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第三幕 想定外
vs23 忘れ物
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翌日…狩猟大会まで後2日。
「イヤあっ!」
マリミエドは、はあはあと息を切らせて飛び起きた。
今日は雨が降っていた。
ピカッと稲光が光り、雷が落ちる音がしてビクッとした。
「…夢……」
やけに生々しい夢だった。
気落ちしたまま支度をして学院に行くと、皆は狩猟大会の話をしていた。
「もう渡した?」
「これから!」
そう女の子達が言い合っているのを聞いて、マリミエドはハッとして鞄の中を見て蒼白した。
狩猟大会では女性が、事故に遭わないよう、怪我を負わないようにと願いを込めてタッセル(房飾り)を作って身内や友人、婚約者などに渡すのだ。
受け取った男性は剣や馬具、コートやベルトなどに付けるのが通例だ。
マリミエドは、全員の分を先月作っておいたのに鞄に入れてくるのを忘れていた。
「どうしましょう……一回戻って…!」
そう言いクルッと振り向くと、後ろを歩いていたベルンハルトにぶつかり、よろめいて転びそうになった。
するとすぐにベルンハルトに腰を支えられた。
「大丈夫か?」
そう言いマリミエドの体をきちんと立たせ、ベルンハルトは心配そうにする。
「だ…大丈夫ですわ…」
マリミエドは真っ赤になって口に手を当てる。
「ごめんなさい、慌ててしまって」
「どうかしたのか?」
「忘れ物をしてしまって…取りに戻らないといけなくて」
「届けさせればいいんじゃないのか?」
「ええ…その…わたくし、まだ連絡蝶を持っていなくて……」
そう言うと、ベルンハルトは鞄から連絡蝶のノートを取り出してマリミエドに渡す。
「好きに使ってくれ。後で返してくれればいいから」
そう言いベルンハルトは行ってしまう。
「あっ……」
マリミエドはそのノートを胸に、ベランダのテーブル席に腰掛けた。
〈連絡蝶は魔石で作られていて高価なのに…〉
そう思いながらも一枚貰ってタッセルを届けてくれるように書いて蝶を飛ばすと、レアノルドとクリフォードが寄ってくる。
「やあ、元気が無いね」
レアノルドが聞くと、マリミエドが苦笑する。
「いえ、そんな事は…」
そう言う間に、2年生や一年生の女子生徒達がやってきてはレアノルドとクリフォードにタッセルを渡していく。
「応援しています!」
「頑張って下さいね」
「怪我をなさらないように…」
2人の鞄には、次々にタッセルが詰められていった。
〈…わたくしがお渡ししない方がいいのかしら…〉
そう思って今度は落ち込んでしまう。
「そろそろ授業だよ、行こう」
「あ、はい…」
教室で別れると、マリミエドは静かに窓際の席に座る。
次の授業は自習だった。
その時にエレナがタッセルを入れた鞄を持って来てくれた。
「お嬢様…朝から顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとうエレナ。アメリアは屋敷?」
「はい、来づらいでしょうから」
「そうね…気を付けて帰ってね」
「はい」
そう言い、エレナが一礼して帰って行くのを見届けてからマリミエドは隣りの教室をそっと覗く。
レアノルドとクリフォード、ベルンハルトが3人で何かを話して笑っていた。
〈邪魔してはいけないわ〉
そう思いながら歩いて、ベランダのテーブル席に座ってしとしとと降る雨を見つめた。
〈…嫌な夢を見たわ……〉
そう思いながらも、マリミエドはいつの間にか眠りに落ちたーーー。
「イヤあっ!」
マリミエドは、はあはあと息を切らせて飛び起きた。
今日は雨が降っていた。
ピカッと稲光が光り、雷が落ちる音がしてビクッとした。
「…夢……」
やけに生々しい夢だった。
気落ちしたまま支度をして学院に行くと、皆は狩猟大会の話をしていた。
「もう渡した?」
「これから!」
そう女の子達が言い合っているのを聞いて、マリミエドはハッとして鞄の中を見て蒼白した。
狩猟大会では女性が、事故に遭わないよう、怪我を負わないようにと願いを込めてタッセル(房飾り)を作って身内や友人、婚約者などに渡すのだ。
受け取った男性は剣や馬具、コートやベルトなどに付けるのが通例だ。
マリミエドは、全員の分を先月作っておいたのに鞄に入れてくるのを忘れていた。
「どうしましょう……一回戻って…!」
そう言いクルッと振り向くと、後ろを歩いていたベルンハルトにぶつかり、よろめいて転びそうになった。
するとすぐにベルンハルトに腰を支えられた。
「大丈夫か?」
そう言いマリミエドの体をきちんと立たせ、ベルンハルトは心配そうにする。
「だ…大丈夫ですわ…」
マリミエドは真っ赤になって口に手を当てる。
「ごめんなさい、慌ててしまって」
「どうかしたのか?」
「忘れ物をしてしまって…取りに戻らないといけなくて」
「届けさせればいいんじゃないのか?」
「ええ…その…わたくし、まだ連絡蝶を持っていなくて……」
そう言うと、ベルンハルトは鞄から連絡蝶のノートを取り出してマリミエドに渡す。
「好きに使ってくれ。後で返してくれればいいから」
そう言いベルンハルトは行ってしまう。
「あっ……」
マリミエドはそのノートを胸に、ベランダのテーブル席に腰掛けた。
〈連絡蝶は魔石で作られていて高価なのに…〉
そう思いながらも一枚貰ってタッセルを届けてくれるように書いて蝶を飛ばすと、レアノルドとクリフォードが寄ってくる。
「やあ、元気が無いね」
レアノルドが聞くと、マリミエドが苦笑する。
「いえ、そんな事は…」
そう言う間に、2年生や一年生の女子生徒達がやってきてはレアノルドとクリフォードにタッセルを渡していく。
「応援しています!」
「頑張って下さいね」
「怪我をなさらないように…」
2人の鞄には、次々にタッセルが詰められていった。
〈…わたくしがお渡ししない方がいいのかしら…〉
そう思って今度は落ち込んでしまう。
「そろそろ授業だよ、行こう」
「あ、はい…」
教室で別れると、マリミエドは静かに窓際の席に座る。
次の授業は自習だった。
その時にエレナがタッセルを入れた鞄を持って来てくれた。
「お嬢様…朝から顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとうエレナ。アメリアは屋敷?」
「はい、来づらいでしょうから」
「そうね…気を付けて帰ってね」
「はい」
そう言い、エレナが一礼して帰って行くのを見届けてからマリミエドは隣りの教室をそっと覗く。
レアノルドとクリフォード、ベルンハルトが3人で何かを話して笑っていた。
〈邪魔してはいけないわ〉
そう思いながら歩いて、ベランダのテーブル席に座ってしとしとと降る雨を見つめた。
〈…嫌な夢を見たわ……〉
そう思いながらも、マリミエドはいつの間にか眠りに落ちたーーー。
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