ああ、また後で」
そう言ってレアノルドと踊る。
「卒業おめでとう、レアノルド公子」
「卒業おめでとう、マリミエド公女…とても美しいよ」
「ありがとう…また何処かで」
「また何処かで」
そう言い離れて、伯爵家の者達と踊る。
最後にライアンと踊った。
「卒業おめでとう、ライアン公子」
「卒業おめでとうございます、メイナード公女。結婚式には行きますから!」
「ええ。ではまた何処かで」
「また何処かで!」
踊り終えたマリミエドは、少し離れてから皆に手を振り、カーテシーをして去った。

男性の方は、女性が全員帰ると皆でボウ&スクレープで校舎に一礼をして、帰るのだ。

中には友達と街に繰り出して宴を開く者もいる。

ユークレースはすぐに屋敷に帰ってシャワーで髪と体を洗ってから着替え、黒馬に乗ってメイナード家へ向かった。


 すると早く着き過ぎたらしく、応接室に通された。
「マリミエドお嬢様は、ただいまお風呂に入っておられますので、しばらくお待ち下さいませ」
そう執事が言い、コーヒーを出す。
そこにメイナード侯爵がやってきて、正面に座った。
「卒業おめでとう、ユークレース君」
「ありがとうございます」
「それで……はいつ建つのかね?」
「え…と、あの」
アパートメントは見た。それで、屋敷は?」
真顔で聞かれる。
〈ギルベルトが言った通りだ…どうしたら…〉
「その、街の中心では土地が無く、郊外に…」
「せめてこの屋敷の半分は無いとな」
「…その…」
「出来んのならば、やはりアルビオン君の方が良いかな」
「そっ…れは、あの…」
「きちんとした受け答えも出来んのか?」
「あの、済みません侯爵閣下」
そう言っている所にギルベルトがやってくる。
「父上、暇だからって余り義弟おとうとを虐めないでやって下さい」
「暇ではない。医者を待っているのだ」
「医者?どこかお加減が悪いのですか?」
そう聞くと、メイナード侯爵はニヤリとする。
「お前に妹か弟が増えるやもしれん」
「妹………って、まさか以前の旅行で…?!」
そう言った時、執事のヴォルターがやってくる。
「旦那様、医者が参りました」
「ん…ではな。郊外でも良いからきちんとした屋敷を建てろよ!」
そう言いメイナード侯爵は行ってしまう。
「…出来れば弟がいいが……」
そう呟いてからギルベルトはユークレースを見る。
「郊外に建てるのか?」
「…ああ。土地はあるんだ、建築も進めている。ただ…リュミがどう言うか…」
「別荘だと言えばいい。〝父と兄にも満足して欲しいんだよ〟と甘い声で囁やけば、分かりましたわと納得するさ」
そう言うとマリミエドがやってくる。
「何が納得するんですの?」
「ん?何でもないよ」
そう言ってギルベルトは正面に座る。
「さ、言わないとユークレース」
「う、うむ…」
答えてユークレースは隣りに座るマリミエドに向き合う。
「あのな……屋敷を、建てているんだ」
「はい?」
「郊外に、ここの屋敷の……半分よりは小さいが、父君にも納得してもらえるような屋敷を建てているから…そこが出来たらまた家具を見て欲しい…」
そう言うと、マリミエドはギルベルトを見る。
「何かユークを責めまして?」
「責めないよ!…父上がね、納得していないんだよ。だからユークレースは父上を納得させたいからと郊外に土地を買ったんだよ」
「…ユーク?」
マリミエドが問うと、ユークレースは抱き締めて誤魔化す。
「君にあげたいんだ…いいだろう?あそこにも住んで、子供が大きくなったらあげればいいし…」
耳元でそう囁くように言うと、マリミエドが真っ赤になってグイグイとユークレースを押して離す。
「分かりましたわ。…どちらにも住めるようにして、小さなお屋敷はアパートメントとして使いましょう。…それでいいのね?」
「ああ、何度も済まない、リュミ」
「もう…」
マリミエドは苦笑してユークレースを見て、用意された紅茶を飲んだ。
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