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第二幕 回避の為=世界の為
vs21 白い蛇
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その中でギルベルトはマリミエドをエスコートして、奥のテーブル席の椅子に座らせた。
「一体何があって踊る事になったんだ?何か酷い事でも言われたか?目が赤い」
「あ…その…中庭で王太子殿下にお会いして、それで…怒ったらまた駄目になると思って泣き真似をしたら本当に泣いてしまって…」
「大丈夫か?ほら…」
ギルベルトはハンカチを出して水を染み込ませてマリミエドに渡す。
マリミエドは目元にハンカチを当ててシャンパンを口にした。
「…あんな殿下、初めて見た気がしますわ」
「…いつもと変わらぬように思えるがね」
マリミエドからは優しく穏やかに見えるが、ギルベルトからはいつもと同じだった。
「まあいい…リュミ、バッグは?」
「あっ!!ガゼボに置いたままですわ!」
慌てて立ち上がろうとするのをギルベルトが制する。
「天使の涙はバッグの中だね?」
「ええ…このネックレスが素敵だったのでつい…」
「それは誰からの贈り物かな?」
「フレーズベルグ令息ですわ。昨日のカフスのお礼に、と…ああ、盗まれていたらどうしましょう!」
「大丈夫さ。俺が風の封印を施したのを忘れたのかい?」
「あ……」
マリミエドはその言葉で落ち着きを取り戻す。
「ああ良かった…」
それならば、ダンスの終わった後に取りに行ける。
そう思った時に、拍手が鳴り響く。
マリミエドとギルベルトも拍手を送って、王太子と王女が2階へ行くのを見送ってから立ち上がった。
ギルベルトがマリミエドをエスコートしてガゼボに行くと、バッグの側に大きな白蛇が居た。
「!」
白い蛇は初代皇帝、シャルル・ノワル陛下の友人とされているので、手出しは許されないのだ。
ギルベルトがマリミエドを下がらせて様子を窺う。
すると白蛇はバッグからメモ帳を引っ張り出して椅子の上に置く。
そしてその上に小さな枝を置いてこちらを見た。
「…この蛇…まさか、あの時の…!」
ギルベルトは昔を思い出す。
ーーー5年前。
朝起きたら、本の上に白い蛇が居た。
そいつは何故か小枝を咥えていて、本の上に小枝を置いてスルスルと去っていった。
〝調べろ〟
そんな一文が強調されるように見えた。
すると何故か、急にマリミエドと自分は血が繋がっていないのではないか、と思ったのだ。
そうしたら結婚が出来るーーー。
『その枝で針を作ればいいよ、痛くないから』
そんな風の精霊の声がして、その枝で針を作って血の採取を行ったのだ。
確かに突いても痛くなかったので、その針でマリミエドの指からも採取を行っている…。
その時の白蛇と同じ金色の眼をしていた。
見ていると、白蛇はメモ帳をめくって小枝を置いて、スルスルと去っていく。
「一体…」
ギルベルトとマリミエドが覗いて見ると、〝宝物殿の2階〟が強調されているように見えた。
するとギルベルトは、何故か分からないがアルビオンやベルンハルトといった昨日のメンバー全員に贈り物をしなければならないと思った。
『それでペン先を作って贈ったらどうかな?』
やはり風の精霊が言う…。
「ペン先はいいアイディアだな。ついでだから王太子や第2王子の分も作ろうか」
一人呟き、ギルベルトは風でペン先を作り出していく。
「お兄様…?」
マリミエドは不思議に思いながら見つめていた。
自分には風の精霊の声は聞こえないし、何か作りたいとも思わないのだ。
〈宝物殿の2階に何かあるのかしら…〉
マリミエドは考えながら兄を見る。
サッと作り上げると、ギルベルトは笑顔で言う。
「これを友人達に配るから少し待っていてくれ」
「はい」
マリミエドが座ってバッグを確認して片付ける間に、ギルベルトは両手を胸の前で広げて透き通った〝風の蝶〟を作り出す。
その蝶々にペン先を一つずつ持たせて、贈りたい者の元まで飛ばした。
蝶々はそれぞれの方向に飛んでいく。
王太子と第2王子の元ーーー
アルビオンの元ーーー
ベルンハルトの元ーーー
クリフォード、ユークレース、レアノルド、シリウス、ライアンの元にーーー。
蝶は目的の人間の手で消えて、手元にペン先が刺さった。
チクッとしてペン先を見ると、文字が浮かび上がる。
〝因果律を壊せ〟
その文字を見て、何故か全員が狩猟大会を思い浮かべた。
狩猟大会の場所は、王家所有の秘境…。
それしか浮かばない。
それぞれハッと我に返り、ペン先はギルベルトからの贈り物と認識してポケットにしまった。
ギルベルトも我に返って小首を傾げながらマリミエドの側に行く。
