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第三幕 想定外

vs51 魔王と女神

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 晩餐は、魔王と2人きりだった。
「おっ、この肉はレンガス地方の牛だね。ここのは柔らかくてコクがあるんだよ」
ギルベルト猊下は笑いながらステーキを食べる。
「…盟約と言ったな」
魔王が静かに言う。
「ああ、女神が嘆いていたんだ。魔族討伐を少しでも止めたい、と」
「…女神?」
魔王が目を見張って言う。
「ああ。…会いたいのかい?」
「何を」
「…俺は女神を信仰しているんだ。共に寝てみるかい? 女神像を側に置いて寝れば、夢で会えるんだ」
「馬鹿な事を」
「…では今宵は友人の所で寝」
「泊まれば良かろう」
言い掛けたのを遮って魔王が言う。
「………でも、ベッドがないし」
「我のベッドは広い」
「え、魔王のベッド? 初めての体験だな」
「何かをするような言い方をするな!」
魔王がカアッと頬を赤らめて言う。
「この体の方がガタイがいいよね。潰さないようにしないとな」
「本当に馬鹿な事を」



 寝室で、ギルベルト猊下はローブ姿でさっさと魔王のベッドに入る。
「凄く広いな! 4人は眠れるんじゃないか?」
言いながら枕元に女神像とコサージュを置く。
「壊さないでくれよ? これが無いと会えないから」
そう言い真ん中に横たわる。
「もっと端に寄れ。その体は無駄にデカいのだ」
魔王が言いながらベッドに入り、頭上の小物を見る。
「これで夢を見るとは、人間は変わった魔法まじないをするのだな」
言いながら、ギルベルト猊下との間に毛布を敷いて堤防にして横になる。
数百年の人生で、誰かと寝るのは子供の頃以来…。
ギルベルト猊下を見ると、もう眠っていた。
〈変わった人間だ…〉


 ギルベルトの夢の中。
草原と花畑が広がり、空に魚が泳ぐ中で、ギルベルトと世界樹の精霊と女神が空に向かって釣りをしていた。
「全然釣れないじゃない!」
そう言って女神が後ろを見ると、魔王が立っていた。
「え、何、嘘っ⁉ 魔王⁉」
女神が叫ぶと2人が振り向く。
「あ、魔王だ」
世界樹の精霊が言い、ギルベルトが笑う。
「女神に会いたかったみたいだから、共に寝たんだよ」
「共にって、ヤダ、そんな関係…」
女神がおかしな勘ぐりをする。
「どんな関係なんだか…」
ギルベルトが苦笑すると、魔王が女神を見る。
「…夢で…本当に会えるのだな」
「何…」
「もう一度、会いたかったのだ…」
そう言い魔王は女神を抱き締めてキスをした。
「わお」
「え…」
世界樹の精霊とギルベルトはそれを見つめる。
「…リュミエリーナ…」
「ま、待って…貴方とは昔別れたじゃない」
女神が後ずさると、魔王がまたキスをする。
「…言っただろう、妻にしたいと。それなのにお前はシャルルに行ってしまって…」
「それは…」
ギルベルトと世界樹の精霊は、2人がどういう関係なのかとドキドキしてドーナツを食べながら見守る。
「もう昔の事よ、今は女神なの。女神が魔王と結婚なんて出来ないわ」
「……そうなのか…」
そう言い魔王は俯いてしまう。
「…魔王も魔神みたいなものだから、出来るんじゃ無いのか?」
世界樹の精霊が言うと、ギルベルトが言う。
「いや駄目だろう。夫のシャルルが神なのだから、重婚になってしまう」
「あー…」
ドラマを見る感覚で話していると、女神が小走りでやってきて2人の頭を叩いた。
「見世物じゃないのよ! 大体、なんで魔王なんか連れてきたの!」
「だって、ユークレースの所に行こうと思ったら魔界で、女神に会いたそうだったから…」
「あの人とは…っ」
「昔付き合ってた人?」
「いいの! 出ていきなさい!」

その言葉と共に夢から追い出された。

 翌日。
ギルベルト猊下と魔王はベッドで目を覚まして目をパチパチとする。
「…魔王、追い出されたね」
「…そのようだな……」
2人はムクリと起き上がって着替える。
「昔付き合ってたのかい?」
そうギルベルトが聞くと魔王はシャツを着ながら答える。
「…人間の奴隷としてリュミエリーナが居て……我が求婚した頃に、シャルルが来た。リュミエリーナはシャルルを愛して、共に……」
悲しい過去を聞いてしまった…。
「あー…その、気を落とさないでくれ」
「もう数百年前の事だ…」
そう言う割には傷心ムードなのだが…。
ギルベルト猊下は女神像を胸の内ポケットにしまい、コサージュを着ける。
「朝食を摂りながら、お前の話を聞いてやる」
魔王はそう言って上着を着た。
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