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第三幕 想定外

vs46 聖魔塔へ

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 ギルベルトの夢の中。
空は暗雲が立ち込め、全てが黒く見える。
下は大洪水のように黒い水で溢れていた。
ギルベルトが水を掻き分けるように歩いていると、目の前にしなやかな手が差し出される。
見上げると女神が宙に浮いていた。
「女神…」
呟いてギルベルトは無視して歩く。
「ちょっと! なんで無視すんのよ!」
「…女性の手は取れないよ」
「では男性ならいいのかい?」
そう横から声が聞こえ、世界樹の精霊が手を差し伸べる。
ギルベルトは何も言わずにその手を取って宙に浮いた。
前方に小島があったのでそこに避難をした。
「ユーデクス、この先どうすればいいのか分からないよ…」
「気弱だな。どうしたんだよ」
「…余りに孤独で……」
いかに、あの友人達に頼っていたのか…自分で驚く程、不安に襲われていた。
世界樹の精霊はため息を吐いてギルベルトの背を叩く。
「会いに行けばいいじゃないか」
「馬鹿な事を…」
「いや、だって、向こうだって君の体で好きなように好きな場所に行ってるんだから。あ、罪は増えてないよ、今の所は」
世界樹の精霊の言葉に、ギルベルトは苦笑する。
「そうだな……〝取り込む〟という名目で、会いに行ってみようか」
「頑張れよ」

 翌日。
その言葉と共に目を覚ました。
横を見ると、少女が窓に向かって手を組んで祈りを捧げている。
「女神様、お願いします、この地獄からお救い下さい」
そう言い、泣きながら祈っている。
〈可哀相に……そうだ、ユークレースにしよう〉
ギルベルト猊下は起き上がって少女を見る。
その手に、ポケットに入れてある筈の女神像が握られていた。
「その女神像は…」
「ごめんなさい! ベッドの中にあったからつい握り締めてしまって…っ」
少女はガタガタと震えながら女神像を渡してきた。
それを受け取り胸の内ポケットにしまうと、少女の頭を撫でる。
「…私は、君を犯しはしない。昨夜の事を聞かれたら、〝優しくされました〟と答えるんだ。…いいね?」
「はい…」
少女は驚いた表情を浮かべていた。

 朝食の後で、ギルベルト猊下は鞄を持つ。
そしてグレイオスを見た。
「昨夜の奴隷は?」
「はっ」
答えてグレイオスがローブに着替えた少女を連れて来る。
それに頷いてギルベルト猊下は言う。
「人間を取り込んでくる」
「は、しかしそれは猊下のなさる事ではありません」
思った通り止められる。
〈テレポートの記憶がある……行けるか?〉
ギルベルト猊下は冷や汗を掻きながらも、少女を片手で抱き上げる。
人生初のテレポートだ。
グレイオスが何か言う間に、ギルベルト猊下は消えた。


「おおっ…」
聖魔塔の裏庭に宙に浮いた状態で出たので、ギルベルト猊下は慌ててバランスを取って立つ。
それと同時にリンゴーン、リンゴーン
と何度も鐘が鳴らされる。
それは魔族が現れた時の緊急招集の鐘だった。
「いきなり魔族だと…⁉」
仕事に没頭していたユークレースが立ち上がって、魔族の気配がある裏庭に走る。
 そこには他の者達も駆け寄って来て周りを囲んでいた。
「どうする?」
「あの子は奴隷か?」
「倒してみるか…」
そう話している所にユークレースが来て人混みを掻き分ける。
「どんな魔物だ⁉ 俺が対処する! 皆は中に…」
言い掛けて止まる。
何やら偉そうな魔族だが、少女を抱えてもう片方の手に鞄を持っている。
まるで旅行者のような格好だ。
「やあ、今度は疑わないだろうな?」
その言葉を聞いて、ユークレースは目を見開いて驚き、動揺する。
「ま、待て、その…こ、この魔物は平気なんだ!」
とにかく周りの者達に言って、チラチラとギルベルト猊下と少女を見てから言う。
「そこのガゼボへ連れて行くから、皆は仕事に集中しろ!」
「え、でも強そうですよ」
「いいから!」
ユークレースは皆の肩や背を押して塔の中に入らせてから、ガゼボに行く。
「友人、中では駄目かい?」
「魔族は入れない仕組みだ!」
「ああ、だから外だったのか…」
言いながらギルベルト猊下はガゼボに入って少女を座らせて荷物を置き、座ってポケットに入れていたコサージュを胸に付けた。
ユークレースは防音サイレントの魔法を掛けてから喋った。
「その…ギルベルトなのか?」
「だから…君って奴は。…疑わないって言ったのに子犬の時も疑ったよな」
そう言うと、ユークレースはギルベルト猊下の手を握る。
「どれ程皆が心配したと思って…!」
そう言いグッと泣くのを堪えた。
「ウソ…ユークレース様だ……」
少女が口を手で押さえて言う。
「ああ、忘れる所だった。この子は何処かの貴族らしい。奴隷印をどうにか出来ないか?」
「…それなら、得意な職員がいる」
ユークレースが言い、遠巻きに見ている職員を呼び寄せて少女を連れて行かせた。
「あのっ、ありがとうございます…お名前は…」
少女がギルベルト猊下に聞く。
「…ルド・ルギオスだ」
「ルド・ルギオス様、ありがとうございます!」
そう笑って言い、少女は職員と歩いて行った。
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