「天使の涙はあっただろう?」
「ええ。先程はどうされたのですか?」
「さて……風の悪戯…かな」
分からないのでそう答えて、ギルベルトはマリミエドと共に中へ入った。
「一体何があって踊る事になったんだ?何か酷い事でも言われたか?目が赤い」
「あ…その…中庭で王太子殿下にお会いして、それで…怒ったらまた駄目になると思って泣き真似をしたら本当に泣いてしまって…」
「大丈夫か?ほら…」
ギルベルトはハンカチを出して水を染み込ませてマリミエドに渡す。
マリミエドは目元にハンカチを当ててシャンパンを口にした。
「…あんな殿下、初めて見た気がしますわ」
「…いつもと変わらぬように思えるがね」
マリミエドからは優しく穏やかに見えるが、ギルベルトからはいつもと同じだった。
「まあいい…リュミ、バッグは?」
「あっ!!ガゼボに置いたままですわ!」
慌てて立ち上がろうとするのをギルベルトが制する。
「天使の涙はバッグの中だね?」
「ええ…このネックレスが素敵だったのでつい…」
「それは誰からの贈り物かな?」
「フレーズベルグ令息ですわ。昨日のカフスのお礼に、と…ああ、盗まれていたらどうしましょう!」
「大丈夫さ。俺が風の封印を施したのを忘れたのかい?」
「あ……」
マリミエドはその言葉で落ち着きを取り戻す。
「ああ良かった…」
それならば、ダンスの終わった後に取りに行ける。
そう思った時に、拍手が鳴り響く。
マリミエドとギルベルトも拍手を送って、王太子と王女が2階へ行くのを見送ってから立ち上がった。
ギルベルトがマリミエドをエスコートしてガゼボに行くと、バッグの側に大きな白蛇が居た。
「!」
白い蛇は初代皇帝、シャルル・ノワル陛下の友人とされているので、手出しは許されないのだ。
ギルベルトがマリミエドを下がらせて様子を窺う。
すると白蛇はバッグからメモ帳を引っ張り出して椅子の上に置く。
そしてその上に小さな枝を置いてこちらを見た。
「…この蛇…まさか、あの時の…!」
ギルベルトは昔を思い出す。
ーーー5年前。
朝起きたら、本の上に白い蛇が居た。
そいつは何故か小枝を咥えていて、本の上に小枝を置いてスルスルと去っていった。
〝調べろ〟
そんな一文が強調されるように見えた。
すると何故か、急にマリミエドと自分は血が繋がっていないのではないか、と思ったのだ。
そうしたら結婚が出来るーーー。
『その枝で針を作ればいいよ、痛くないから』
そんな風の精霊の声がして、その枝で針を作って血の採取を行ったのだ。
確かに突いても痛くなかったので、その針でマリミエドの指からも採取を行っている…。
その時の白蛇と同じ金色の眼をしていた。
見ていると、白蛇はメモ帳をめくって小枝を置いて、スルスルと去っていく。
「一体…」
ギルベルトとマリミエドが覗いて見ると、〝宝物殿の2階〟が強調されているように見えた。
するとギルベルトは、何故か分からないがアルビオンやベルンハルトといった昨日のメンバー全員に贈り物をしなければならないと思った。
『それでペン先を作って贈ったらどうかな?』
やはり風の精霊が言う…。
「ペン先はいいアイディアだな。ついでだから王太子や第2王子の分も作ろうか」
一人呟き、ギルベルトは風でペン先を作り出していく。
「お兄様…?」
マリミエドは不思議に思いながら見つめていた。
自分には風の精霊の声は聞こえないし、何か作りたいとも思わないのだ。
〈宝物殿の2階に何かあるのかしら…〉
マリミエドは考えながら兄を見る。
サッと作り上げると、ギルベルトは笑顔で言う。
「これを友人達に配るから少し待っていてくれ」
「はい」
マリミエドが座ってバッグを確認して片付ける間に、ギルベルトは両手を胸の前で広げて透き通った〝風の蝶〟を作り出す。
その蝶々にペン先を一つずつ持たせて、贈りたい者の元まで飛ばした。
蝶々はそれぞれの方向に飛んでいく。
王太子と第2王子の元ーーー
アルビオンの元ーーー
ベルンハルトの元ーーー
クリフォード、ユークレース、レアノルド、シリウス、ライアンの元にーーー。
蝶は目的の人間の手で消えて、手元にペン先が刺さった。
チクッとしてペン先を見ると、文字が浮かび上がる。
〝因果律を壊せ〟
その文字を見て、何故か全員が狩猟大会を思い浮かべた。
狩猟大会の場所は、王家所有の秘境…。
それしか浮かばない。
それぞれハッと我に返り、ペン先はギルベルトからの贈り物と認識してポケットにしまった。
ギルベルトも我に返って小首を傾げながらマリミエドの側に行く。
「天使の涙はあっただろう?」
「ええ。先程はどうされたのですか?」
「さて……風の悪戯…かな」
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