天然公女は諦めない!〜悪役令嬢(天然)VS転生ヒロイン〜

紗々置 遼嘉

文字の大きさ
上 下
91 / 164
第三幕 想定外

vs01 暴漢 ※

しおりを挟む
 数日間、平和に過ごせた。

花祭りまで2日。
マリミエドは今日も授業中から探知サーチ魔法を使用していた。
〈…?!〉
急に、森の辺りに熱源が3つ現れた。
一つは逃げて、2つが追うような動きだ。
〈何かしら…どうしたら…〉
もしかしたら、動物が狩りをしているのかもしれないし、逃げているのは人かもしれないし、魔物狩りかもしれない。
安易あんいに近寄っては危ないかもしれない。
しかし放って置くには不安が残る。
マリミエドは鞄を手にして立ち上がる。
「保健室に行って参りますわ!」
「あ、ああ…」
教諭が答えると同時にマリミエドは教室から出た。
そして走ってバルコニーに向かう。
〈ここからなら見えるかも!〉
そう思って鞄からオペラグラスを取り出して見る。
 追われているのは女性…あれは、クリフォードの妹のリリアネットだ!
何故か屈強そうな男2人に追われている。
〈どうしたら…!〉
などと思う間にリリアネットの服が破かれて、また逃げていく。
〈いけない!〉
マリミエドは走って外に向かった。
天空の矢エーテルアロー!!」
外に出てすぐにそう唱えると、魔法の矢が10本放たれる。
ターゲットにだけ向かう魔法の矢だ。
ドドッと魔法の矢が一人の男に刺さる。
「ぐあっ!」
男は呻いて前のめりにうずくまるが、すぐに前を向く。
マリミエドの天空の矢エーテルアローは、一本が一や2程度のダメージなのだ。
「逃げて!」
そう叫ぶのだが届かない。
まだ遠いのだ。
森に入ると、3人を見失ってしまう。
「いけない、探知サーチを…あっ!」
何かにつまずいてズザッと派手に転んでしまう。
「う…」
すると、髪を掴み上げられた。
「あっ!」
「このアマ!よくも邪魔しやがったな…ん?よく見りゃの一人じゃねーか」
そう言うと、男はマリミエドの襟元を乱暴に掴んで一気に破った。
「……!」
サァーと血の気が引いた。
しかし同時に悲鳴を聞いて我に返る。
「いやああ!助けて!!」
「…っ」
何かをしなくては、という思いから魔法を使う。
「光よ!」
ありったけの魔法を放つと、眩い光に包まれて天まで届く。
学院からもよく見えて、皆が何事かと見つめた。
「くそっ、引け!」
男達は即座に逃げていく。
光が収まってから、マリミエドはリリアネットに駆け寄った。
「フレーズベルグ令嬢!大丈…夫……」
言い掛けてマリミエドは言葉を失う。
リリアネットは丸まって泣いている…その太ももには血が流れていた。
マリミエドはすぐに駆け寄って自分の破れたシャツを脱いでリリアネットのあらわになった肌に掛ける。
「しっかりして!」
「もう王太子殿下にお会い出来ないわ!!」
そう言いリリアネットは泣きじゃくる。
幸い、マリミエドは破られたのが制服だけで、ランジェリーとキャミソールを着ていたので胸が隠れていた。
「フレーズベルグ令嬢、さあ立って!」
「放っておいて頂戴!あんな男に汚されたのよ!もう死んだ方がマシよ!!」
そう叫ぶので、マリミエドはリリアネットの頬をパンッと叩いた。
「しっかりなさいリリアネット!それでも王太子妃候補ですか!いかなる不測の事態に陥っても対処するのが妃の務めです!!」
そう叱り付けると、リリアネットは目を見開いてから涙をポロポロ流して立ち上がる。
「うう…ひっく…ひっく…」
「大丈夫よ、肌は隠れているわ」
そう元気付けて肩を抱いて歩いていくと、校庭に何人もの人が居て全員が驚いた。
そしてその中からすぐにクリフォードが駆け付けてくる。
「リリアネット!」
「お兄様あぁ!」
リリアネットは兄に縋り付いて泣いた。
その後からレアノルドやアルビオン、シリウスまで来て上着をマリミエドに掛けた。
「大丈夫か?!」
ベルンハルトやライアンまで来て一斉に言う。
「わたくしは、何もされてはいませんわ…大丈夫です」
凛として言うマリミエドに、皆は現皇后陛下の姿を重ね見た。
皇后陛下も若い頃から暴漢に襲われていたのだという…。
「保健室に行きますので…上着は、お借りしますわね」
精一杯微笑んで、足早に保健室に向かった。
〈怖い、怖い、怖い…!〉
手足が震えて焦点が合わない。
しかし、毅然としなくてはならない。
リリアネットはすぐにクリフォードが連れ帰ったらしい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...