天然公女は諦めない!〜悪役令嬢(天然)VS転生ヒロイン〜

紗々置 遼嘉

文字の大きさ
上 下
83 / 164
第二幕 回避の為=世界の為

vs28 王立歌劇団

しおりを挟む
 翌日。

ギルベルトはムクッと起きて、寝ぼけたまま机に行く。
そして引き出しから小箱を取り出して開け、中の〝木の針〟を取り出して長めのベストのポケットに入れた。
「よし、これでいいだろう…」
そう呟いて窓から外を眺める。
今日はいい天気だ。
「リュミとのデートか。劇の後はランチを取って…何処に行こうかな…楽しみだ」
笑って言い、身支度を整えた。


 一方のマリミエドは、バスローブ姿で着る服を迷っていた。
「藤色…いえ、水色の……うーん…」
アメリアとエレナが両手に一着ずつ、お気に入りの外出用のドレスを持って貰っていた。
4着を前に当てて全身鏡で確認しながら、帽子と靴と鞄を合わせる。
「やっぱり水色で統一するわ。髪はまとめて頂戴」
「かしこまりました」
エレナとアメリアはホッとして支度に取り掛かった。
朝食まで時間が無いからだ。
大急ぎで支度をして部屋を出ると、すぐ側のソファーに紺色のコートを着たギルベルトが座って本を読んでいた。
「ああ、やっと出てきたか」
「ごめんなさい!待っていて下さっているなんて気付かなくて…」
「いいんだよ、勝手に待っていたんだから」
笑って言ってギルベルトはマリミエドをエスコートする。

父は先に朝食を済ませていたので、母と妹達との朝食だった。
…が、やはりいつも通りに特に会話もなく外に出る。
馬車の中で、マリミエドはパンフレットを何度も読み返していた。

 いよいよ劇場に着くと、バルコニー席に座り、マリミエドは早速オペラグラスで舞台を見たり、パンフレットを確認したりと落ち着きがなかった。
ギルベルトはそれを微笑みながら見つめる。

劇が始まると、マリミエドは両手を組んで祈りながら食い入るように見つめていた。
冒険、恋愛、別れーーー劇の内容に合わせて表情がコロコロと変わる。

「ーーーここに、グルヴェイル王国を築くのだ!」
初代皇帝役の男が叫んで手を挙げて幕が閉じた。
盛大な拍手が送られる中で、マリミエドは喜んで拍手をしていたので、ギルベルトもそんなマリミエドに対して拍手を送った。

エスコートして劇場を出ると、ギルベルトはメモ帳を見る。
この辺りのレストランの名前をリストアップしておいたのだ。
「リュミ、何が食べたい?」
「それなら、初代皇帝が召し上がっていた大きくて長いソーセージが食べてみたいですわ!」
喜んでそう言うので、ギルベルトはクスッと笑って歩き出す。
「ではあそこのレストランだな。劇に合わせた料理を出しているらしいよ」
「まあ楽しみ!」

レストランに入ると、個室は無かったので人目に付かない奥の席を利用した。
そこでオススメの料理を頼むと、煮込まれていたシチューが大きな皿に盛られて運ばれてきた。
「沢山食べてね!」
そう言って小太りな婦人が笑顔で置いていく。
そしてすぐにプレッツェルと小さなパンの入ったカゴを持って来て置いた。
「おかわりもあるからね!」
そう言ってあちこちの席に行く。
フルコースとは違って、次から次に運ばれてきた。
「まだスープも飲み切ってないわ…」
「好きに食べていいんだよ、ほら、周りの客も自由に食べてるだろう?」
ギルベルトに言われて周りを見ると、お喋りしながらゆっくり食べている。
そこに今度は大きなソーセージが運ばれてきた。
「はい、ソーセージ! それから塩漬けキャベツザワークラウトとマッシュポテトもね! あと、鯉の唐揚げと野菜の肉巻きルーラーデンもあるから…そうそう、デザートはベリートルテとバウムクーヘン、どっちがいい?」
一気に言われて迷いながらもマリミエドが答える。
「ベリートルテでお願いします」
「はいよ!お兄さん甘いのは平気かい?」
「いや、余り…」
「ならレープクーヘンのコーティング無しをあげるよ!たまに甘いのが苦手な人に出してるんだ」
「どうも…」
答えると、また女性はあちこちに行く。
「陽気なお店ね」
マリミエドはクスクスと笑いながら食べた。
気に入ってくれたようだ。
 ソーセージはハーブが効いていて、とても美味しかった。

会計で自分達と護衛騎士や御者、エレナとアメリアの分をまとめて払ったら、お土産にレープクーヘンをケーキの箱一杯に貰った。
折角なので、皆で一個ずつ食べた。
「このミニケーキ? みたいなレープクーヘン、スパイシーね…シナモンと胡椒かしら?」
「ジンジャーだわ…そっちは?」
とエレナとアメリアが護衛騎士達と話している。
「この後はどうする?」
ギルベルトが聞くと、マリミエドは一口かじったレープクーヘンを見つめながら言う。
「協力して下さる方を探さないと…」
「ユークレースかな」
そう言ってヒョイとそのレープクーヘンをマリミエドから奪い取って食べてギルベルトは馬車の中に箱を置く。
「あっ!食べ掛け…!」
「苦手な味だろう?リュミは子供だから」
クスクス笑いながらギルベルトが言い、マリミエドの手を取る。
「では聖魔塔に向かおうか」
「…酔わないかしら…」
「2回目だから慣れてきてるさ」
そうギルベルトが言うと、マリミエドはやっと馬車の中に入る。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

幼なじみで私の友達だと主張してお茶会やパーティーに紛れ込む令嬢に困っていたら、他にも私を利用する気満々な方々がいたようです

珠宮さくら
恋愛
アンリエット・ノアイユは、母親同士が仲良くしていたからという理由で、初めて会った時に友達であり、幼なじみだと言い張るようになったただの顔なじみの侯爵令嬢に困り果てていた。 だが、そんな令嬢だけでなく、アンリエットの周りには厄介な人が他にもいたようで……。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

崖っぷち令嬢の生き残り術

甘寧
恋愛
「婚約破棄ですか…構いませんよ?子種だけ頂けたらね」 主人公であるリディアは両親亡き後、子爵家当主としてある日、いわく付きの土地を引き継いだ。 その土地に住まう精霊、レウルェに契約という名の呪いをかけられ、三年の内に子供を成さねばならなくなった。 ある満月の夜、契約印の力で発情状態のリディアの前に、不審な男が飛び込んできた。背に腹はかえられないと、リディアは目の前の男に縋りついた。 知らぬ男と一夜を共にしたが、反省はしても後悔はない。 清々しい気持ちで朝を迎えたリディアだったが……契約印が消えてない!? 困惑するリディア。更に困惑する事態が訪れて……

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

処理中です...