天然公女は諦めない!〜悪役令嬢(天然)VS転生ヒロイン〜

紗々置 遼嘉

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第四幕 νήμα(ニーマ) 紡ぐ

νήμα21 水族館

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 それから10日後。
ユークレースはマリミエドを連れて〝水族館〟にデートに行く。
勿論、一週間前にギルベルトとエレノワールも誘った。
するとマリミエドがパンと手を叩いて言う。
「それなら、皆で行きませんか?」
「皆とは…」
そう聞いて出たメンバーは、いつもの友人とその婚約者達だ。

その日はカップルで歩く。
マリミエドと婚約者のユークレース。
ギルベルトと婚約者のエレノワール大公令嬢。
アルビオンと婚約者のレティシア大公令嬢。
ベルンハルトと婚約者のエリアディル大公令嬢。
クリフォードと婚約者のソフィア。
レアノルドと婚約者のリリアネット。
ライアンと婚約者のメアリアーナ。
シリウスと婚約者の子爵令嬢。

騎士として来ていた者は控えさせ、メイドは一人ずつにした。

海岸からパネルを魔石で繋いでトンネルにしてある水族館だった。
「これは凄いな…」
海の底を歩きながらギルベルトが言う。
「百メートルまでで地上に出て、今度は水上で見られる魚を囲ってあるんだ」
そうユークレースが言うと、ユラリと大きな影が出来て女性達が悲鳴を上げる。
「きゃあ!」
「大丈夫、何もしたりはしない!あれはジンベエザメというサメで、プランクトンを食べるんだ」
ユークレースが説明する間に女性達はメイドと逃げて、マリミエドとエレノワールだけが近くで見た。
「わあ、大きな口ですね」
「見てエレナ、可愛い目だわ!」
そう言い合う2人の側にジンベエザメが近付いて覗き込み、行ってしまう。
「ふむ…普通の令嬢には刺激が強いようだな」
ギルベルトが苦笑して言う。
「わ、私も平気よ…」
レティシアが震えながら言うと、マリミエドがその手を握る。
「大丈夫よレティシア。ユークの作った物だもの。魔物でも壊せないわ」
そう信頼され、ユークレースは胸がじんと熱くなる。
「絶対に、大丈夫だと約束する!」
「そんなに声高らかに言わなくても知っている」
ベルンハルトが言い、皆で笑った。
マリミエドが喜んで見ているので、女性の皆も必死についてきていた。
マンタが通り、ウミガメのお腹も見えた。
水上に上がると、囲いの中でペンギンが泳いでいて飼育員がエサを持って来る。
「ここのペンギン達は、魔族に親を食べられてしまった子供達なんだ」
「まあ…育てたのですか?」
レティシアが聞くとユークレースは頷く。
「聖塔と聖魔塔で管理しました。ここに居る魚や動物達は、皆、魔族から守って連れてきた生き残りなのです」
その説明の後でユークレースがエサを投げ入れると、ペンギンが泳いでそれを食べる。
「エサはこうしてあげるか、直接あげています」
ヒョコッとペンギンが歩いてきたので、マリミエドが魚を手にして差し出す。
すると、カッカッとくちばしを叩きながら飲み込んだ。
「可愛いわね」
ソフィアとメアリアーナが寄ってきて見つめる。
侯爵家の者が率先しているので、皆が来やすいのだ。
それから皆でフジツボの付いたウミガメの救助をした後で、水上コテージでランチを摂る。

ランチの時に、海中から大きな魚が来てマリミエドが言う。
「大変、フジツボがたくさん付いてるわ!取ってあげないと…」
そう言い手を伸ばそうとしたので、ユークレースが止める。
「クジラの皮膚は柔らかくてフジツボが食い込んでいるから取れないんだ。魔法で出来ればいいんだが…」
そう言い、ちらっとレアノルドを見る。
〈なる程、見せ場を作ってくれたのか〉
レアノルドはニッと笑う。
水はレアノルドの得意分野だ。
「…水流で流すイメージか…?」
呟いてやってみると少しは削れたようで、クジラが近寄ってきた。
「…傷付いたらすまん!」
レアノルドは慎重に丁寧に水流を作り出してみた。
すると大体のフジツボが取れたクジラは満足して帰っていった。
「凄いですわ、レアノルド様!」
リリアネットが笑顔で拍手する。
こんな笑顔は久し振りに見た。
皆はレアノルドに拍手を送った。

 皆はまた来た海底トンネルを帰りながら、今度は楽しんでいた。
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